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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。
第五十一幕 地獄絵図とレナード
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最終防衛基地であり、都市ロアントを収める領主邸を後にした和也は今にも口から吐き出しそうになるほどの笑いを必死に堪えていた。
今この場には俺を知るものは誰も居ない。千夜として和也として知る者が居ない。
仮面を被るフィリス聖王国の人間という肩書きのみ。
それはつまり大量の獲物を狩る事が、強者との死闘が好きなだけ出来る。
その事だけが和也を、千夜を戦場へと駆り立て、高揚させる。
「さあ、始めようか」
戦闘音で掻き消された小さな呟きが今から魔族に死を振り撒き、絶望を与え、死屍累々の地獄絵図を作り出す合図となる事は敵である魔族も、味方である人間、エルフ、獣人たちは誰一人として知る事は無かった。
機嫌良く散歩するかの如く戦場の中心へと向かう和也は襲い掛かる魔族を容赦なく突き刺し、薙ぎ払い、死を与えていく。
そんな彼の表情は仮面によって隠されているため分からない。それが逆に魔族に疑念と不安と恐怖を植え付ける。
次から次へと多種多様な魔族が和也に襲い掛かるが音速を超える槍裁きに無残にも死んで逝く。
戦闘とも呼べるものではないが、戦闘を開始して数分から十数分の時間が経過した頃だろう。最終防衛基地を目指していた魔族の大半が和也によって命を落とした。その事に凶暴で醜悪な姿の魔族たちは完全に戦意喪失しており武器を投げ捨て逃げ去っていく。
「ア、アンナノガ、イルナンデ、ギイデナイゾオオォォ!」
知能を持ったオーガは100キロを超える金棒を落とし、泣け叫びながら逃走を謀ろうとするが、
「グガッ!」
一瞬にして背後まで接近した和也の一突きによって地面に倒れこむ。
「さて、次は誰だ?」
念のためにと槍先をオーガの頭蓋に突き刺しながら視界に入る敵を品定めを始める。
聞こえるはずの無い呟きではあったが、何を思っていたのか本能的に察知した魔族たちは、もう逃げることだけ、殺されないことだけ、死なないことだけを願い、祈りながら全力で走る。
強者が弱者に、獲物が狩猟者に変わった事に気づくのが遅かった者から次々と死んでいく。
速度を上げて、戦う、殺す、狩るペースを上げていく和也。
傍から見れば、戦闘狂、殺人鬼と思われても可笑しくは無い。だが、間違ってもいない。今の姿は変化スキルを使った仮初の姿。本当の姿は世界最強の鬼なのだから。
斬って、刺して、殴って、蹴って、薙ぎ払ってを繰り返す。ただただ己の中にある欲求を、本能を満たす事だけを考えて戦場を駆け抜ける。それはある意味無心とも言えなくもない。
そして気がつけば和也は都市の城門まで来ていた。
まだ、都市内には数百~千近い数の魔族が好き勝手に暴れまわっているだろう。
援軍が間に合う見込みもない現状では都市内に居る兵力のみで何とかするしかない。
城壁の外には敵の姿はたったの3人のみ。普通なら他の兵に任せて都市内に残る魔族の殲滅を優先する。
(きっとあいつ等ならそうするだろう)
ふと思い出したのは同じくこの世界に召喚された幼馴染たちの姿。
正義の為に都市内に戻るか、己の本能を満たすために目の前の3人と死闘を繰り広げるか。
和也はコンマ数秒で答えを出し、蒼槍を握り直し駆け出した。
********************
3人の魔人は船内の一室で優雅にお茶を楽しんでいた。
一人は男の魔人で、蒼い瞳と同じ色のショートヘア。特徴的なのが尖った両耳につけられたピアス。
男の魔人に凭れかかる二人の女性魔族。
一人は背中から大きな常闇のような黒く輝く翼を持つ女。
もう一人は小柄で紅い瞳の少女吸血鬼。
「ねぇ、レナード様ぁ~。寛ぐのでしたらベッドにいきましょうぉ~」
「マイラの言う通りです」
「俺達は戦争しに来ているんだぞ。俺達が出る必要が無いほど相手が弱小であろうと待機しておかないといけない。それぐらい二人とも分かるだろ」
「ですけどぉ~」
「分かってます。でも本当に私達が来る必要があったんですか?」
「一度侵攻ししたが、油断が原因で我々魔族は失敗した。そのことを踏まえてのことだとラインハルト様のお達しだ」
「四天王の一人であらせられるラインハルト様の命では仕方が無いですね」
「残念ですぅ」
レナードは四天王が一人ラインハルトの直属の部下の一人である。
もっと分かりやすく説明するならば、魔国を治めるのが魔王。
魔王の側近とも言われている4人の将軍、通称――四天王。
四天王には直属の部下が数千~万単位でおり、その中の副官3人が十二神将と呼ばれている。
十二神将にも直属の部下が居るが、大半は十二神将の上司である四天王の部下として扱われる。
ウラエウスは四天王では無いが、四天王と同等の力を備えており、所属は魔王直轄に部隊に属しているが、その事は幹部クラスしかしらない。そのため四天王の副官でも知らされていない。
「本当か定かではないが、あのウラエウスが勧誘しようとした冒険者でも現れてくれれば俺たちの出番があるかもな」
「あの自由人が負けて我が軍に勧誘しようとして断られたっていう噂の?」
「そうだ」
「所詮は噂ですよぉ~。それに自分が負けたからって普通勧誘なんてしないでしょ」
「確かに」
ソーナとマイラは嘲笑う。
「お前たちがウラエウスの事を嫌っているのは分かっているが、その実力は四天王の皆様と匹敵する。そんなウラエウスが負けたんだ。その事を忘れるなよ」
「「はい……」」
魔国は弱肉強食である。強者が支配し、弱者が従う。だからといって強者に対して尊敬や敬服するかといえば違う。
強弱はあれど、感情に流されやすいのはどの種族でも同じなのだ。
退屈しのぎに会話をしているところに部下の一人が慌てて室内に飛び込んできた。
「どうした?」
ソーナとマイラが怒鳴ろうと即座に判断したレナードは二人よりも先に問いかける。
「緊急事態です! 都市内に攻め込んでいた我が軍の半数が一人の槍使いによって殲滅され、逃げ延びた数人が逃げ帰ってきました! まだその者に気がついていないのか半数は都市内で戦闘中ではあります!」
「なに?」
報告内容に眉間に皺を寄せる。レナードからしてみれば部下たちは強くない。どちらかと言えば弱い分類に入る。しかし他の国の兵士より強いことも知っている。そんな部下約3000が一人の槍使いに殲滅されたのだ。状況判断を誤れば間違いなく戦況がひっくり返る状態に陥っていることにレナードは即座に理解した。
「分かった。帰ってきた者たちには休息を与えろ。ソーナ、マイラ、楽しい楽しい戦闘の時間だ」
「分かりました」
「レナード様とのイチャラブタイムを邪魔されたし、ちょっと本気でデスっちゃお~」
即座に準備を整えた三人は港へ降り立つ。
不敵な笑みを浮かべた側近二人を従えて男魔人は激戦が繰り広げられる都市へと歩き出す。
今この場には俺を知るものは誰も居ない。千夜として和也として知る者が居ない。
仮面を被るフィリス聖王国の人間という肩書きのみ。
それはつまり大量の獲物を狩る事が、強者との死闘が好きなだけ出来る。
その事だけが和也を、千夜を戦場へと駆り立て、高揚させる。
「さあ、始めようか」
戦闘音で掻き消された小さな呟きが今から魔族に死を振り撒き、絶望を与え、死屍累々の地獄絵図を作り出す合図となる事は敵である魔族も、味方である人間、エルフ、獣人たちは誰一人として知る事は無かった。
機嫌良く散歩するかの如く戦場の中心へと向かう和也は襲い掛かる魔族を容赦なく突き刺し、薙ぎ払い、死を与えていく。
そんな彼の表情は仮面によって隠されているため分からない。それが逆に魔族に疑念と不安と恐怖を植え付ける。
次から次へと多種多様な魔族が和也に襲い掛かるが音速を超える槍裁きに無残にも死んで逝く。
戦闘とも呼べるものではないが、戦闘を開始して数分から十数分の時間が経過した頃だろう。最終防衛基地を目指していた魔族の大半が和也によって命を落とした。その事に凶暴で醜悪な姿の魔族たちは完全に戦意喪失しており武器を投げ捨て逃げ去っていく。
「ア、アンナノガ、イルナンデ、ギイデナイゾオオォォ!」
知能を持ったオーガは100キロを超える金棒を落とし、泣け叫びながら逃走を謀ろうとするが、
「グガッ!」
一瞬にして背後まで接近した和也の一突きによって地面に倒れこむ。
「さて、次は誰だ?」
念のためにと槍先をオーガの頭蓋に突き刺しながら視界に入る敵を品定めを始める。
聞こえるはずの無い呟きではあったが、何を思っていたのか本能的に察知した魔族たちは、もう逃げることだけ、殺されないことだけ、死なないことだけを願い、祈りながら全力で走る。
強者が弱者に、獲物が狩猟者に変わった事に気づくのが遅かった者から次々と死んでいく。
速度を上げて、戦う、殺す、狩るペースを上げていく和也。
傍から見れば、戦闘狂、殺人鬼と思われても可笑しくは無い。だが、間違ってもいない。今の姿は変化スキルを使った仮初の姿。本当の姿は世界最強の鬼なのだから。
斬って、刺して、殴って、蹴って、薙ぎ払ってを繰り返す。ただただ己の中にある欲求を、本能を満たす事だけを考えて戦場を駆け抜ける。それはある意味無心とも言えなくもない。
そして気がつけば和也は都市の城門まで来ていた。
まだ、都市内には数百~千近い数の魔族が好き勝手に暴れまわっているだろう。
援軍が間に合う見込みもない現状では都市内に居る兵力のみで何とかするしかない。
城壁の外には敵の姿はたったの3人のみ。普通なら他の兵に任せて都市内に残る魔族の殲滅を優先する。
(きっとあいつ等ならそうするだろう)
ふと思い出したのは同じくこの世界に召喚された幼馴染たちの姿。
正義の為に都市内に戻るか、己の本能を満たすために目の前の3人と死闘を繰り広げるか。
和也はコンマ数秒で答えを出し、蒼槍を握り直し駆け出した。
********************
3人の魔人は船内の一室で優雅にお茶を楽しんでいた。
一人は男の魔人で、蒼い瞳と同じ色のショートヘア。特徴的なのが尖った両耳につけられたピアス。
男の魔人に凭れかかる二人の女性魔族。
一人は背中から大きな常闇のような黒く輝く翼を持つ女。
もう一人は小柄で紅い瞳の少女吸血鬼。
「ねぇ、レナード様ぁ~。寛ぐのでしたらベッドにいきましょうぉ~」
「マイラの言う通りです」
「俺達は戦争しに来ているんだぞ。俺達が出る必要が無いほど相手が弱小であろうと待機しておかないといけない。それぐらい二人とも分かるだろ」
「ですけどぉ~」
「分かってます。でも本当に私達が来る必要があったんですか?」
「一度侵攻ししたが、油断が原因で我々魔族は失敗した。そのことを踏まえてのことだとラインハルト様のお達しだ」
「四天王の一人であらせられるラインハルト様の命では仕方が無いですね」
「残念ですぅ」
レナードは四天王が一人ラインハルトの直属の部下の一人である。
もっと分かりやすく説明するならば、魔国を治めるのが魔王。
魔王の側近とも言われている4人の将軍、通称――四天王。
四天王には直属の部下が数千~万単位でおり、その中の副官3人が十二神将と呼ばれている。
十二神将にも直属の部下が居るが、大半は十二神将の上司である四天王の部下として扱われる。
ウラエウスは四天王では無いが、四天王と同等の力を備えており、所属は魔王直轄に部隊に属しているが、その事は幹部クラスしかしらない。そのため四天王の副官でも知らされていない。
「本当か定かではないが、あのウラエウスが勧誘しようとした冒険者でも現れてくれれば俺たちの出番があるかもな」
「あの自由人が負けて我が軍に勧誘しようとして断られたっていう噂の?」
「そうだ」
「所詮は噂ですよぉ~。それに自分が負けたからって普通勧誘なんてしないでしょ」
「確かに」
ソーナとマイラは嘲笑う。
「お前たちがウラエウスの事を嫌っているのは分かっているが、その実力は四天王の皆様と匹敵する。そんなウラエウスが負けたんだ。その事を忘れるなよ」
「「はい……」」
魔国は弱肉強食である。強者が支配し、弱者が従う。だからといって強者に対して尊敬や敬服するかといえば違う。
強弱はあれど、感情に流されやすいのはどの種族でも同じなのだ。
退屈しのぎに会話をしているところに部下の一人が慌てて室内に飛び込んできた。
「どうした?」
ソーナとマイラが怒鳴ろうと即座に判断したレナードは二人よりも先に問いかける。
「緊急事態です! 都市内に攻め込んでいた我が軍の半数が一人の槍使いによって殲滅され、逃げ延びた数人が逃げ帰ってきました! まだその者に気がついていないのか半数は都市内で戦闘中ではあります!」
「なに?」
報告内容に眉間に皺を寄せる。レナードからしてみれば部下たちは強くない。どちらかと言えば弱い分類に入る。しかし他の国の兵士より強いことも知っている。そんな部下約3000が一人の槍使いに殲滅されたのだ。状況判断を誤れば間違いなく戦況がひっくり返る状態に陥っていることにレナードは即座に理解した。
「分かった。帰ってきた者たちには休息を与えろ。ソーナ、マイラ、楽しい楽しい戦闘の時間だ」
「分かりました」
「レナード様とのイチャラブタイムを邪魔されたし、ちょっと本気でデスっちゃお~」
即座に準備を整えた三人は港へ降り立つ。
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