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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。
第九十三幕 本当の姿へと戻る
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数分して訓練所へ遣って来た和也はライラに問う。
「で、これはいったいどういう事だ?」
「………」
和也の問いに対してライラは何も発しない。ただ悲しげな表情のまま視線を逸らすだけだった。
和也が問いたかった事。それは和也を囲むように。正確には和也を除いた八聖天が包囲し、離れた場所にはヴァイスとフーリッシュが立っていた。
「それに問いには俺が答えよう」
和也の質問に口を開いたのは八聖典第一席のレイだった。
「お前には疑惑が掛けられている」
「疑惑? なんのだ?」
「諜報員としてのだ」
「なるほど。だが疑惑って事はまだ疑っている段階って事だろ?」
「そうだ。だから正直に答えて欲しい。お前ほど優秀な存在はいないからな」
「それはどうも……」
(さて、どうしたものか。任務は果たしたし正体がバレても良いが、あとあと面倒になりそうではあるからな。でもまずは)
『ハクア、何している』
『どうしたのカズヤ?』
『傍にギンは居るか?』
『ええ、お茶してた所よ』
『緊急事態だ』
『何があったの?』
『諜報員としての容疑を掛けられている』
『まさかバレたの?』
『いや、正確には疑惑と言った方が正しい』
『つまり疑われてるって事ね』
『そうだ。だからお前たちはこの隙にこの街から脱出しろ』
『カズヤはどうするの?』
『俺は自分で何とか出来る』
『そう、解ったわ。教えてくれて有難う。貴方が魔族なら好きになっていたかもね』
『それは残念だな。ま、来世に期待するよ』
『バカね………絶対に生き残りなさいよ』
『ああ、死ぬつもりは毛頭無い』
『でしょうね。それじゃあね』
『ああ、またな』
ここで念話が途切れる。
「で、カズヤどうなんだ?」
(すっかり忘れていた)
念話に集中していた和也は目の前の事を忘れていた。
「どうと言われてもな。そんな訳ないだろって言っても信じないだろ?」
「そうだ」
「なら、どうやって証明しろって言うんだ。だいたい八聖天全員集合させている時点で疑惑じゃなくて完全に諜報員だと思ってるんじゃないのか?」
「そうだ」
「なら、とっとと取り押えるなり殺すなりしろよ」
鋭い視線をレイに向ける。それだけで他の八聖天メンバーの武器を持つ手に力が入る。
「カズヤ、頼むから正直に答えてくれ!」
「ライラ……」
懇願するような潤った瞳。それを見ただけで和也は決心した。
(女にこんな顔をさせたら駄目だよな)
「ライラ……」
「カズヤ――!」
「悪かったな」
心からの言葉を口にしながら和也はアイテムボックスから蒼槍を取り出す。その姿に全員が臨戦態勢をとる。
「認めるんだな」
「ああ、俺は諜報員だ」
「そうか。残念だ」
レイはそう呟きながら鞘から剣を抜く。
(聖剣か。面倒だな。だが、その前に)
「別に俺を捕まえようが殺そうとするのは構わないが、その前に捕まえる人間が居るんじゃないのか?」
「何?」
「ほらよ」
和也はアイテムボックスから複数の記録魔水晶と一つの書類の束をレイに向かって投げる。
「見てみな」
レイは和也を警戒しつつ書類の束を手に取り一枚一枚捲って行く。で、
「衛兵」
「はっ!」
「フーリッシュ枢機卿を取り押えろ」
「「「「「なっ!」」」」」
レイから発せられた一言にその場に居た和也以外全員から驚きの声が飛び出した。
「レイ殿、何を仰るのですか!」
「その男は民から税金を横領し私服を肥やしていたからだ。ここにその証拠と関係者の名前と筆跡が記されている。偽造する事は不可能だ」
「そんな……」
「何を馬鹿げた事をその男が罪を逃れるために用意したに違いない!」
激怒したフーリッシュが訓練場中央へと近づいてくる。
「それだけじゃ無いぜ」
「何?」
「レイ、そこの記録魔水晶の映像を再生してみろ」
「………」
和也の不適な笑みに警戒しつつレイは足元に転がる複数の記録魔水晶の一つを手に取り映像を再生する。そこにはフーリッシュが魔族と情報を交換する様子がキッチリと映し出されていた。
その証拠を全員は驚き、フーリッシュは青ざめていった。
「もしもこの事が他国にしられたらお前たちはどうなるかな?」
「我々の国は信用を無くす。最悪の場合は他国に攻め入る動機を与える事になる」
「そう言う事だ」
不適な笑みを浮かべる和也の姿にレイは険しい表情で見詰めていた。
「フーリッシュ様」
「エクス、これは違うのだ。我が国の威厳を高めるためにだな」
「そうなのか。自分の国の威厳や権力、そして私利私欲のためなら悪である魔族とも手を組むのか。それってお前の方が悪じゃないか?」
「こ、この裏切り者は黙っていろ!」
「俺はお前の見方になったつもりは無いぞ」
「フーリッシュ様……」
「エクス、お前なら解ってくれるよな?」
「解るはずが無いでしょ! この極悪人め!」
憎悪を宿した瞳でフーリッシュを断罪した。
(たまには正義を成すじゃないか)
他人事のように、傍観者のように内心呟く和也。
「さて、これでお前たちの中に潜む悪が断罪された訳だが、どうするんだ?」
「諜報員であるお前を逃す訳には行かない。この国の存続のためにもな」
「だろうな」
解っていた事だ。保険にと用意した手札が役に立つ事無く、ただ国内に潜む悪を消す手伝いをしただけになってしまった事は。
「だが俺は諜報員だが、正確には急遽決まった事で元々これは依頼だからな」
「つまり冒険者って事か」
「そうだ」
「だから見逃せと?」
「そうしてくれるとありがたい」
「それは無理だ
「だろうな。だけどお前たちじゃ俺を捕まえる事は出来ないし、ましてや殺すなんてもっと不可能だ」
「ほう、どうしてだ?」
「こう言う事だ」
和也は首から下げていたネックレスを千切り外す。
和也が身に付けていたネックレスは変化スキルが付与されたアイテム。つまりそれを外した和也は本当の姿に戻ったのだ。
――千夜の姿へと。
「で、これはいったいどういう事だ?」
「………」
和也の問いに対してライラは何も発しない。ただ悲しげな表情のまま視線を逸らすだけだった。
和也が問いたかった事。それは和也を囲むように。正確には和也を除いた八聖天が包囲し、離れた場所にはヴァイスとフーリッシュが立っていた。
「それに問いには俺が答えよう」
和也の質問に口を開いたのは八聖典第一席のレイだった。
「お前には疑惑が掛けられている」
「疑惑? なんのだ?」
「諜報員としてのだ」
「なるほど。だが疑惑って事はまだ疑っている段階って事だろ?」
「そうだ。だから正直に答えて欲しい。お前ほど優秀な存在はいないからな」
「それはどうも……」
(さて、どうしたものか。任務は果たしたし正体がバレても良いが、あとあと面倒になりそうではあるからな。でもまずは)
『ハクア、何している』
『どうしたのカズヤ?』
『傍にギンは居るか?』
『ええ、お茶してた所よ』
『緊急事態だ』
『何があったの?』
『諜報員としての容疑を掛けられている』
『まさかバレたの?』
『いや、正確には疑惑と言った方が正しい』
『つまり疑われてるって事ね』
『そうだ。だからお前たちはこの隙にこの街から脱出しろ』
『カズヤはどうするの?』
『俺は自分で何とか出来る』
『そう、解ったわ。教えてくれて有難う。貴方が魔族なら好きになっていたかもね』
『それは残念だな。ま、来世に期待するよ』
『バカね………絶対に生き残りなさいよ』
『ああ、死ぬつもりは毛頭無い』
『でしょうね。それじゃあね』
『ああ、またな』
ここで念話が途切れる。
「で、カズヤどうなんだ?」
(すっかり忘れていた)
念話に集中していた和也は目の前の事を忘れていた。
「どうと言われてもな。そんな訳ないだろって言っても信じないだろ?」
「そうだ」
「なら、どうやって証明しろって言うんだ。だいたい八聖天全員集合させている時点で疑惑じゃなくて完全に諜報員だと思ってるんじゃないのか?」
「そうだ」
「なら、とっとと取り押えるなり殺すなりしろよ」
鋭い視線をレイに向ける。それだけで他の八聖天メンバーの武器を持つ手に力が入る。
「カズヤ、頼むから正直に答えてくれ!」
「ライラ……」
懇願するような潤った瞳。それを見ただけで和也は決心した。
(女にこんな顔をさせたら駄目だよな)
「ライラ……」
「カズヤ――!」
「悪かったな」
心からの言葉を口にしながら和也はアイテムボックスから蒼槍を取り出す。その姿に全員が臨戦態勢をとる。
「認めるんだな」
「ああ、俺は諜報員だ」
「そうか。残念だ」
レイはそう呟きながら鞘から剣を抜く。
(聖剣か。面倒だな。だが、その前に)
「別に俺を捕まえようが殺そうとするのは構わないが、その前に捕まえる人間が居るんじゃないのか?」
「何?」
「ほらよ」
和也はアイテムボックスから複数の記録魔水晶と一つの書類の束をレイに向かって投げる。
「見てみな」
レイは和也を警戒しつつ書類の束を手に取り一枚一枚捲って行く。で、
「衛兵」
「はっ!」
「フーリッシュ枢機卿を取り押えろ」
「「「「「なっ!」」」」」
レイから発せられた一言にその場に居た和也以外全員から驚きの声が飛び出した。
「レイ殿、何を仰るのですか!」
「その男は民から税金を横領し私服を肥やしていたからだ。ここにその証拠と関係者の名前と筆跡が記されている。偽造する事は不可能だ」
「そんな……」
「何を馬鹿げた事をその男が罪を逃れるために用意したに違いない!」
激怒したフーリッシュが訓練場中央へと近づいてくる。
「それだけじゃ無いぜ」
「何?」
「レイ、そこの記録魔水晶の映像を再生してみろ」
「………」
和也の不適な笑みに警戒しつつレイは足元に転がる複数の記録魔水晶の一つを手に取り映像を再生する。そこにはフーリッシュが魔族と情報を交換する様子がキッチリと映し出されていた。
その証拠を全員は驚き、フーリッシュは青ざめていった。
「もしもこの事が他国にしられたらお前たちはどうなるかな?」
「我々の国は信用を無くす。最悪の場合は他国に攻め入る動機を与える事になる」
「そう言う事だ」
不適な笑みを浮かべる和也の姿にレイは険しい表情で見詰めていた。
「フーリッシュ様」
「エクス、これは違うのだ。我が国の威厳を高めるためにだな」
「そうなのか。自分の国の威厳や権力、そして私利私欲のためなら悪である魔族とも手を組むのか。それってお前の方が悪じゃないか?」
「こ、この裏切り者は黙っていろ!」
「俺はお前の見方になったつもりは無いぞ」
「フーリッシュ様……」
「エクス、お前なら解ってくれるよな?」
「解るはずが無いでしょ! この極悪人め!」
憎悪を宿した瞳でフーリッシュを断罪した。
(たまには正義を成すじゃないか)
他人事のように、傍観者のように内心呟く和也。
「さて、これでお前たちの中に潜む悪が断罪された訳だが、どうするんだ?」
「諜報員であるお前を逃す訳には行かない。この国の存続のためにもな」
「だろうな」
解っていた事だ。保険にと用意した手札が役に立つ事無く、ただ国内に潜む悪を消す手伝いをしただけになってしまった事は。
「だが俺は諜報員だが、正確には急遽決まった事で元々これは依頼だからな」
「つまり冒険者って事か」
「そうだ」
「だから見逃せと?」
「そうしてくれるとありがたい」
「それは無理だ
「だろうな。だけどお前たちじゃ俺を捕まえる事は出来ないし、ましてや殺すなんてもっと不可能だ」
「ほう、どうしてだ?」
「こう言う事だ」
和也は首から下げていたネックレスを千切り外す。
和也が身に付けていたネックレスは変化スキルが付与されたアイテム。つまりそれを外した和也は本当の姿に戻ったのだ。
――千夜の姿へと。
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