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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。
第四十二幕 情報交換と使者
しおりを挟む三日月の剣騎強化訓練が始まり外周20周(一周あたり、1.2キロ)を終えた騎士達はライラ、和也の前できちんと整列していたが肩で息をしていた。
「これより、基礎訓練を行う。まずは腕立てだ」
「「「「「「はっ!」」」」」」
和也の指示に全員が等間隔に腕立てが出来る距離に開くと地面に手をつく。
和也もまた腕立ての体勢になる。
「1!」
「「「「「「1!」」」」」」
「2!」
「「「「「「2!」」」」」」
「3!」
「「「「「「3!」」」」」」
和也の号令を復唱しながら腕立てを始める騎士たち。走ったばかりで体力も回復していないなか始まった基礎トレーニング。炎天下の中、数千人もの男達が腕立てを行う姿は暑苦しさを通り越して圧巻ですらあった。
「86!」
「「「「「「86!」」」」」」
「8――」
「三日月の剣騎、大隊長ライラ様、副隊長カズヤ殿、宜しいでしょうか?」
一人の騎士が突然遣って来た。
「どうした?」
「訓練を中断してしまい、申し訳ありません。教皇様が緊急の要件があるとの事で」
「教皇様が……分かった。直ぐに向かう。カズヤ行くぞ」
「分かった。お前達は腕立てを200回したのち、腹筋200回、背筋150回、スクワット300回したら休憩するように」
「「「「「「はっ!」」」」」」
突然の呼び出しに和也は思考を駆け巡らす。
(いったい何事だ。まさかまた魔族軍が攻めてきたのか? いや、それならヴァイスに呼ばれる理由はない。ではなんだ? ラッヘンはすでに帝都に到着している。その事か? 考えても仕方がないな)
汗を拭い、身奇麗にした和也はライラを追従する形で謁見の間へと再び訪れた。
謁見の間には教皇ヴァイスと七聖剣第一席のレイ、フーリッシュ枢機卿の姿はあったが他の者たちの姿は無かった。
「ただいま参りました。教皇様」
「うむ、突然呼び出してすまなかった。して、今回お主たちを呼んだのは他でもない。お主たちに使者としてレイーゼ帝国に行って貰いたいのだ」
ヴァイスの言葉に跪き絨毯を見つめていた和也の目が見開かれる。
(レイーゼ帝国にだと)
「使者でございますか?」
「そうだ」
和也の動揺など知る由もないライラとヴァイスの二人の会話はスムーズに進行していく。
「最近魔族の動きが活発になってきよる。よって他国と連携し、情報交換を行う事となった。多種族との共存を進言する愚かな国ではあるが、他国の移動時間を考えるといたし方がないのだ。すまぬが引き受けてくれるか?」
「はっ! お受けいたします」
「そうか、頼んだぞ。して、今回の情報交換を行うにあたってお主たちには別の任務を与える」
「………」
いったいどのような内容なのか聞き返す事無くただ無言でヴァイスの言葉を待つ。
「一つは出来ればでよいが勇者殿を我が国に連れてきて欲しいのだ。もう一つはXランク冒険者『漆黒の鬼夜叉』が帝都に帰還したと情報が入った。隙あらば暗殺してきて貰いたい。勿論不可能と判断したら実行しなくてよい」
「はっ! このライラ・オネスト謹んでお受けいたします」
「そうか。頼んだぞ」
こうしてレイーゼ帝国に行くこととなった和也はこれから起こるであろう波乱の再開に憂鬱になるのであった。
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