鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

文字の大きさ
157 / 351
第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第四十三幕 止めると何なんだ!

しおりを挟む

 フィリス聖王国の使者としてレイーゼ帝国に行くこととなってから数日。
 王都西門に数名の騎士が集結していた。
 そのなかにはライラと和也の姿もあり、使命感に溢れる大隊長に対して、平静を装っているが憂鬱な雰囲気を漂わせる副隊長と両極端な二人が先頭に立っていた。
(来てしまった……)
 人間とは好きなことをしていると無意識に集中しているため時間の経過を早く感じる生き物だ。また、嫌な事をしている時は集中出来ていないため時間の経過が遅く感じる。しかし、嫌な事が始まるまでの時間は逆に早く感じるため、どうしても憂鬱な気持ちになってしまうのだ。
 そんな人間を代表するかの如く、和也の背中はいつも以上に猫背になっていた。

「どうしたのだカズヤ、随分と元気が無いが」
 そんな和也を見かねてかライラがほんの僅だが不安を含んだ声音で問いかける。

「いや、大丈夫だ」
 麗しき女性の前でみっともない姿を見せられないという見栄なのか、上司の信頼を失いたくないという痩せ我慢なのか、はたまた本心を悟られたくないという、私情なのかは分からないが、和也ははぐらかす。

「そんな風には見えないぞ。カズヤは私の部下なのだ。部下の悩みを解決するのも大隊長の役目だ」
 自信気に答えるライラだが、これ程信頼のない言葉も無いな。と内心和也は思うのである。が、
(気分転換には良いかもな)
 気まぐれとしか言いようがない。
 本心で気晴らしにでもなればいいやと、水滴自暴自棄を混ぜ合わせた思いで和也は口を開く。

「分かった、話すよ。正直レイーゼ帝国には行きたくない」
「何故だ? 教皇様直々に賜った任務だぞ。これ程名誉な任務にも拘わらず、何故だ?」
「レイーゼ帝国には勇者が居るからだ」
「そうだったな……」
 勇者という単語で理解したライラもまた何処か悲しげな表情を浮かべる。勿論ライラと勇者の間に問題があるわけではない。それどころか今回が顔合わせになるのだから。
 しかし和也は違う。前世界で起こった事件がきっかけで勇者たちと和也の間には大きな溝が生じていた。それは深淵にも続く大きな溝が。
 ライラはその事を魔族軍撃退後、仮設テントにて教えられた事を鮮明に覚えている。
 聞いた内容、そしてその時和也が浮かべていた儚げでこのまま消えてしまいそうな表情も。

「その……なんだ……やはり仲直りは……出来ないのか……」
「無理だ……俺の自業自得だったとしても生理的に彼奴らを受け付けない。もしも彼奴らを勧誘するのなら、悪いが俺は騎士を止める」
「っ! そこまで……」
 考える以上に和也の傷の深さにライラはどうして良いのか分からなくなる。が、それ以上にライラの心は揺さぶられていた。
(勇者たちを勧誘すれば、カズヤは居なくなる。私の前から…………………嫌だ)
 初めて感じる胸を貫かれたような苦痛。
(どうしたのだ私は。この程度の事で悩む事など無かった筈だ。私は七聖剣第四席ライラ・オネストだぞ。教皇様より直々の任務。これほど七聖剣として、騎士として誉れな事など無い。だが、どうしてだ…………カズヤが私の前から居なくなる。考えるだけで胸が苦しい。これはいったいなんなのだ!)
 初体験の出来事に戸惑いと苛立ちを隠せないライラ。
(私はどうしたら…………そうだ。私ただ任務を果たすだけ、しかし、異世界の勇者が必ずしも我が国に来るとは限らない。任務は実行はする。が、もしかしたら成功しないかもしれないからな)
 ライラは結論に至った。しかしその考えが完全に私情になっている事に本人は気づいていない。
(それよりも、今は)

「カズヤ」
「なんだ?」
「そんなに会いたくないのか?」
「会いたくない。というより俺が生きている事を知られたく無いだけだ」
「そうか………」
 思考の海に潜って数秒。

「なら、顔を隠したらどうだ?」
「どういうことだ?」
「仮面を被ったりしたらどうだと言っているのだ」
 打算的な考えだと嘲笑う者も居るだろう。が、仮面で顔を隠す。これ程今回に限って効果的な物はない。

「仮面か……良いかもな。ありがとうライラ」
「お、お礼されるような事ではない!」
 笑みを溢す和也の一言に凛々しさは崩壊し、可愛らしさが姿を表すのだった。

「こ、これよりレイーゼ帝国帝都に向かう。各自進行開始!」
 恥ずかしさを紛らわそうと号令を発するが、その声音は上擦っていた。
しおりを挟む
感想 694

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。