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序章

第二幕 苛立ちと相談

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  そして、一人一人に部屋を割り振られた和也はベッドに入って寝ようとしていた。が、

「なんでここに居るんだよ」
 和也は鋭い視線をソファーに座って寛ぐ幼馴染達に向けた。

「だって和也どうせすぐにでも寝るつもりだったんでしょ? 跪いた時に何度も欠伸してたからこっちはヒヤヒヤしたのよ」
 真由美はあの時の無駄な緊張を返せと言いたげな目を向けながら返答した。

「当たり前だろ。こっちは寝不足なのに訳もわからず勇者になって魔王を倒して欲しいや、王と話すはめになるはで寝れてないんだぞ」
 和也の言うとおりである。

「でも、寝不足なのは和也さんの自業自得ですよね」
 紅葉の言葉はもっともである。

「だからって俺の部屋に来ることはないだろ?」
「確かにそうなんだけど和也が寝る前にこれからの事を決めとこうかなって思って」
「これからの事ってただ強くなって魔王を倒すだけだろ?」
 和也はそう思っていた。

「確かにそうなんだけど。僕が言いたいのはそのあとの事だよ」
 勇治の言葉に和也はなるほどと思った。和也は視線でみんなの表情を確認する。その表情には不安を浮かべていた。普通に考えてそれは当たり前だろう。だが和也には解った。もし帰れたとして和也はどうしたいのかという事なのだ。だがら、和也は解っておきながら逆に訊いた。

「もし、元の世界に帰れたとして勇治たちはどうするんだ?」
 和也の問いに皆の表情が暗くなる。

「そう言う和也はどうするんだい?」
 勇治は和也の問いに問で返した。
(お前らふざけんな!)
 和也は勇治の問い返しに怒りを覚えた。当たり前だろう。勇治たちは和也の返答しだいで自分達の未来を決めようとしているのだ。ましてや寝不足で普段より不機嫌な和也はいつも以上に苛立ちを募らせた。
(俺はお前らの親でも兄でも無いんだぞ。ましてや昔みたいな事はしない。自分で考えろ)
 和也は布団の中で拳を強く握りしめ一度冷静になると。

「普通に考えて元の世界に戻るだろ。文明的にも俺たちの世界の方が進歩してるし安全だからな」
 和也がそう言うと、

「そうだよね!うん、良かった僕たちもそのつもりだったから、もし残りたいなんて言ったらどうしようかと思ったよ」
 勇治たちは安堵したのか心から喜んでいた。
(ふざけるな!)
 和也は勇治たちの言葉に怒りを爆発させそうになった。

「なら、さっさと出ていけよ。俺は寝るから」
 和也はそう言って布団の中に潜り込んだ。

              **********

和也の部屋を出た勇治たち4人は真由美の部屋に集まっていた。真由美の部屋は和也の隣なのだ。

「ねぇ、和也のあの言葉本心だと思う?」

 真由美は不安な表情を浮かべて他の3人の返答を待った。

「多分、本心だと思う……言葉に怒りが篭ってたけど多分あれは早く寝たいのにそんな下らないことで俺の睡眠時間を奪うなって……事だと思うから……」
 勇治は俯いて自信なさげに返答した。そんな勇治の言葉に正利も同意した。

「俺もそう思う。未だに俺たちの事を避けてる部分はあるけどきっと和也も元の世界に帰りたい筈だから……」
 だが、紅葉の答えは違った。

「私は違うと思います」
 その言葉に真由美たちは理由を早く知りたくなった。

「どうして紅葉はそう思うの?」
「多分……ですけど。和也さん、勇治さんの問いに問いで返したでしょ?」
「うん。確かに」
「それじゃ勇治さんはなぜ和也さんの問いを問いで返したんですか?」
 紅葉は少し怒気の篭った口調で勇治に訊いた。

「そ、それは……和也がもしも残るって言ったら……僕も……」
 まるで叱られている子供のような表情を浮かべながら返答した。

「多分和也さんも同じだったと思います。いえ、正確には少し違いますけど……」
「どういう事だ紅葉?」
 紅葉の言葉に首を傾げる正利。

「多分和也さんはここに残るつもりです」
「「「 ?! 」」」
 紅葉の言葉に3人は大きく目を見開ける。

「ど、どういうことなの?」
 真由美は声を震わせながら聞きたいような聞きたくないような気持ちで紅葉の言葉を待った。

「和也さんが勇治さんに問い返しのは多分意思確認したんだと思います。あそこで勇治さんが帰ると言えば自分も帰ると言って、残ると言えば俺は帰ると言って私たちの意思を変えるつもりだったのでしょう」
「でも、僕は問い返したよ?」
「そうですね。でも、それで和也さんは気付いたんですよ。私たちが和也さんの返答しだいでこれからの未来を決める事に」
 その言葉に3人はなにも言い返すことが出来なかった。

「私たちは昔から和也さんに助けてもらってます。ですが、それは甘えでもあります。ここでその甘えを断ち切り私たちの考えで答えを出さないといけないと思います」
 紅葉の言葉に他の3人は胸を撃ち抜かれたような衝撃を受けた。心当たりが沢山あるのだろう。そしてそれに頼り甘えてきた自分が情けなくて心から悔しいのだろう。

「そうだよね。紅葉の言うとおりだよ! これからはちゃんと話し合って自分の意見を出しあって決めようよ!」
 真由美は立ち上がり宣言するように言った。

「ああ!」
「そうだな!」
「そうですね!」
 4人は改めて和也に恩返しをすることを誓い自分達の部屋に戻っていた。

             **********

 朝食を食べ終えた和也達は訓練所に集まっていた。

「それではこれから教えますね」
 訓練所にいるがすぐに訓練をするわけではない。

「まず、頭のなかでステータスと唱えてください」
 和也達はそう言われて頭のなかでステータスと連呼した。すると

「うわっ! 目の前に何か出てきた!」
 真由美は驚き後ろに下がった。

「はい。それが勇者様達、個々のステータスになります」
「へぇ凄いな」
 みんなは感心して自分のステータスを確認していた。
(ま、当たり前だよな)
 皆の驚く姿を視界の端に持っていくと和也もステータスを開いた。

────────────────────

朝霧和也
LV1
HP 1500
MP 1300
STR 130
VIT 120
DEX 100
AGI 130
INT 110
LUC10000

スキル
言葉理解
言語理解
超解析
剣術LV5
槍術LV4
魔力操作LV3
状態異常耐性LV4
HP自動回復LV5
MP自動回復LV3
魂の輪廻
???
???
???

属性
火 水 土 風 闇

────────────────────

(凄いのか凄くないのか微妙なステータスだよな。それにしてもなんだよ魂の輪廻って)
そんな事を思っていると、

「和也はどんな感じだ?」
 正利がやってきた。

「平均が解らないから良いのか悪いのか微妙なところだ」
「やっぱりそうだよな……」
 肩を落として嘆息した。

「ま、それに関してはセレナが教えてくれるだろうよ」
 和也は視線を真由美たちと話してるセレナに向けた。

「ま、そうだろうな。って呼び捨て!」
 和也の言葉に正利は驚きを隠せないでいた。

「それがどうしたんだよ。お前も呼び捨てで呼べば良いだろ」
 あまり弄られるのは好きではない和也はそう言って話を終わらせた。
 そして和也はこっそり超解析を使ってみた。
(凄いな。でも相手にこの能力があったら面倒だな。………調べておくか)
 そう思いながら勇治たちのステータスを見る。

────────────────────

桜井勇治
LV1
HP 1300
MP 1100
STR 110
VIT 120
DEX 90
AGI 100
INT 120
LUC 110

スキル
言葉理解
剣術LV3
魔力操作LV1
状態異常耐性LV3
HP自動回復LV3
MP自動回復LV2

称号
英雄の卵

属性
火 水 土 風 光


朝倉真由美
LV1
HP 1000
MP 1600
STR 80
VIT 80
DEX 120
AGI 90
INT 100
LUC 100

スキル
言葉理解
剣術LV1
魔力操作LV5
状態異常耐性LV3
HP自動回復LV2
MP自動回復LV4
鑑定LV5

称号
魔女の理

属性
火 水 土 風 光


武田正利
LV1
HP 1100
MP 1000
STR 120
VIT 110
DEX 90
AGI 110
INT 100
LUC 90

スキル
言葉理解
剣術LV3
槍術LV4
魔力操作LV2
状態異常耐性LV4
HP自動回復LV4
MP自動回復LV2

称号
武士の心得

属性
火 水 土 風 光


霧咲紅葉
LV1
HP 1300
MP 1500
STR 100
VIT 90
DEX 110
AGI 90
INT 130
LUC 110

スキル
言葉理解
槍術LV2
魔力操作LV4
状態異常耐性LV2
HP自動回復LV2
MP自動回復LV3

称号
癒しの巫女

属性
火 水 土 風 光

────────────────────

(成る程な。平均的には俺が上だが属性を見るとメンタルや意思の強さで使える属性が違うのかもな)
 そんな事を考えながら和也は超解析を解除した。

「それでは、勇者様方今から説明いたします」
 セレナの言葉に皆が注目した。

 異世界に来てから1ヶ月が過ぎた。
 あのあと色々と教わっていた。魔法の発動方法やそれぞれが持つスキルの効果など、沢山学ぶことがあった。
 ステータスを他の奴に見せることは可能だ。だが和也はそれを拒否した。もちろん周りからは色々と言われた。(特に真由美と紅葉に)それでも和也は「俺も見ないから良いだろ。それにセレナには俺のステータスを教えてある」と言って和也は訓練所から逃げるように出ていった。勿論その事には勇治達4人は不満があったようだが引き留めることも出来なかった。
 今日も訓練所で剣や魔法の訓練をしているがその中に和也の姿はなかった。そんな状況に周りで観察する近衛兵や分館達は徐々に不安を募らせていた。それでもセレナの楽しそうにする姿になんとか不安を抑えていた。

「凄いです! こんな短時間でここまで出来るなんてさすがに勇者様方です!」
 心のそこから驚くセレナ。それはお世辞などではなかった。勇治達に教えるに当たって国の魔導師や騎士隊の隊長たちですら驚愕するほどの成長スピードなのだ。

「本当に凄いな……流石勇者様だ。これなら明日にでも実戦訓練しても良いかも知れませんな」
 第一騎士隊隊長のブラウンが勇治達に言う。それに同意するように魔導師や他の隊長たちが頷く。

「でも、和也はまだ訓練を一度もしてませんし」
 勇治は俯いて言った。その言葉に真由美たちまで暗い表情になる。だが、すぐに暗い表情は消えることになる。

「その事なんですが……和也様は剣も魔法も訓練されてますよ」
「「「「え?」」」」
 セレナの言葉に勇治たちは呆けた表情になる。

「実は和也様は一人で夜に訓練されていたんです」
 その言葉に勇者たちは驚きを隠せずにいた。

「ど、どうして?」
「書庫があるのですが、なんでも調べたいことがあるから見せて欲しいと頼まれまして」
「そ、それなら夜にでも調べれば……」
「貴重な書籍もありますから夜は厳重に封鎖されるんです。ですから和也様は明るいうちは書庫で調べものをし、皆様が寝た後に一人で訓練をしてるんです」
「そんな……」
 セレナから告げられた事実に勇治たちは違う意味で表情を曇らせた。
 そんな勇者たちにブラウンは付け足すように教えた。

「実は俺もそれを知ったのが2週間前でしてなにか出来ないかと皆で話し合って交代で剣術と魔法を教えてるんです。口止めされていたとはいえ、黙っていて申し訳ありませんでした」
「いえ、口止めされていたのなら仕方ありません……でも和也さんはまた一人で……」
「まったくアイツは……」
 紅葉と正利は相談してくれなかった事と気付けなかった自分に苛立ちを覚えて下唇を強く噛み締めた。
 その時だった。




「そこまで怒らなくても良いだろ」
 突如、背後から聞き慣れた声が聞こえてきた。その声に反射するようにその場にいた全員が声のする方を見た。そこには欠伸をして眠たそうにする和也の姿があった。

「「「「和也!」」」」
 大切な親友の姿に駆け寄る勇治たち。だが、

「「「「ふざけるな!」」」」
 怒声と同時に4人の掌からファイアボールが和也目掛けて放たれた。約その数10個。(勇治・正利が2個、真由美・紅葉が3個)
 そんなあり得ない光景にその場にいたセレナ、ブラウン、第一騎士隊、魔導師、近衛兵たちは驚愕していた。

「あっ、あの勇者様! そっ、そんな事したら和也様が死んでしまいます!」
 慌てて勇治たちを止めようと試みるセレナだが、

「安心してセレナ。この程度で死ぬような奴じゃないから」
 真由美は和也に視線を向けたまま断言し、紅葉たちも、その通りだと、頷いていた。

「で、ですが………うそ……」
 砂煙が晴れ和也の姿が見える。そこには無傷の和也の姿があった。

「やっぱり。相変わらずムカつく才能ね」
「本当だよ」
「おいおい、酷いな。いきなり攻撃とか」
 和也は、危なかった、と言いながら再び欠伸した。

「ど、どうして?」
 困惑するセレナの言葉に紅葉が説明した。

「簡単な事ですよ。攻撃が当たる前に土の壁を作ったんですよ」
「で、でもそんな時間ありませんでしたよ!」
「そんな僅かな時間でするのが和也なのよ」
 真由美はそう言って和也を睨んだ。

「いい加減やめないか?」
「ふざけないで!私たちがどれだけ心配したと思ってるのよ!」
「いや、それに関しては悪かったから」
「反省の色が見えません!」
 紅葉はそう言って再びファイアボールを放つ。が和也に当たる前に直前で霧散した。

「え? どうして?」
 流石の紅葉も今度は解らなかったようだ。

「なら、これならどうよ!」
 今度は真由美が5個のファイアボールを連続で放つ。が、これもすべて霧散した。

「なっ! どうしてよ!」
 完全に感情が制御できなくなっていた。

 こうして、1時間にも及ぶ対人戦(?)は終了した。結果は魔力切れによる勇治たちの負けで終わった。なお、和也は一度も攻撃をしていない。

「だから言ったのに」
 地面に倒れ込む勇治たちの姿を見て呆れていた。

 息を整え終えた勇治たちが地面に座りながら和也を睨んでいた。

「そんなに怖い顔をするなよ」
「誰のせいだと思ってるのよ!」
 真由美は怒鳴りながら呼吸を整えていた。

「悪かったよ」
 流石の和也もこのままだと前に進めないと思い素直に謝った。

「それならちゃんと説明してくれますよね?」
「ああ、分かってるよ」   
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