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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。
第四十五幕 犬猿とテル
しおりを挟む帝都東門では現在注目を集める一団が検問前に道を塞いでいた。正確には検問を受けている最中であった。
けしてこの帝都で見かけることは少ない一団は商人や村人、冒険者、そして門兵からも嫌悪の視線を向けらる。
白銀の鎧に剣を覆う翼の旗を掲げた一団こそが今回フィリス聖王国から使者であった。
完全に犬猿の仲であるレイーゼ帝国とフィリス聖王国の実態を人目で分かる光景であった。
「確かに皇帝陛下の紋章入りだ。通ってよし」
使者と名乗ったとしても犬猿の仲である両国の民たちはどうしても疑い深くなってしまう。門兵も最初は疑っていたがライラが提示したベイベルグの名前と王家の紋章入りだったため、すんなりと門を潜る。
しかし、これはまだ優しい方である。ある検問では紋章入りだったとしても偽者だと嘘の罪を被せてその場で刺殺したり、尋問と言う名の強姦を行う所だってあるのだ。
すんなり通れたことに内心安堵する和也。しかし他の騎士達の反応は違った。
「亜人種風情が我々の任務の邪魔をするなど」
「まったくだ。獣臭くて堪らないな」
「おいおい、そんな事言ううなよ。低俗な亜人種どもに清潔がなにかなんて分からないんだからよ」
「それもそうだな」
馬鹿にし、蔑み、嘲笑う。そんな彼らの言葉に呆れる和也。
(本当に協力出来るのかよ)
「お前達いい加減にしろ」
「ライラ様、申し訳ありません……」
ライラの一喝に騎士達は叱られた子犬のようにしょぼくれる。
「お前達の気持ちも分かる。だが、どこで誰が聞いているか分からないのだ。こちらが不利になるような事は慎め」
「「「「「「はっ!」」」」」」
顔に出さないだけでライラもまた騎士達と考えは一緒だったことに和也は寂しく感じるのである。
「お待ちしておりましたフィリス聖王国の皆様。私は帝国軍西方面軍隊長のテル・トロワと申します。これより使者様を王城まで案内させて頂きます」
甲冑を着込んだ一人の男。その男の姿にライラたちの表情は険しさが増す。
幾つもの修羅場を潜り抜けたような風貌の男だが、人間ではない。黒の獣耳と尻尾を持つ獣人族。それも戦闘部族の一つである人狼族であった。
「これは出迎え有難く存じます。私は七聖剣が一人、ライラ・オネスト。今回教皇様の命によって参った所存。わずかな間ではあるが世話になる」
「いえ、魔族との戦なのです。こんな時だからこそ手を取り合わなければならないのです」
互いに笑みを浮かべて会話する。しかしこれは社交辞令であって本心など一切口にはしない。それが国にとって不利になると分かっているからだ。
だが、それが分からない馬鹿が一人居た。
「それにしてもこの国は獣臭くて堪らないな。一斉掃除しないと住めたものじゃないぜ。テル殿もそう思うでしょ?」
馬の上から見下す視線で呼びかける男。
「ほう、獣臭い。申し訳ありませんが生憎と私にはそのような臭いは感じられません。もしや騎士殿がお乗りの馬が粗相をしたのでは? すいませんが自分の愛馬の世話はしっかりとしていただきませんと、異臭を放たれては困ります。それとも騎士殿自身が粗相をされたのですか?」
「き、貴様! 聞いていれば亜人種風情が調子にのガッ!」
怒り狂った騎士は今にも剣を抜こうとするが、後頭部を殴られ気絶するのだった。
「副隊長いきなり何を!」
驚きのあまり他の騎士が問いかけるが、仮面の男は返答する事無く、馬から下りるとテルの前まで歩み寄る。それに対してテルも自然体に見えていつでも対処できるようにする。が、
「すまなかった」
仮面の男は腰を90度曲げて謝罪を口にするのだった。
「こ、これはいったい……」
流石のテルも驚きを隠せないのか返答に困る。
「部下が失礼な事を申し上げた。今後この様なことが無いよう指導しておく。どうかお許し願いたい」
「い、いえ、こちらも少し良い過ぎましたのでお互い様という事でよろしいではありませんか」
「本当にすまなかった。テル殿が寛大な心の持ち主で良かった」
「い、いえ。それでは案内いたします」
「頼む」
テルは自分の馬に乗り、王城まで先導を開始した。
「(副隊長どうしてあの様なことを!)」
「(そうですよ。亜人種風情に頭を下げる必要など)」
「(お前たち、まだ分からないのか)」
「(ライラ様、どういうことでしょうか?)」
「(カ……副隊長はそこで伸びてる愚か者に代わって謝罪したのだ。確かに使者は私だがそれを護衛するお前達もまた国を代表者なのだ。そんなお前達が不利になるような事を口にすればそれだけ教皇様が不利になり、愚か者扱いされるのだ)」
「「「「「っ!」」」」」
「(そうならないよう、副隊長が謝罪したのだ。分かったか)」
「「「「「(副隊長、ありがとうございます)」」」」」
「(いや、気にするな。悪いのは気絶しているこいつなんだからな)」
出来るだけ波乱にならないよう心がける和也だが、すでにその意思は折れかかっていた。
(ああ、行く先が思いやられるぜ)
億劫な気持ちを無理やり払いのけようとする和也であった。
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