鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

文字の大きさ
183 / 351
第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第六十九幕 エリーゼとハット

しおりを挟む

 ハット。
 十二神将の補佐官の一人にして、唯一魔物生成スキルを魔族。ステータスだけでみれば、十二神将の中でも低いが知略、戦略、謀略などをおいて彼の右に出るものは居ない。
 ずば抜けた戦略を使い、魔物生成スキルで創り出した魔物たちを自由自在に操る力は厄介極まりないと言えた。
 ブラックウルフ、レッドボア、ロックマウス、ブラックバード、多種多様の魔物が一斉にエリーゼに襲い掛かる。
 低レベルの魔物を倒す事はエリーゼにとって朝飯まえだ。しかしその数が10や20であればだ。確認できるだけでも一種類50は居る。全部で500は居るのだ。

「まったく斬っても斬っても、切が無いわね」
 倒せば倒すだけで、地面からブラックウルフが、シルクハットからブラックバードなどが手品のように出現してくる。

「存分に堪能していってください」
 優しい微笑を浮かべるスーツ姿の男性。彼こそがハット。エリーゼが苦戦している相手だ。

「見た感じ力技で戦うタイプでは無いと思っていたけど、まさか魔物使いテイマーだったとわね」
「驚きましたか?」
「ええ。流石に貴方みたいな相手と戦うのは初めてだもの」
「そうですか。それは私とっては朗報ですね」
 冷や汗を垂らすエリーゼに対して、先ほどから一歩も動かないハットは喜びに笑みを浮かべた。

「さあ、戦いはこれからですよ。存分に楽しんでいってください」
 指を鳴らすのと同時に魔物たちが一斉にエリーゼ目掛けて襲い掛かってくる。
 迫り来る魔物たちに舌打ちしながら剣と魔法を屈指して次々と殺していく。
 斬り、焼き、突き、蹴り、己が考え付く戦い方で倒していく。しかし、魔物は一向に減る気配がない。


「はぁ……はぁはぁ……」
 あれからどれぐらいの時間が経過したかエリーゼには分からない。そんな事考える余裕すらない。

「貴方、しつこいと女に嫌われるわよ」
「ご忠告痛み入ります。ですが、何分貴女が頑張るのでこちらもムキになってしまいました。それももう終わりのようですが」
 返り血で紅く染まるエリーゼは肩で息をしていた。それを見て限界が近いと判断したハット。

「それはどうかしらね」
「そうですか。なら、まだ楽しんで結構ですよ」
 再び戦いが始まる。
(ここでは使いたくなかったけど仕方が無いわね)

「火魔法武装!蛇炎舞踏じゃえんぶとう!」
 千夜に貰った焔鬼に炎を纏わせる。しかし、これまでとは違い炎に自我が生まれ呼吸するかのようにうねる。

「燃やしつくせ!」
 焔鬼を振るえば、炎が伸び襲い掛かる魔物を燃やし灰と化す。まるで蛇炎が自ら喰らっているかのようだ。
 紅色の炎を操り、熱気を纏い、全てを燃やし尽くそうとする姿はまさに『火炎の剣姫』と呼ばれるに相応しい姿をしていた。

「これは驚きですね」
 目の前の光景に本音が漏れたのだろう。しかし、表情はいっさい変わっておらず、薄気味悪い笑みが浮かんでいた。
 それもその筈でこういった場面は何度も経験していた。そんな状況を切り抜け十二神将補佐という地位にまで上り詰めたのは彼が鍛錬に鍛錬を重ねて結果なのだ。
(魔国は弱肉強食の世界。生きるか死ぬかの世界。そんな世界に才能も努力も関係ない。あるのは強者か弱者か。それだけです)
 剣術や武術の才能に恵まれなかったハット。長所と言えるのは他より少し魔力量が多かった事と魔物生成スキルがあったことだけ。そんな彼が強くなる方法が頭を使った戦いだけ。
(どれだけ不利な状況であろうと表情を崩さない)
 それが十二神将サハフに最初に教わった事だった。相手に隙を与えない。好機だと思わせてはならない。そう言う意味だとハットは考えてから真顔か笑顔のどちらかで過ごすようになった。
 どれだけ強い相手に勝って嬉しくても、負けそうで混乱しているときであろうとサハフに教わった事を思い出し未だに笑みを浮かべる。
(次の魔物を出さないと)
 エリーゼが操る蛇炎が魔物たちを燃やし続ける姿に内心動揺が走る。圧倒的有利だった状況が一瞬にして不利になりつつあるからだ。
(あれだけの魔力と剣術、才能の塊ですね)
 妬ましくない訳が無い。悔しくないわけが無い。才能という一言でこれまで努力を否定されている気分になるのだから。
(だから私は負けない!)
 残り少ない魔力を全てを注ぎ込み100対の魔物を創造する。
(ちっ、まだ出てくる!)
 正直エリーゼにも余裕はない。火魔法武装はこれまでの鍛錬で使いこなせるようになった。しかし蛇炎舞踏は違う。未だに魔力制御が完璧ではない。常時高度の炎を放出し続けなければならない。それは魔力を放出する事と同じ。
(それに力加減がまだ掴めてないのよね)
 送り込み過ぎると己も焼かれそうになる。この魔法はまさにじゃじゃ馬と呼ぶべき魔法なのだ。
 先にエリーゼの魔力が尽きるか、ハットの魔物が尽きるかの勝負。
(あと少し!)
 これまで倒した魔物は優に1000を越えている。残りは100を切った。
 戦いももうじき終わりを迎えようとしていた時だった。

「っ!」
 突如、エリーゼに眩暈が襲い掛かる。
(こんな時に魔力欠乏症なんて)
 己の不甲斐無さに奥歯を噛み締めるが、身体に力が入らない。
 その隙にと一匹のブラックウルフが襲い掛かる。
(殺られてたまるか)
 渾身の力で焔鬼を天高く突き上げ、襲い掛かってきたブラックウルフを突き刺した。

『おめでとうございます。新たな称号、『不屈の精神』が貴女に贈られます』
 脳内に響いくアナウンス。それは頭痛を与えるだけだったが、エリーゼは気がついた時には不屈の精神を使っていた。

「なにが起きたの?」
 何がなんだか分からないといったエリーゼ。だが、

「これでまだ戦える」
 笑みを浮かべたエリーゼは襲い掛かる魔物を次々と斬り殺していく。
 そして、

「これで終わりよ」
「そのようですね」
「あら、最後は潔いのね」
「悔しいですが、ここから貴女に勝てる気がしませんし、何よりもう魔力がありませんんから」
「そう」
 最後の最後まで薄気味悪い笑みを浮かべたハットはエリーゼによって倒された。

「ようやく終わったわ」
 その場にへたり込むエリーゼ。

「それよりあれは何だったのかしら?」
 疑問を感じたエリーゼはステータスを開き新たな称号『不屈の精神』の詳細を開く。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

不屈の精神

効果
 HP,MPが50パーセント回復し、5分間の間ステータスが5倍になる。

忠告
 一日の使用回数は3回まで。
 残り2回

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「どうりで身体が軽く感じた訳ね」
 新たな称号に感謝しつつエリーゼは回復ポーションと魔力回復ポーションを飲む。

「何度飲んでも不味いわね」
 慣れない味に顔を顰めるのだった。

 
しおりを挟む
感想 694

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。