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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。
第四十三幕 止めると何なんだ!
しおりを挟むフィリス聖王国の使者としてレイーゼ帝国に行くこととなってから数日。
王都西門に数名の騎士が集結していた。
そのなかにはライラと和也の姿もあり、使命感に溢れる大隊長に対して、平静を装っているが憂鬱な雰囲気を漂わせる副隊長と両極端な二人が先頭に立っていた。
(来てしまった……)
人間とは好きなことをしていると無意識に集中しているため時間の経過を早く感じる生き物だ。また、嫌な事をしている時は集中出来ていないため時間の経過が遅く感じる。しかし、嫌な事が始まるまでの時間は逆に早く感じるため、どうしても憂鬱な気持ちになってしまうのだ。
そんな人間を代表するかの如く、和也の背中はいつも以上に猫背になっていた。
「どうしたのだカズヤ、随分と元気が無いが」
そんな和也を見かねてかライラがほんの僅だが不安を含んだ声音で問いかける。
「いや、大丈夫だ」
麗しき女性の前でみっともない姿を見せられないという見栄なのか、上司の信頼を失いたくないという痩せ我慢なのか、はたまた本心を悟られたくないという、私情なのかは分からないが、和也ははぐらかす。
「そんな風には見えないぞ。カズヤは私の部下なのだ。部下の悩みを解決するのも大隊長の役目だ」
自信気に答えるライラだが、これ程信頼のない言葉も無いな。と内心和也は思うのである。が、
(気分転換には良いかもな)
気まぐれとしか言いようがない。
本心で気晴らしにでもなればいいやと、水滴自暴自棄を混ぜ合わせた思いで和也は口を開く。
「分かった、話すよ。正直レイーゼ帝国には行きたくない」
「何故だ? 教皇様直々に賜った任務だぞ。これ程名誉な任務にも拘わらず、何故だ?」
「レイーゼ帝国には勇者が居るからだ」
「そうだったな……」
勇者という単語で理解したライラもまた何処か悲しげな表情を浮かべる。勿論ライラと勇者の間に問題があるわけではない。それどころか今回が顔合わせになるのだから。
しかし和也は違う。前世界で起こった事件がきっかけで勇者たちと和也の間には大きな溝が生じていた。それは深淵にも続く大きな溝が。
ライラはその事を魔族軍撃退後、仮設テントにて教えられた事を鮮明に覚えている。
聞いた内容、そしてその時和也が浮かべていた儚げでこのまま消えてしまいそうな表情も。
「その……なんだ……やはり仲直りは……出来ないのか……」
「無理だ……俺の自業自得だったとしても生理的に彼奴らを受け付けない。もしも彼奴らを勧誘するのなら、悪いが俺は騎士を止める」
「っ! そこまで……」
考える以上に和也の傷の深さにライラはどうして良いのか分からなくなる。が、それ以上にライラの心は揺さぶられていた。
(勇者たちを勧誘すれば、カズヤは居なくなる。私の前から…………………嫌だ)
初めて感じる胸を貫かれたような苦痛。
(どうしたのだ私は。この程度の事で悩む事など無かった筈だ。私は七聖剣第四席ライラ・オネストだぞ。教皇様より直々の任務。これほど七聖剣として、騎士として誉れな事など無い。だが、どうしてだ…………カズヤが私の前から居なくなる。考えるだけで胸が苦しい。これはいったいなんなのだ!)
初体験の出来事に戸惑いと苛立ちを隠せないライラ。
(私はどうしたら…………そうだ。私ただ任務を果たすだけ、しかし、異世界の勇者が必ずしも我が国に来るとは限らない。任務は実行はする。が、もしかしたら成功しないかもしれないからな)
ライラは結論に至った。しかしその考えが完全に私情になっている事に本人は気づいていない。
(それよりも、今は)
「カズヤ」
「なんだ?」
「そんなに会いたくないのか?」
「会いたくない。というより俺が生きている事を知られたく無いだけだ」
「そうか………」
思考の海に潜って数秒。
「なら、顔を隠したらどうだ?」
「どういうことだ?」
「仮面を被ったりしたらどうだと言っているのだ」
打算的な考えだと嘲笑う者も居るだろう。が、仮面で顔を隠す。これ程今回に限って効果的な物はない。
「仮面か……良いかもな。ありがとうライラ」
「お、お礼されるような事ではない!」
笑みを溢す和也の一言に凛々しさは崩壊し、可愛らしさが姿を表すのだった。
「こ、これよりレイーゼ帝国帝都に向かう。各自進行開始!」
恥ずかしさを紛らわそうと号令を発するが、その声音は上擦っていた。
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