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序章
第三幕 初戦闘と別れ
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訓練後、昼食を終えると和也の部屋に勇治たちとセレナが集まっていた。
「それじゃ早速教えてもらいましょうか」
腕を組んだ真由美が追及するように和也に訊ねた。
「まず、なぜ俺が調べてたかと言うと簡単に言えば情報収集だ」
その言葉に勇治たち勇者は首をかしげた。
「俺たちはこの世界の事をなにも知らない。だから一人でもこの世界の知識を持った人物が居れば魔王討伐の旅も楽になると思ったからだ」
「なるほどね。それならどうして私たちに教えてくれなかったのよ?」
真由美の言葉に同意する面々。
「ま、一言で言えば、お前らが楽しそうに訓練をしていたから。だな」
その言葉に真由美たちは顔を赤くして恥ずかしそうにしていた。一年以上話していなかった親友とはいえ、流石は幼馴染である。
「別に気にすることじゃないぞ。俺だってちゃんと訓練はしていたし、調べものも終わったからな」
和也はそう告げるとテーブルの上に置かれていたティーカップを手に取り紅茶を飲む。
「だから俺はこの後………」
「「「「「この後……?」」」」」
「寝る」
そう言ってベッドに横になった。
その光景に勇治たちは呆れていた額に手を当て、セレナは驚いて和也と勇治たちを交互に見ていた。
「あ、あの寝かしていいのですか?」
「はい。寝かしてあげてください。今回は私たちに怒る権利はありませんから」
「紅葉の言う通りだな」
正利も同意しながら残りの紅茶を飲み干した。他の二人も、仕方ないか、と諦めた表情を浮かべていた。
それからは全員で訓練を行った。
そして今日は初めてのゴブリン討伐を行う。場所は王都の西門を出て一時間ほど歩いた場所にある草原。ここは森に囲まれた草原で人が居るとゴブリンが出てくる場所だ。
「よし、それじゃ作戦のお復習だよ。僕と正利が前衛、真由美と紅葉が後衛で和也が遊撃手。これでいいね?」
勇治の言葉に全員が頷く。
「それじゃ作戦開始!」
勇治の掛け声で森から出て草原のど真ん中まで移動した。
それからは静寂がこの場を支配していた。どこから現れるか分からない恐怖と緊張感。それが勇治たちの心を乱そうとするが、呼吸は乱れてはいなかった。
(皆、大丈夫のようだな)
耳に意識を集中させて勇治たちの状態を確認した和也は視線を森に向け敵を待つ。
それから数分後、数体のゴブリンが森から現れた。
「来るぞ!」
勇治の言葉に全員が武器を構え、戦闘が始まった。
目に見えるだけでも6匹いる。そのうち4匹は勇治と正利が相手していたが残りの2匹は真由美たちの方への向かった。が、攻撃する間もなく頭と胴が離れた。一瞬の出来事に驚く真由美と紅葉。それでも訓練をしていたおかげですぐに我に戻ると回復魔法で勇治と正利を回復させる。
「ありがとう!」「サンキュー紅葉!」
戦闘中だが大切な仲間からの援護魔法に感謝を忘れないのは日本人としての礼儀からなのか、それとも愛する者へ対しての私情なのかは分からないがお礼を言われた直後、真由美と紅葉の表情が微かに緩んでいた。
それから数分後ゴブリンを倒した勇者一同はアイテムボックスに入れておいたサンドイッチを取り出して休憩をした。
「それにしても楽勝だったな」
正利はサンドイッチを頬張りながら嬉しそうに感想を述べる。それに対しての周りの反応も似たものだった。
「そうだね。この調子ならすぐにでも魔王討伐に行けるかもね」
「勇治の言う通りね。もしかして私たち英雄になったりして?」
真由美も簡単にゴブリンを倒せたことに対して嬉しいのか少し浮かれていた。
「本当ですね」
紅葉も同様に。
(このままだと怪我人が出るかもな)
だが、和也だけは違った。サンドイッチを食べながらも危機察知のスキルを発動させていた。そして勇治たちの会話も聞いていた。
(大抵こんな時って小説だと足元を掬われて誰かが怪我をするんだよな)
和也はそんなフラグが立っていないことを祈りつつ水を飲んで喉を潤していた。
その時、
「ギャギャアアアアァァァ!」
突如、森全体に響くほどの不愉快な鳴き声が聞こえた。その声に反応した勇者たちはすぐに立ち上がり武器を構えて戦闘態勢をとる。
「今のってゴブリンの声よね?」
「そうだと思うよ。でも聞いた限りだと複数居るっぽいけど」
勇治の推測は的中していた。先程の鳴き声が大きかったのは複数のゴブリンの声が重なって大きくなったものだった。
(ちょっとヤバイかもな)
和也はスキルで気付いていた。先程よりも数が多いことに。
「勇治、さっきよりも数が多いぞ」
「大丈夫だよ。今の僕たちならゴブリンなんて怖くないよ」
「そうだぜ、和也」
「勇治の言うとおりよ」
「私たちを信じてください」
(ヤバイなコイツら浮わついてやがる。ま、怯えているよりかはましかもしれねぇが……)
「解ったよ!」
和也は覚悟を決めてロングソードを両手で持ち構えた。
そして危機察知のスキルの効果でゴブリンがどこまで来ているのかを確認し、森から出てくるタイミングを勇治達に知らせた。
「来るぞ!」
そして再び戦闘が開始された。だか、今度出てきた数はおよそ30匹。先程の5倍である。
「おいおいマジかよ。これは少し多いだろ」
正利は目の前にいるゴブリンの大群に気圧されてかけていた。
「およそ数30だ。一人当り6匹倒したら終わりだ。正利なら楽勝だろ?」
「誰に言ってるんだ?俺にかかれば楽勝だよ」
「なら、僕も頑張らないとね」
「なら、行くぞ!」
「「おう!」」
和也たち男3人は横並びになると、和也の号令と共にゴブリンに向かって飛び出した。それを合図に真由美と紅葉も回復魔法や攻撃魔法で和也達を援護する。
30対5の戦闘は約30分ほどして終了した。結果は勿論勇者一同の勝利だ。それでも軽い怪我をしていたり肩で呼吸をしていた。さすがに疲れたのだろう。
「な、なんとか終わったな」
正利はその場にいた座り込む。それを見て紅葉がアイテムボックスから水とタオルを取り出して正利に手渡す。仲の良いカップルだこと。
「少し休憩したら今日は帰ろう。流石に遅くなると心配するだろうからね」
空を見上げながら言った。空は少し赤くなりかけていた。時計が存在しないこの世界では金の音と太陽の位置で時間を判断するしかないのだ。
「それにしてもまさかあんなにゴブリンが来るなんて思わなか――きゃっ!」
真由美が背伸びしながら感想をのべていると突然突き飛ばされ、他の3人も突然の事に驚いていた。そして突き飛ばした犯人は、
「和也、いきなりなにをするのよ!」
和也だった。
尻餅をついた真由美は和也を怒鳴る。だが、和也からは反応がない。
「なんとか言いなさいよ。……和也?」
いつもと雰囲気の違う和也に違和感を覚え始めた真由美たち。そしてその原因がすぐに判明した。
「わ、悪りぃ……」
和也はそう呟いて倒れた。背中に矢が刺さった状態で。
「「「「え?」」」」
突然の事に思考停止した勇治達。
「……か……か、和也? ………和也!」
ようやく理解の出来た勇治が駆け寄り和也の上体を起こす。
「うそ……嘘でしょ……嘘って言ってよ!」
四つん這いで和也に近付き強く服を掴み揺らす真由美。
「目を開けろ和也! おい和也!」
涙を流しながら和也の名前を連呼する正利。
「……イヤ…………いや…………いやあああああ!」
目の前の光景が信じられないのか腰が抜けその場に座り込み絶叫する紅葉。
誰もが目の前の光景を信じられなかった。それでも理解していた。目の前で和也が矢に刺されたと。
「う、うるせぇな………少しは……静にしろ……」
「「「「和也!」」」」
「俺はいいから、そこの木の影にいるゴブリンを殺せ」
震える指で隠れていたゴブリンを指す。
「死ねえええぇぇ!」
正利が直ぐに近付きゴブリンを一刀両断した。
「これで安心だ。……もう、ゴブリンは……居ねぇから」
和也から徐々に体温が消えていく。
「和也死なないで!今すぐに回復魔法をかけるから!」
真由美は慌てて背中の矢を抜き、回復魔法を発動させようとした。
だが、
「よせ………無意味だ」
「ちょ、邪魔しないでよ!」
和也は力の入らない手で真由美の手首を掴む。それを払いのけて回復魔法を発動させようとする真由美。
「そんなことしたって……俺を苦しめる……だけだ」
「どいうことよ?」
「真由美……お前……鑑定スキル……持ってただろ……それで……矢を見てみろ……」
和也の言葉に一瞬驚く真由美。そして言われるままに和也の血が付着した矢を鑑定してみる。
「う、嘘でしょ!?」
鑑定結果
鑑定品
毒矢
説明
毒が塗られた矢。
鑑定品
ブラックスネークの毒
説明
ブラックスネークの毒はブラックスネークが持つ猛毒。
効果
血液中に入ると一時間以内に死ぬ。口から入れても死ぬことはなく、必ず血液内に入らないと死ぬことはない。
「わかった……だろ……。俺は………もうすぐ………死ぬ」
和也本人から告げられた悲惨な現実に勇治たちはただ涙を流し和也の言葉を聞くことしか出来なかった。
ここで解説しておこう。
この世界には回復魔法と治癒魔法が存在する。回復魔法は体力を回復させたり体の治癒力を活性化させる魔法だ。治癒魔法は怪我を治したり、毒などを除去したりする魔法だ。
「勇治……お前は……正義感が……強い……。だから……必ず……魔王を……倒せ……良いな?」
「ああ! ……わかったよ!」
「………真由美……お前には……魔法の……才能が……ある……。だから……できる………限り………たくさんの………魔法を………覚えて………練習しろ……それと……勇治を……頼むわ」
「わかった! 任せておいて!」
「……正利……お前は……調子に乗り……すぎて……紅葉に……心配させるゲホッ!……なよ……。あと、少しは………剣術だけでなく……ゲホッ!……魔法も練習……しろよ」
「わかった……。わかったから、もう喋るな!」
「紅葉……」
「はい……」
「正利は……ゲホッ!………いい奴……だ……。ちゃんと……手綱を……握っとけよ……。それとゲホッ!、ゲホッ!ゲホッ!……皆の……事……任せた……。お前ほど……周りが……見えてる奴は……居ねぇからな………」
「解りました……。任せて下さい!」
「なんだか……眠くなってきたな……」
「「「「和也!」」」」
「冗談だよ……ばあ~か……」
「「「「…………」」」」
「ちゃんと………見てるからよ……。頑張れよお前ら……」
「「「「……うん」」」」
「……………………………………」
「「「「和也!」」」」
「死んでねぇよ……。ちょと……疲れた……だけだ……。ゲホッ!」
(たく、相変わらず泣き虫だなお前ら。ちっとも成長してねぇ。でもま、俺がいない方が成長するだろうから結果オーライかな。でも……)
「俺の人生も……これまでか……。せめて……エルフと………ダークエルフに……会って……見たかったな……」
「………………………じゃあな」
「「「「ぅうわゎわわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」
この日、朝霧和也が命を落とした。
森全体に悲しみの絶叫が暗くなるまで続いた。
「それじゃ早速教えてもらいましょうか」
腕を組んだ真由美が追及するように和也に訊ねた。
「まず、なぜ俺が調べてたかと言うと簡単に言えば情報収集だ」
その言葉に勇治たち勇者は首をかしげた。
「俺たちはこの世界の事をなにも知らない。だから一人でもこの世界の知識を持った人物が居れば魔王討伐の旅も楽になると思ったからだ」
「なるほどね。それならどうして私たちに教えてくれなかったのよ?」
真由美の言葉に同意する面々。
「ま、一言で言えば、お前らが楽しそうに訓練をしていたから。だな」
その言葉に真由美たちは顔を赤くして恥ずかしそうにしていた。一年以上話していなかった親友とはいえ、流石は幼馴染である。
「別に気にすることじゃないぞ。俺だってちゃんと訓練はしていたし、調べものも終わったからな」
和也はそう告げるとテーブルの上に置かれていたティーカップを手に取り紅茶を飲む。
「だから俺はこの後………」
「「「「「この後……?」」」」」
「寝る」
そう言ってベッドに横になった。
その光景に勇治たちは呆れていた額に手を当て、セレナは驚いて和也と勇治たちを交互に見ていた。
「あ、あの寝かしていいのですか?」
「はい。寝かしてあげてください。今回は私たちに怒る権利はありませんから」
「紅葉の言う通りだな」
正利も同意しながら残りの紅茶を飲み干した。他の二人も、仕方ないか、と諦めた表情を浮かべていた。
それからは全員で訓練を行った。
そして今日は初めてのゴブリン討伐を行う。場所は王都の西門を出て一時間ほど歩いた場所にある草原。ここは森に囲まれた草原で人が居るとゴブリンが出てくる場所だ。
「よし、それじゃ作戦のお復習だよ。僕と正利が前衛、真由美と紅葉が後衛で和也が遊撃手。これでいいね?」
勇治の言葉に全員が頷く。
「それじゃ作戦開始!」
勇治の掛け声で森から出て草原のど真ん中まで移動した。
それからは静寂がこの場を支配していた。どこから現れるか分からない恐怖と緊張感。それが勇治たちの心を乱そうとするが、呼吸は乱れてはいなかった。
(皆、大丈夫のようだな)
耳に意識を集中させて勇治たちの状態を確認した和也は視線を森に向け敵を待つ。
それから数分後、数体のゴブリンが森から現れた。
「来るぞ!」
勇治の言葉に全員が武器を構え、戦闘が始まった。
目に見えるだけでも6匹いる。そのうち4匹は勇治と正利が相手していたが残りの2匹は真由美たちの方への向かった。が、攻撃する間もなく頭と胴が離れた。一瞬の出来事に驚く真由美と紅葉。それでも訓練をしていたおかげですぐに我に戻ると回復魔法で勇治と正利を回復させる。
「ありがとう!」「サンキュー紅葉!」
戦闘中だが大切な仲間からの援護魔法に感謝を忘れないのは日本人としての礼儀からなのか、それとも愛する者へ対しての私情なのかは分からないがお礼を言われた直後、真由美と紅葉の表情が微かに緩んでいた。
それから数分後ゴブリンを倒した勇者一同はアイテムボックスに入れておいたサンドイッチを取り出して休憩をした。
「それにしても楽勝だったな」
正利はサンドイッチを頬張りながら嬉しそうに感想を述べる。それに対しての周りの反応も似たものだった。
「そうだね。この調子ならすぐにでも魔王討伐に行けるかもね」
「勇治の言う通りね。もしかして私たち英雄になったりして?」
真由美も簡単にゴブリンを倒せたことに対して嬉しいのか少し浮かれていた。
「本当ですね」
紅葉も同様に。
(このままだと怪我人が出るかもな)
だが、和也だけは違った。サンドイッチを食べながらも危機察知のスキルを発動させていた。そして勇治たちの会話も聞いていた。
(大抵こんな時って小説だと足元を掬われて誰かが怪我をするんだよな)
和也はそんなフラグが立っていないことを祈りつつ水を飲んで喉を潤していた。
その時、
「ギャギャアアアアァァァ!」
突如、森全体に響くほどの不愉快な鳴き声が聞こえた。その声に反応した勇者たちはすぐに立ち上がり武器を構えて戦闘態勢をとる。
「今のってゴブリンの声よね?」
「そうだと思うよ。でも聞いた限りだと複数居るっぽいけど」
勇治の推測は的中していた。先程の鳴き声が大きかったのは複数のゴブリンの声が重なって大きくなったものだった。
(ちょっとヤバイかもな)
和也はスキルで気付いていた。先程よりも数が多いことに。
「勇治、さっきよりも数が多いぞ」
「大丈夫だよ。今の僕たちならゴブリンなんて怖くないよ」
「そうだぜ、和也」
「勇治の言うとおりよ」
「私たちを信じてください」
(ヤバイなコイツら浮わついてやがる。ま、怯えているよりかはましかもしれねぇが……)
「解ったよ!」
和也は覚悟を決めてロングソードを両手で持ち構えた。
そして危機察知のスキルの効果でゴブリンがどこまで来ているのかを確認し、森から出てくるタイミングを勇治達に知らせた。
「来るぞ!」
そして再び戦闘が開始された。だか、今度出てきた数はおよそ30匹。先程の5倍である。
「おいおいマジかよ。これは少し多いだろ」
正利は目の前にいるゴブリンの大群に気圧されてかけていた。
「およそ数30だ。一人当り6匹倒したら終わりだ。正利なら楽勝だろ?」
「誰に言ってるんだ?俺にかかれば楽勝だよ」
「なら、僕も頑張らないとね」
「なら、行くぞ!」
「「おう!」」
和也たち男3人は横並びになると、和也の号令と共にゴブリンに向かって飛び出した。それを合図に真由美と紅葉も回復魔法や攻撃魔法で和也達を援護する。
30対5の戦闘は約30分ほどして終了した。結果は勿論勇者一同の勝利だ。それでも軽い怪我をしていたり肩で呼吸をしていた。さすがに疲れたのだろう。
「な、なんとか終わったな」
正利はその場にいた座り込む。それを見て紅葉がアイテムボックスから水とタオルを取り出して正利に手渡す。仲の良いカップルだこと。
「少し休憩したら今日は帰ろう。流石に遅くなると心配するだろうからね」
空を見上げながら言った。空は少し赤くなりかけていた。時計が存在しないこの世界では金の音と太陽の位置で時間を判断するしかないのだ。
「それにしてもまさかあんなにゴブリンが来るなんて思わなか――きゃっ!」
真由美が背伸びしながら感想をのべていると突然突き飛ばされ、他の3人も突然の事に驚いていた。そして突き飛ばした犯人は、
「和也、いきなりなにをするのよ!」
和也だった。
尻餅をついた真由美は和也を怒鳴る。だが、和也からは反応がない。
「なんとか言いなさいよ。……和也?」
いつもと雰囲気の違う和也に違和感を覚え始めた真由美たち。そしてその原因がすぐに判明した。
「わ、悪りぃ……」
和也はそう呟いて倒れた。背中に矢が刺さった状態で。
「「「「え?」」」」
突然の事に思考停止した勇治達。
「……か……か、和也? ………和也!」
ようやく理解の出来た勇治が駆け寄り和也の上体を起こす。
「うそ……嘘でしょ……嘘って言ってよ!」
四つん這いで和也に近付き強く服を掴み揺らす真由美。
「目を開けろ和也! おい和也!」
涙を流しながら和也の名前を連呼する正利。
「……イヤ…………いや…………いやあああああ!」
目の前の光景が信じられないのか腰が抜けその場に座り込み絶叫する紅葉。
誰もが目の前の光景を信じられなかった。それでも理解していた。目の前で和也が矢に刺されたと。
「う、うるせぇな………少しは……静にしろ……」
「「「「和也!」」」」
「俺はいいから、そこの木の影にいるゴブリンを殺せ」
震える指で隠れていたゴブリンを指す。
「死ねえええぇぇ!」
正利が直ぐに近付きゴブリンを一刀両断した。
「これで安心だ。……もう、ゴブリンは……居ねぇから」
和也から徐々に体温が消えていく。
「和也死なないで!今すぐに回復魔法をかけるから!」
真由美は慌てて背中の矢を抜き、回復魔法を発動させようとした。
だが、
「よせ………無意味だ」
「ちょ、邪魔しないでよ!」
和也は力の入らない手で真由美の手首を掴む。それを払いのけて回復魔法を発動させようとする真由美。
「そんなことしたって……俺を苦しめる……だけだ」
「どいうことよ?」
「真由美……お前……鑑定スキル……持ってただろ……それで……矢を見てみろ……」
和也の言葉に一瞬驚く真由美。そして言われるままに和也の血が付着した矢を鑑定してみる。
「う、嘘でしょ!?」
鑑定結果
鑑定品
毒矢
説明
毒が塗られた矢。
鑑定品
ブラックスネークの毒
説明
ブラックスネークの毒はブラックスネークが持つ猛毒。
効果
血液中に入ると一時間以内に死ぬ。口から入れても死ぬことはなく、必ず血液内に入らないと死ぬことはない。
「わかった……だろ……。俺は………もうすぐ………死ぬ」
和也本人から告げられた悲惨な現実に勇治たちはただ涙を流し和也の言葉を聞くことしか出来なかった。
ここで解説しておこう。
この世界には回復魔法と治癒魔法が存在する。回復魔法は体力を回復させたり体の治癒力を活性化させる魔法だ。治癒魔法は怪我を治したり、毒などを除去したりする魔法だ。
「勇治……お前は……正義感が……強い……。だから……必ず……魔王を……倒せ……良いな?」
「ああ! ……わかったよ!」
「………真由美……お前には……魔法の……才能が……ある……。だから……できる………限り………たくさんの………魔法を………覚えて………練習しろ……それと……勇治を……頼むわ」
「わかった! 任せておいて!」
「……正利……お前は……調子に乗り……すぎて……紅葉に……心配させるゲホッ!……なよ……。あと、少しは………剣術だけでなく……ゲホッ!……魔法も練習……しろよ」
「わかった……。わかったから、もう喋るな!」
「紅葉……」
「はい……」
「正利は……ゲホッ!………いい奴……だ……。ちゃんと……手綱を……握っとけよ……。それとゲホッ!、ゲホッ!ゲホッ!……皆の……事……任せた……。お前ほど……周りが……見えてる奴は……居ねぇからな………」
「解りました……。任せて下さい!」
「なんだか……眠くなってきたな……」
「「「「和也!」」」」
「冗談だよ……ばあ~か……」
「「「「…………」」」」
「ちゃんと………見てるからよ……。頑張れよお前ら……」
「「「「……うん」」」」
「……………………………………」
「「「「和也!」」」」
「死んでねぇよ……。ちょと……疲れた……だけだ……。ゲホッ!」
(たく、相変わらず泣き虫だなお前ら。ちっとも成長してねぇ。でもま、俺がいない方が成長するだろうから結果オーライかな。でも……)
「俺の人生も……これまでか……。せめて……エルフと………ダークエルフに……会って……見たかったな……」
「………………………じゃあな」
「「「「ぅうわゎわわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」
この日、朝霧和也が命を落とした。
森全体に悲しみの絶叫が暗くなるまで続いた。
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