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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。
第三十八幕 ライトとラッヘン
しおりを挟む「よ、ようやく……一人になれた」
あの後、和也はライラを宥めるがそれを見守っていたベイラントとイザベラにからかわれてしまいライラが拗ねるという展開が何度も繰り返されたため予定が大幅にずれてしまった。
で、ようやく開放されたのが円卓会議が終了してから一時間が経過した後だった。
憂鬱な気持ちを何とか払いのけ人気が無いところを探す和也。
「ここで良いか」
目に付いた部屋の扉は他の扉とまったく同一の物。しかし中に入ってみるとまったく掃除されて居らず、埃塗れの部屋だった。
「なんだここは?」
思わず口にする和也だが、すぐさま扉を閉める。
カーテンも締め切られ真っ暗闇の一室に一つの明かりが灯る。
「ライト」
短縮詠で呟かれた光属性初級魔法はLEDライトのように白く輝き真っ暗闇の一室を照らす。
「さて、それじゃ始めるとするか。解除」
足元から突如出現した粒子は和也を包み込む。
僅か数秒後、そこには和也の姿は無く、そこには千夜の姿があった。
「この姿も久しぶりだな」
感触を確かめるように掌を開いたり閉じたりを繰り返す。
「出でよ、我が眷属、影の道化師」
千夜のスキルの一つ、魔物生成によって生み出された魔物、いや魔人と言うべき魔物は魔方陣も無く、その場に出現すると跪いていた。
「何なりとご命令を創造主様」
魔人は笑みを浮かべ星が描かれた仮面を身につけていた。
「影の道化師。お前に名を与える」
「有難き幸せ」
「お前の名前は『ラッヘン』これからはそう名乗れ」
「畏まりました。それで私は何をすれば良いのでしょうか創造主」
「お前は今すぐ誰にも気づかれること無くレイーゼ帝国帝都ニューザに向かい、俺の大切な妻達とオールリキュールで働く者たちを守ることだ。人手が足りないようなら、グレータースケルトンやスケアクロウたちを使っても構わない。それと出来るだけ戦闘は避けろ。判断しにくい時は念話で聞いて来い」
「畏まりました」
千夜が閃いた対処法は己が持つスキル、魔物生成を使い影武者を帝都に送り込む事だった。
「それと、俺が許可するまで千夜の姿で行動しろ。いいな?」
「畏まりました」
どこか最後の了承だけ弾んだ声をしていた気がする千夜であったが、気にすることなく影の中へと消えていくラッヘンを見送るのであった。
「さて、一応報告だけしておくか」
懐から三枚の封筒を取り出した千夜は現在までの進行報告と間者が帝都に紛れ込んでいる事を書き綴り送るのだった。
「あとは神のみぞ知るって所か」
最後の呟きとともに再び粒子が千夜を包み込む。
数秒後、そこには和也の姿に戻っていた。
「持っていないスキルを使うとき一々元の姿に戻らないといけないのは面倒だな」
魔法を解除した和也は人が居ない事を確認してから部屋を出ると、再び真っ暗闇の一室に戻り静寂が支配するのであった。
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