鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第三十九幕 龍と虎

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 時は少し遡り。
 千夜がフィリス聖王国へと旅たって二ヶ月。
 帝都にて留守番中のエリーゼたちは時々送られてくる千夜から手紙が楽しみの一つとなっていた。
 そして今日もまた千夜の居ない日常が始まる。
 千夜居ない間する事は幾つもある。冒険者として依頼をこなし、オールリキュールを視察し、暇な時間帯は自主訓練を行ったりと何時如何なる時千夜が戻ってきても心配かけないよう心がけているのだ。
 今日もまた冒険者として依頼をこなすべくギルドへと来ていたエリーゼ、クロエ、ミレーネ、エルザ、タイガーの五人組。最初はタイガーが同伴することを反対していたエルザだが、千夜が残した置手紙にタイガーも同伴させることと書かれており、断念したのだ。そのため冒険者として活動する間ラムは屋敷の手伝いをして日々戦闘メイドになるべく頑張っているのだ。
 そんな五人組は高ランクの依頼が貼られている掲示板の前で呻いていた。
 理由はただ一つ。

「またなのね」
「そうみたいですね」
「依頼が無いのは辛いのじゃ」
「これもあの勇者共がSランクになるのが悪いんです」
「………」
 女性陣から洩れる言葉にタイガーは呆れるしかなかった。
 確かに勇治たちは見事Sランクになることが出来た。そのため高ランクの依頼をこなし更なる強さを手に入れようと切磋琢磨を続けている。しかしそれがエリーゼたち『月夜の酒鬼』の邪魔になっているかと言われればそうではない。
 千夜たちが新婚旅行に行っている間高ランクの依頼がギルドに舞い込んできた。しかしタイガーは緊急依頼以外は受けていない。理由はそれが千夜からの命令だったからだ。
 そのため新婚旅行から戻ってきた時には(これから入ってくるだろう予測も踏まえて)数ヶ月はこなせるだけの高ランクの依頼はあったのだ。
 しかし千夜が一人で旅立ってしまった事への不満を晴らすべく異常とも言える速度で依頼をこなして行ったのだ。けして勇治たちのせいではない。確かにあった依頼のうち2、3個は勇治たちが達成したがそれ以外はすべてエリーゼたちがこなしたのだ。
 その時の事を思い出すタイガーは今でも思う。
(あれほどの高ランクの魔物に同情する日が来るとは思わなかったぞ)
 助太刀する暇も無くただ観戦していたタイガーはあれほど悲惨な現場は闇組織にいた時でもそうそう見られるものではないと未だに思うのであった。

「奥方、これからどうされますか?」
「そうね。依頼が入っていると思って来てしまったものね」
 困った表情で掲示板を見つめるエリーゼ。そんな彼女に声をかける者いた。

「エリーゼお姉様?」
「ん? セレナじゃない。それに勇者の皆様まで。今日はどうしたの?」
「はい。勇者様方が依頼を受けるらしく、ここまで同行したのです」
「そうだったのね。でも残念ね。依頼は受けられないわ」
「それはどう言う意味よ」
 善意で教えたエリーゼの口調が気に入らなかったのか真由美が食って掛かる。

「そのままの意味よ。Sランク以上の依頼が一個も無いのよ。別にAランク以下の依頼を受けて良いけど、そんなことしたら他の冒険者の迷惑になるでしょ。ま、そんな周りの事も考えずに依頼を受けたいのならどうぞご勝手に」
 エリーゼもまた棘のある言い回しで真由美を挑発する。

「へぇ………」
 美人の額に青筋が目立つ。
 一触即発状態となってしまった勇者と月夜の酒鬼。
 高ランク冒険者同士の睨み合いほど迷惑なものはない。エリーゼと同じように睨むエルザとクロエ、爽やかな笑みは浮かべてはいるが瞳は完全に濁っているミレーネ。
 それに対し怒りで睨みつける勇者一同。
 そんな二つのクランを眺めて慌てふためくセレナと呆れて嘆息するタイガー。

「いい加減にしてください!」
 そんな龍と虎に接近し叱る存在がいた。

「これはマキ殿」
 それはこのギルドで受付嬢として働くマキだった。

「あなた達が仲が悪いのは前からしていましたが、他の冒険者の皆様に迷惑をかけるようなら出入り禁止にしますよ!」
 完全にお怒りモードのマキの言葉に言い返す言葉も無い龍と虎は一瞬睨みあうと直ぐに近くのテーブル席に座るのだった。
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