鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第百一幕 洞窟と空腹

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 フィリス聖王国王都を逃げるように後にした次の日。千夜たち一行は森の中にあった洞窟で身を隠していた。
 千夜の予想以上に体力と筋力の衰えが大きかった事もありあまり進めて居なかった。そこで今は無理に歩かせるより体力を回復せせる事を優先させた。
 千夜の力で洞窟の奥に風呂を作る。この洞窟は元々盗賊たちの拠点だったようだが、今は千夜たちの物になっている。
(悪党から奪っても何の問題も無い)
 正論かどうかと言われれば賛成も否定もしにくい言い訳にどっちが悪党なのか解らない。ただ、盗賊たちはきちんと火葬されました。南無。

「貴方って強かったのね」
「この程度どうって事はない。それよりも今は体を洗うと良い。服は見つけてくる。男物しかないだろうが、まあ勘弁してくれ」
 そう言って千夜は洞窟の外へと向かう。

              ******************************

「まさか、暖かいお風呂に浸かれるなんて夢にも思わなかったよ」
「本当ね」
「あの人、何者なんだろう。一瞬で10以上の盗賊を倒したけど」
「確かに何者なんだろう?」
「そうね」
「貴女この国の生まれでしょう。なんとも思わないの?」
「昔の私なら嫌悪とかしたでしょうけど、今はなんとも思わない。逆に嫌悪していた私が馬鹿だったって思うわ。本当に酷いのは心が腐った奴って分かったから。だからごめんなさい」
「良いのよ。同じ痛みを知る者だ同士だもの」
「ありがとう」
 種族の壁を越え同じ痛み、悲しみを乗り越えた者同士に嫌悪感は存在しなかった。

「それよりも、本当にあの人何者なんだろう」
「カッコいいよね。強いし」
「確かにカッコいいけど私は帝国に現れたXランク冒険者の漆黒の鬼夜叉の方が強いと思うよ」
「黒龍を一人で討伐したとか、吸血鬼を50人以上倒し貴族吸血鬼を魔国へ追い返したっていうあの?」
「そうそう!」
「確かにそれは凄いけど、それ本当なの? なんだか胡散臭い」
「本当だって。じゃなないとこんな噂がここまで流れてこない筈だよ!」
「確かにそうだけど、会った事も無いから信憑性が無いよ」
 自分たちを助けてくれた存在が、そのXランク冒険者漆黒の鬼夜叉だとは誰も気付いていない。

「帝国に行ったら何したい?」
「私はオールリキュールって言う酒専門店のお酒が飲んでみたい」
「それ知ってる。なんでも連日完売で中々買えないって言うあのお店でしょう?」
「そうそう、種類はまだ少ないらしいんだけど、度数の高い物から果実酒まであるって、聞いたわ」
「私はリッチネス商会の副店長が専属販売を申し込む程美味しいって聞いた」
「私はオールリキュールで働く従業員たちが異常に強いって聞いたよ。Cランクの冒険者が一撃で吹き飛ばされたって」
「それは嘘でしょう。でも一度でいいから飲んでみたいな」
「「「「「そうね」」」」」
「でも、その前に働かないとね」
「「「「「そうね……」」」」」
 辛い過去を振り返るのではなく、あたらしい未来を夢見る彼女たち。図太いと言うべきなのかポジティブと言うべきなのかは分からない。

              ******************************

 一時間程して風呂から出てきた彼女たちは洞窟入り口で食事を作る千夜に近づく。

「もうすぐ飯が出来るから待っててくれ。一応服は綺麗にしておいたが、男性の物だから違和感や不愉快な気分になっても我慢してくれ」
「そこまで文句を言うつもりはありません」
「そうよ。助けて貰ってお風呂にも入れさせて貰って食事までご馳走なるのに」
「私たちはそこまで落ちぶれてはいないわ」
「そうか、逆に俺が悪かったな」
(なんか全然威厳を感じ無いんだけど)
 強者としての風格をまったく感じない事に拍子抜けに思う彼女たちだったが、空腹に耐えられず結局何も言い返す事無く千夜が料理を作り終わるのを待つ。

「山菜とホットボアの肉で作った簡単料理だが量はあるから気にせずに食べてくれ。一応パンもある」
 木箱を四つ引っ付けただけの簡易テーブルに置かれたのはパン、ホットボアのステーキ、肉と山菜の炒め物。肉と山菜のスープ。材料の種類が少ないため料理の種類が違えど材料は同じとなってしまった。
 それでもまともな食事させてもらっていなかった彼女たちは既に空腹の限界を迎えており目の前に並ぶ料理が豪華に見えた。ましてやそれぞれの料理から漂う匂いが鼻腔を刺激し、お腹を空かせる。

「さあ、食べてくれ」
 千夜の一言で全員が一斉に食べ始めた。その勢いは選手が一斉に走り出す勢いと同等のものだった。
 彼女たちはどちらかと言えば礼儀を弁えている方だ。がさつなタイプでは無い。だが空腹に負け食べる勢いはどっかのジブリ映画のワンシーンのようだった。
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