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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。
第百十八幕 あらたな問題とトランプ
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衛兵たちに今回の出来事の理由を説明した千夜。
信頼されているとはいえ、派手に遣りすぎた事もあり、ちゃんと謝罪する。勿論事前にベイベルグに知らせていた事もあり、大事になる事はなかった。
勇者たちと別れた千夜は城門前で待っていたセレナの許に歩み寄る。
「見送りに来る必要は無いぞ」
「いえ、今回は私が頼んだ事ですから。改めて御礼を申し上げます」
「なに、気にするな」
「でも、あれではセンヤさんが悪者に……」
「気にする事は無い。あれで良いんだ。雑な遣り方ではあるが効果は直ぐに出る。特効薬みたいな物だ」
「センヤさんがそう仰るなら、私は構いません」
「そう言って貰えると助かる。それじゃ帰るとする。またな」
「はい、またお会いしましょう」
感謝の気持ちを込めて頭を下げるセレナに見送られながら千夜は屋敷へと戻って行った。
******************************
ちょうどその頃、書斎で政務に励むベイベルグは頭を悩ませていた。
千夜が壁に穴を開けた事では無い。それは既に対処を済ませ終えていた。
現在ベイベルグが頭を悩ませているのはとある領地の問題だ。
「魔族との問題も解決しておらんと言うのに。まったく面倒な問題ばかり増える」
文官が持ってきた書類に目を通しながら額に手を当てる。そこにはこう書かれていた。
――都市ルーセントにて代官と闇ギルドが結託。
「月1で送られてくる代官の報告書が普通すぎて思わず諜報員を送ったが予想通りか。さてどうしたものか。私の命で代官を処罰すれば間違いなく噂が広まる。だからと言って穏便にすませるには難しいか。いや、頼める者は居る。だが……」
脳裏に浮かぶ一つの冒険者クラン。
「冒険者に頼むなどあってはならない。規定違反になる。が、仕方が無いか」
皇帝としてのプライドと何とかしたいと言う葛藤がついに決着した。
ベイベルグはオフィスデスクに置かれていた鈴を鳴らす。と一人の執事が別室から入ってくる。
「クラン月夜の酒鬼は明日王宮に来るよう伝えておいてくれ」
「畏まりました」
一礼すると執事は書斎を後にした。
「さて、エリーゼ殿になんて詫びれば良いのだ」
ベイベルグの悩みがなくなる事は無かった。
******************************
突如の事とはいえ、無事に勇治たちを立て直した千夜は書斎で書類を読みながらセバスと話していた。
「あれから暴動は起きて無いか?」
「はい。どうやらセンヤ様のお叱りが十分に効いたようです」
「そ、そうか」
暴動が起きていないことに喜ばしいと思いつつも恐怖で従えた事にどうしても納得がいかない千夜。
「それで、奴隷たちの訓練は心境状況は?」
「はい、頑張って下りますので予想よりも一週間程早く次の段階に行ってもよろしいかと」
「そうか。第二酒造場が出来る前に訓練が終わるのは喜ばしい事だ。そうなれば早めに教える事が出来るからな」
「その通りかと」
「他に問題は無いか?」
「はい、今のところは」
「そうか。ならバルノとアスカに一週間早くそっちに奴隷たちを連れて行くと伝えておいてくれ」
「畏まりました」
書類を置いた千夜はオフィスチェアに体重を預ける。
「少し休まれては如何ですか?」
「そうしたいのはやまやまだが、色々とやる事があるからな」
(ウラエウスから魔王の返事も聞いてないし。出来るだけ終わらせておきたい)
大きな戦争になっていないとはいえ、何時なるか分からない現状では出来るだけ仕事を終わらせておきたい千夜。
(それなら俺が魔王を倒したほうが良いのか? そうすればオールリキュールの仕事に専念できる。いや駄目だ。それはあいつ等の役目だ。我侭で殺し合いをすれば、それはただの殺人鬼と一緒だ)
千夜は戦うのは好きだが、殺すのが好きなわけではない。結果よりも過程が好きなのだ。だからと言ってその欲望を抑えられない程ではない。勿論時と場合は弁えている。必要なら過程よりも結果を求める時だってある。
「さて、この書類を片付けたら休むとしよう。エリーゼたちにもそう伝えておいてくれ」
「畏まりました」
(最近仕事ばかりだからな。好きでお店を出しているとはいえ、エリーゼたちとの時間は大切にしないとな)
千夜が恐れている事があるとすれば、それは拒絶。トラウマと言ってもいい。凍りついた心を溶かしてくれた存在たちが拒絶した時、今度こそ千夜は立ち直れる自信がない。と断言出来た。
だからこそ千夜は急いで仕事を終わらせる。
結局仕事が終わったのは、あれから一時間後の事だ。
仕事を終えた千夜は出来るだけ急いでエリーゼたちの許に向かう。
「あら、旦那様どうしたの?」
ミレーネ、クロエ、ラムの三人と楽しく千夜が作ったトランプで楽しむエリーゼ。
「い、いや、仕事が終わったから急いで来ただけだ」
「なら、一緒に遊ばない」
「あ、ああ」
不機嫌な様子も無い事に少し驚きつつも千夜はエリーゼの横に座る。
「仕事ばっかりで悪いな」
「ちゃんとこうして傍に居るんだもの私たちはそれだけで幸せよ」
優しい笑みを向けてくるエリーゼたち。その姿に千夜の心は震える。
(ああ、本当に俺は幸せ者だ)
大切な家族、愛する妻たち。その存在に改めて感謝する千夜であった。
信頼されているとはいえ、派手に遣りすぎた事もあり、ちゃんと謝罪する。勿論事前にベイベルグに知らせていた事もあり、大事になる事はなかった。
勇者たちと別れた千夜は城門前で待っていたセレナの許に歩み寄る。
「見送りに来る必要は無いぞ」
「いえ、今回は私が頼んだ事ですから。改めて御礼を申し上げます」
「なに、気にするな」
「でも、あれではセンヤさんが悪者に……」
「気にする事は無い。あれで良いんだ。雑な遣り方ではあるが効果は直ぐに出る。特効薬みたいな物だ」
「センヤさんがそう仰るなら、私は構いません」
「そう言って貰えると助かる。それじゃ帰るとする。またな」
「はい、またお会いしましょう」
感謝の気持ちを込めて頭を下げるセレナに見送られながら千夜は屋敷へと戻って行った。
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ちょうどその頃、書斎で政務に励むベイベルグは頭を悩ませていた。
千夜が壁に穴を開けた事では無い。それは既に対処を済ませ終えていた。
現在ベイベルグが頭を悩ませているのはとある領地の問題だ。
「魔族との問題も解決しておらんと言うのに。まったく面倒な問題ばかり増える」
文官が持ってきた書類に目を通しながら額に手を当てる。そこにはこう書かれていた。
――都市ルーセントにて代官と闇ギルドが結託。
「月1で送られてくる代官の報告書が普通すぎて思わず諜報員を送ったが予想通りか。さてどうしたものか。私の命で代官を処罰すれば間違いなく噂が広まる。だからと言って穏便にすませるには難しいか。いや、頼める者は居る。だが……」
脳裏に浮かぶ一つの冒険者クラン。
「冒険者に頼むなどあってはならない。規定違反になる。が、仕方が無いか」
皇帝としてのプライドと何とかしたいと言う葛藤がついに決着した。
ベイベルグはオフィスデスクに置かれていた鈴を鳴らす。と一人の執事が別室から入ってくる。
「クラン月夜の酒鬼は明日王宮に来るよう伝えておいてくれ」
「畏まりました」
一礼すると執事は書斎を後にした。
「さて、エリーゼ殿になんて詫びれば良いのだ」
ベイベルグの悩みがなくなる事は無かった。
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突如の事とはいえ、無事に勇治たちを立て直した千夜は書斎で書類を読みながらセバスと話していた。
「あれから暴動は起きて無いか?」
「はい。どうやらセンヤ様のお叱りが十分に効いたようです」
「そ、そうか」
暴動が起きていないことに喜ばしいと思いつつも恐怖で従えた事にどうしても納得がいかない千夜。
「それで、奴隷たちの訓練は心境状況は?」
「はい、頑張って下りますので予想よりも一週間程早く次の段階に行ってもよろしいかと」
「そうか。第二酒造場が出来る前に訓練が終わるのは喜ばしい事だ。そうなれば早めに教える事が出来るからな」
「その通りかと」
「他に問題は無いか?」
「はい、今のところは」
「そうか。ならバルノとアスカに一週間早くそっちに奴隷たちを連れて行くと伝えておいてくれ」
「畏まりました」
書類を置いた千夜はオフィスチェアに体重を預ける。
「少し休まれては如何ですか?」
「そうしたいのはやまやまだが、色々とやる事があるからな」
(ウラエウスから魔王の返事も聞いてないし。出来るだけ終わらせておきたい)
大きな戦争になっていないとはいえ、何時なるか分からない現状では出来るだけ仕事を終わらせておきたい千夜。
(それなら俺が魔王を倒したほうが良いのか? そうすればオールリキュールの仕事に専念できる。いや駄目だ。それはあいつ等の役目だ。我侭で殺し合いをすれば、それはただの殺人鬼と一緒だ)
千夜は戦うのは好きだが、殺すのが好きなわけではない。結果よりも過程が好きなのだ。だからと言ってその欲望を抑えられない程ではない。勿論時と場合は弁えている。必要なら過程よりも結果を求める時だってある。
「さて、この書類を片付けたら休むとしよう。エリーゼたちにもそう伝えておいてくれ」
「畏まりました」
(最近仕事ばかりだからな。好きでお店を出しているとはいえ、エリーゼたちとの時間は大切にしないとな)
千夜が恐れている事があるとすれば、それは拒絶。トラウマと言ってもいい。凍りついた心を溶かしてくれた存在たちが拒絶した時、今度こそ千夜は立ち直れる自信がない。と断言出来た。
だからこそ千夜は急いで仕事を終わらせる。
結局仕事が終わったのは、あれから一時間後の事だ。
仕事を終えた千夜は出来るだけ急いでエリーゼたちの許に向かう。
「あら、旦那様どうしたの?」
ミレーネ、クロエ、ラムの三人と楽しく千夜が作ったトランプで楽しむエリーゼ。
「い、いや、仕事が終わったから急いで来ただけだ」
「なら、一緒に遊ばない」
「あ、ああ」
不機嫌な様子も無い事に少し驚きつつも千夜はエリーゼの横に座る。
「仕事ばっかりで悪いな」
「ちゃんとこうして傍に居るんだもの私たちはそれだけで幸せよ」
優しい笑みを向けてくるエリーゼたち。その姿に千夜の心は震える。
(ああ、本当に俺は幸せ者だ)
大切な家族、愛する妻たち。その存在に改めて感謝する千夜であった。
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