鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

文字の大きさ
212 / 351
第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第九十八幕 ベイラントと時間稼ぎ

しおりを挟む
「これで残りは4人か」
 気を失った者、戦意喪失した者、倒された者が続出するなか七聖剣たちは八つの属性を持つヤマタノオロチと、不敵な笑みを浮かべて操る男に苦戦を強いられていた。
(このままではジリ貧だ。どうにかして相手の隙を作らなければ。だが……)
 レイはベイラントと対峙する千夜に一切の隙が無い事に冷や汗を流す。それどころか、仲間が減った事で相手をする大蛇の数も増え、千夜へ攻撃する余裕すらない。

「シッ」
 襲い掛かってくる大蛇を躱し反撃するが斬った感覚は無く、直ぐに再生してしまう。
(なんて魔力量だ。これほどの魔法を発動するのにも相当の魔力が必要の筈。なのにそれを継続させるとは。どうやら俺は選択を間違えたようだ。いや、正解にするしかない。だが、その手立てが見つからない!)

「レイよ!」
「教皇様!」
 突如ヴァイスの声が耳に届く。しかし視線を向ける余裕すらない。

「お前の必殺技をここで使用する事を許可する!」
「っ! しかしあれをここで使えば被害が大きくなります。そうなれば住民たちが気付く恐れが……」
「構わぬ。理由など後から同にでもなる。それよりも今は目の前の男を倒す事だけ考えろ!」
「はっ!」
(流石は教皇様仕えるに値するお方だ)
 思わず物思いに耽ってしまいそうになるが、直ぐに頭を切り替え口を開いた。

「ベイラント、リアン、イザベラ!」
「「「!」」」
「俺はあの技を使う。その間この大蛇と漆黒の鬼夜叉の事は任せた!」
「あい、分かった!」
「まったく、第二席だけでなく、第一席まで無茶させる。ま、心躍るから許すけどね!」
「私は後方支援タイプなのに! 無茶させないでよ」
「なら、僕がその役割を果します!」
「エクス、生きていたか」
「はい……あんな奴の……攻撃で……死ぬ筈が……ありません………正義は……必ず勝つと……信じてますから……」
「そうだな」
 頼もしい事を口にはしているが、体はすでにボロボロ。額からは血が流れ、肩で息をしている状態だ。

「なんだまだ生きていたか。流石に一人は殺したろ思っていたがしぶとい奴だ」
 肩越しに視線を向けて挑発する千夜。

「お前なんかに俺は殺られない!」
「そうか。なら生き延びてみろ」
 そう言った瞬間、今度は水と土、それぞれの属性を持つ大蛇2匹がエクス目掛けて襲い掛かる。

「クッ!」
 なんとか躱すエクス。しかし既に体はボロボロ動くだけで体中から激痛が襲う。

「上手く躱す。ま、頑張ってくれ。俺はこの男と戦う所だ」
 そう言って千夜はベイラントに視線を向ける。

「お主程の男と戦えるのは嬉しいが、正直今は怒りの方が勝っている! 俺たちを騙した諸行、やはりお主は悪。ここで死んで貰う!」
「確かに騙したがそれは依頼だ。諜報活動だ。お前らの国だってしている事だろう」
「むぅ……」
「ベイラント、言い包められないでよ!」
「しかし、本当の事だからな……」
「そうだけど、私たちの中のライラを傷付けたのよ! 許せるの!」
「それは許せん!」
「なら、早く戦いなさいよ!」
「解った!」
 戦場であって戦場では無い様なそんな感じの会話に千夜は夫婦の会話を聞いているような、そんな気分になる。

「さて、もう良いのか?」
「来い!」
「そうか、なら、死ね」
「なぬっ!」
 8メートル以上離れていた距離を一瞬にして零距離にした千夜は下段の構えから一気に夜天斬鬼を振り上げる。その事に驚きを隠せないベイラントだが、これまでの経験と体に染み付いた動きでなんとか躱す。それでも軽く頬を掠る。
 軽く裂けた頬から血が滴り落ちるがベイラントの見た目からしたら逆にその姿が歴戦の戦士のように似合っていた。
(なんと言う速さだ。これも魔法かスキルによる物なのか。いや、それよりもどうしてレイの言葉に焦りが見当たらない。普通あの会話を聞いたら一目散にレイの所に向かう筈。なのにこの男は未だに俺と戦っている)
 理解出来ない千夜の行動にベイラントは困惑する。が、千夜の表情でその答えを目にする。
(そういう事か。魔族との戦いでも見た事がある。あれは戦いを楽しんでいる顔だ。だが、なんだ。戦いを楽しんでいるにも拘わらず無駄な動きがない。接近攻撃に対する警戒は驚異的にされている。なんていう男だ)
 戦いを楽しむ。だからと言って死ぬつもりは毛頭無い。その姿にベイラントは戦慄を覚える。
(怪物だ)

「どうした。早く攻撃して来い」
「そっちからしてきたらどうなのだ?」
「なら、遠慮なく」
「なに!」
(普通は遠慮する所であろう)
 戦場に遠慮など無い。それよりも千夜がどれだけ遠慮しているのかを気付くべきだと言うべきだろう。
 千夜の連撃を躱し、防ぎだけの防戦一方に奥歯を噛み締める。
(我慢だ。レイがあの技の準備を終えるまでの我慢だ!)
 しかし、突如千夜の攻撃が止まる。

「どうやら準備が整ったようだ」
 まるで待ち焦がれていたかの様に。ベイラントの事を無視して移動する。
しおりを挟む
感想 694

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。