鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

文字の大きさ
208 / 351
第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第九十四幕 千夜と七聖剣

しおりを挟む
「久々に戻ったな」
 何度か本当の姿に戻ったが極僅かな時の間だけ。ようやく戻れた事に嬉しく感じた。
 だが、それは千夜だけ。周りの人間は驚きの表情を浮かべていた。

「お前は、漆黒の鬼夜叉!」
「この姿で会うのは久しぶりだな、偽善者」
 憎悪を宿した顔をしたエクスは今にも襲い掛かりそうになる。

「いや、ありえない!」
 目の前の光景が信じられないのかライラは混乱する。

「ライラ、どういう事だ?」
「魔族対策会議には私とカズヤが参加したんだ。その時に漆黒の鬼夜叉も居たからだ!」

「あれは俺の眷属だ。俺の消息が分からなくなったって謁見の間で言ってたからな。命令して俺の姿で過ごして貰っていた。でないと千夜が消えた時期と俺が現れた時期が重なる事で疑われたらお仕舞だったからな」
「なるほど。通りで人を殺す事にも躊躇いがないわけだ」
(いや、それは前世からだけどな)

「あれは全て嘘だったのか。お前がカズヤで勇者たちの元友人だって事も」
「嘘だ。俺は生まれた時から混合種だ。あれは勇者たちからの話を参考にして作っただけだ」
「なら、本が好きだってのも」
「あれは本当だ。本は色んな意味で好きだ。あの時間は何気に楽しかった」
「では、私がお前を勧誘した時――」
「あれは、俺のミスだ。本当なら年に2度行われてる兵士募集試験に参加するつもりだったが、この国に来る前にファブリーゼ皇国で遊び過ぎてな。だから冒険者で活躍すればきっと勧誘して来るだろうと思っただけだ」
「つまり全てお前の思惑通りと言う事か?」
「そうだ。ライラありがとうな。お前のおかげで依頼が達成出来たんだから」
 相手を見下し、馬鹿にするような笑みを浮かべる千夜。別に本心で思っている訳ではない。この国を去るなら未練なく去りたいだけである。それは自分だけでなく相手からの未練も。
(俺が予想していたよりもライラからの信頼は大きかったからな。精神的にダメージは大きいだろうが、恨まれて未練がなくなるなら構わない。まったく誰かのために悪役を演じる奴らって凄いな。これほど疲れるんだから)
 前世で漫画やアニメなどで誰かを守る為、救うために悪役を演じた人物たちに賞賛しながら蒼槍を収納し代わりに愛刀の夜天斬鬼を取り出す。

「………許さない………許さない……お前だけは絶対に許さないぞ!」
「ちっ!」
 怒りで我を忘れたライラは手に持っていた聖槍グングニルで千夜を突き殺そうとする。それを見ていたレイは思わず舌打ちするが、直ぐに頭を切り替え戦いに参戦する。それは他の八聖天。いや、七聖剣の者たちも同じだった。
 こうして千夜VS七聖剣の戦いが始まった。
(分かっていた事だから仕方がないが、どうするかな。殺しても良いが国際問題になったり………ないな。証拠が俺の手元にまだある以上、国際問題になる事はないな。でも殺したら魔族対策が色々面倒になりそうだからな。仕方がない。殺さずに戦うか)
 全方位から襲い掛かる七聖剣たち、それぞれの手には教皇から与えられたであろう聖剣や聖槍が握られていた。しかし、千夜にとってそんな事は関係ない。武器の強さも確かに重要ではあるが、千夜が一番警戒するのは相手の実力である。
 全員が存在進化を果たしたハイヒューマンである事には変わりはない。だが千夜にとっては些細な事。ウラエウスに比べればまだまだである。
(あいつはこの世界では本当の意味でチートだからな)
 夜天斬愧を抜く事無く千夜は体捌きだけで全員の攻撃を躱す。
 だが、一度躱された程度で諦める七聖剣ではない。何度も何度も攻撃する。しかし、それを全て躱す。死角から攻撃しようが、連携しようが、魔法で気を逸らそうが、フェイントを掛けようが関係ない。全て躱す。その姿は舞い踊って居るかのようだったが、ライラたち七聖剣たちからしてみれば馬鹿にされているようにしか感じなかった。
 戦いが始まって20分が経過したころ、ようやくライラたちの動きが一旦止まる。
 怒りでペース配分を忘れていたのかライラとエクスを先頭に何人かの七聖剣は肩で息をしていた。そこまで呼吸が荒くないのは第一席のレイのみ。

「もう終わりか?」
 夜天斬鬼を担ぎ視線を全員に向ける。だが、その態度が七聖剣メンバーを苛立ちを覚えさせる。

              ******************************

 憮然とした態度で立つ目の前の混合種。その強さにレイは驚きを隠せなかった。
(なんて強さだ。これがXランク冒険者漆黒の鬼夜叉の強さなのか。これまで噂や部下からの報告を耳にしたが大半は眉唾物、尾ひれがついただけの物だと思っていた。勿論Xランクに選ばれる程の人物だ、強い事は分かっていた。それでも我々七聖剣数名で戦えば勝てると思ったが甘かった。全員で攻撃しても掠り傷付けられない処か半径2メートルの園内から奴を動かす事すら出来ないとは)
 目の前に立つ男は笑みを浮かべる処か面倒臭そうな顔をしていた。
(いったいどれだけ強いんだこの男は。だが危険な存在なのは確かだ。ここでころしておかなければフィリス聖王国の未来はない)
 レイは改めて剣を握る拳に力を込める。
(せめてこの一撃さえ決まれば勝機が見えて来るんだが)
 レイの手に握られた剣、それは聖剣エクスかリバー。ゲームや小説、漫画ではテンプレの武器にして1、2を争う強力な武器。
(もしも躱されれば被害は免れない。この訓練所どころか城が壊れる)
 失敗した時の事を考えてしまうレイ。それは誰にだってあること。それを如何に乗り越えられるかが強くなる秘訣の一つである。その事は勿論レイも分かっていた。それでも不安になってしまうのだ。
しおりを挟む
感想 694

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。