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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。
第四十六幕 怪我と邪魔
しおりを挟む王宮へと遣って来たライラたちはベイベルグに挨拶をするべく、謁見の間にて跪いていた。
人間至上主義国家フィリス聖王国の騎士としては亜人種との共存を進言する者に跪きたくは無かったが、国の代表として品性を問われるわけにはいかなかった。
(面倒だな国同士の見栄っ張りってのは)
同じくライラの後方で跪く和也は仮面の下で欠伸をしながら終わるのを待つばかりであった。
(それにしてもなんであいつ等が居るんだ?)
貴族連中が並ぶ一番端に整列する勇者の姿に和也は憂鬱と苛立ちを覚える。普通は国に使える騎士でない限り謁見に参加することは難しい。しかし、後日行われる魔族対策会議にも出席するため参加を認められているのだ。
(魔王を倒す希望だからだろうな)
魔族との前面戦争になれば勇者が主役と言っても過言ではない。数多の敵を打ち倒し、その先で待ち受ける魔王を倒す。それが勇者の役目だ。その間各国は攻め入る魔族をひきつける役目なのだ。
(ま、ヴァイスたちが勇治たちを勧誘しろと言うのも頷けるな。勇者と魔王の戦い。小説や御伽話のように友情や愛といった憧れだけが全てじゃないからな。国としては王としては、その後が問題だろうな。もしも勇治たちが魔王を倒したとき、勇治たちがどこの国に所属しているかで国のバランスが変わってくる。威厳や権力といった力を求める偽政者ども。まったく面倒だ。さっさと任務を終わらせて屋敷でエリーゼたちと寛ぎたいぜ)
思考の海に深く潜っていた和也はライラたちの話を完全に聞き逃していた。
「魔族対策会議は明日だ。それまでゆっくりなされよ」
「心遣い感謝いたします」
互いに犬猿の仲であるためか重苦しい空気が漂う中ようやく終わろうとしていた。が、
「して、一つ聞きたいのじゃが」
「なんでしょうか?」
「お主の後ろで控える、そやつはどうして顔を隠しておるのじゃ?」
(ま、気になるのは無理ないが時と場所を選べよベルグ!)
任務遂行の邪魔を自ら犯すベルグの言葉に文句を言いたくなる和也だがグッと押し殺す。
「この者は私の補佐であり、部隊では副隊長を務めております。しかしながら故郷を魔物に襲われた際に顔に怪我をしたのです。あまりにも酷い怪我のため自ら仮面を被り周りを不愉快にさせないためだとカズサ申しております」
勇者が居る場所で名前を名乗る訳には行かないため偽名で通すことにした和也。勿論最初はライラに意見されたが面倒事にしたくないと言われ了承したのだ。
「ほう、そこまで酷いのか。なら、わが国の医術で見ても構わぬが?」
(少しでも恩を売っておくつもりか。アホかと最初は思ったがそうでもないんだな)
和也のために言っているにも拘わらず失礼な事を思うのである。
「お気遣い感謝いたします。しかし、カズサはこの傷を治したくないそうなのです。魔族の恨みを忘れないために」
「無粋だったようだな」
「いえ、お気持ちだけ受け取らせて頂きます」
ライラが代弁しているのは他の騎士に発言を許されていないためであった。しかし、それは和也にとって好都合でしかない。
(早く終わってくれ)
どんな状況であろうと自己中心的な少年は再び欠伸するのであった。
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