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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。
第百十七幕 宿木と託す
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嗚咽にも似た奇声が応接室から聞こえるのを無視して千夜とセレナは勇治たちの許に向かった。
「あ、あの、センヤさん」
「なんだ?」
「さっき皇帝陛下に王宮に穴を開けるって言ってましたけど、あれって冗談ですよね」
「あんな冗談言ってどうする。本当だ」
「そんな……」
千夜に頼んだ事を今になって後悔しているセレナ。
「勿論、勇治たちが直ぐにでも立ち直るなら、軽く話す程度で済む筈だ」
「それなら――!」
「ま、そう上手くは行かないだろうから、先に伝えたんだがな」
「そうですよね……」
(私ですら無理だったんですから、当たり前ですよね。でもセンヤさんならって考えてしまうです)
窺うように視線を千夜に向ける。
(いつもクールで冷静に物事を見て判断する。でも、どこか抜けてて。それでもセンヤさんら何とかしてくれる。そう思わせてくれるんです)
セレナが千夜に向ける物。それは信頼。心の底からの信頼。
話した回数、一緒に居る時間は限りなく少なく、千夜が和也の時のを会わせても少ない。なのにセレナが千夜を信頼出来るのは、百鬼千夜という人物が持つ何か。
圧倒的な力でも、財力でも無い何か。
一緒に居るだけで心が落ち着き、安心する何か。
それはまるで、草原に生えた一本の木。太く頑丈で、どんな突風や嵐にも負ける事は無く、蒼天の広がる日には鳥や動物たちが枝や木陰で安らかに休める宿木。安心を与えてくれる存在。
勝手に凭れ掛かってしまう存在。
「センヤさん」
「どうした?」
「改めてお願いします」
「ああ、任せろ」
頭を下げるセレナ。
そんな彼女に笑みを浮かべて頭を撫でながら返答する。
移動する事数分。目的地に到着した。
「ここに勇治たちが居るのか?」
「はい、フィリス聖王国からの知らせを聞いた途端、勇治さんたちはこの部屋に全員で引きこもってしまいました」
「まったく、年頃の男女が一部屋に一ヶ月も篭るとは、けしからんな」
(それはセンヤさんが言える事では無いような)
千夜の独り言に対して内心ツッコむセレナ。
「先に言っておく」
「はい、なんでしょうか?」
「遣るからには俺の遣り方でやる。そうなると間違いなく優しいセレナは辛く感じる。それでも良いのか?」
「はい。覚悟は出来ています」
「そうか。なら、後は任せろ」
そうして千夜はドアを破壊した。
回し蹴りで破壊された扉はくの字に折れた状態で一直線に壁に激突した。
「セン――!」
(センヤさんに任せると決めたんです。私が口出しするわけには)
開いた口を閉ざしたセレナは真剣な眼差しで千夜の背中を見詰めた。
「入らせて貰うぞ」
ドアを破壊したにも拘わらず悪い事をしたという罪悪感を感じさせる素振りを見せる事無く千夜は堂々と室内に入る。
「予想以上に陰気臭い事になってるな」
カーテンは締め切られ薄暗く、まともな光はカーテンの隙間から差し込む僅かな日光のみ室内は陰鬱な重たい空気が充満していた。
突然扉が破壊されたにも拘わらず、まったく反応を示さない勇者たち。
ベッドで蹲るように横たわる奏。そんなベッドに座り互いに凭れ掛かる真由美と紅葉。ソファーに座り俯いたままの勇治と天井を見上げる正利。
「こんな部屋に居たら俺まで憂鬱になりそうだ」
室内を見渡しながら感想を吐き捨てる。
「何しに来たんですか……」
視線だけを向けて質問する勇治。その声音にはまったく覇気が無かった。
「セレナから話を聞いてな。魔王を倒し魔族から人間、エルフ、ダークエルフ、ドワーフたちを救う救世主である勇者様方が一ヶ月も部屋に閉じこもっていると聞いて来ただけだ」
「それなら、帰って下さい。僕たちにはもう戦う事は出来ませんから……」
「ま、確かに俺には関係無い事だからな。だけどー―」
先程まで入り口に立っていた筈の千夜の姿が消えた課と思えば勇治の襟首を掴んで壁に向かって投げつけていたた。
圧倒的ステータスを誇る千夜の力で投げられた勇治は壁を破壊して庭に落ちた。
「こっちにも事情があってな。そうもいかないんだよ」
「ちょっ! いきなり何するのよ!」
突然の事に真由美たちは驚愕するが、その表情には怒りで険しい表情になっていた。
だが、すぐさま勇治の安否を確かめるべく破壊され穴が開いた壁から覗くように見下ろす。
その隙にと千夜は真由美たちを蹴り落とす。
突然浮遊感に襲われた真由美たちは理解が遅れたがなんとか受身する事で怪我を免れた。
「どんなに腐っても勇者だな。この程度では死ぬ事は無いか」
悪びれた様子も無く平然と穴から飛び降りて着地する。そんな千夜を勇治たちは睨みつける。
「それにしても和也も間抜けって言うか馬鹿だよな。一度死んで運よく蘇ったのにまた死ぬなんて愚か以外の他でもない」
「アンタに何が分かるのよ!」
千夜から吐き捨てられた悪態に反応したのは奏だった。
立ち上がり千夜の胸倉を掴む。
「お兄ちゃんは自分が信じる正義に従って魔族と戦い死んだのよ! 好き勝手生きてるアンタとは違うのよ!」
「ま、確かに俺とは違うな。俺ならもっと上手く戦うからな。死ぬ事だって無かっただろうしな」
「っ! だったらアンタが魔王を倒せば良いでしょ!」
「ま、魔王が俺のテリトリーに土足で入るような事があれば倒すだろうが、しないなら戦う理由が無い。何故なら俺は冒険者だからだ。魔王を倒すのは勇者であるお前たちの仕事だ」
「それは……」
「それに和也が信じる正義をお前たちは一度拒絶したんだろ?」
「どうしてそれを知ってるのよ……」
「セレナから聞いたからな」
千夜の言葉に奏は穴から見下ろすセレナを睨む。
「セレナを恨むのは間違いだ。俺が知りたかっただけだからな」
「どうして知りたかったのよ」
「なに、ただの興味本意だ」
「最低ね」
「好きに言えば良い。それよりもどうして一度拒絶した相手が死んだぐらいでそこまで落ち込む?」
「家族だから、友達だからに決まってるじゃない!」
「だが、和也本人から縁を切ったとセレナから聞いたが」
「それもセレナから聞いたの?」
「そうだ」
再びセレナを睨む。
気がつけば勇治たちも立ち上がり奏の近くまで来ていた。
「なのにどうして未だに落ち込んでいる」
「アンタには分からないわよ」
「ああ、分からないな。分かりたくも無い。もしも俺が勇者で死んだとしたら、生き残った奴らに託すけどな」
「「「「っ!」」」」
千夜の言葉に奏以外は初めての実践訓練での出来事が脳裏に蘇る。
「俺には俺の考えがある。それはどんな嫌な事でも引き受けた以上最後まで成し遂げるって事だ。もしも途中で死んだとしても仲間が代わりに成し遂げてくれる。俺はそう信じている。だから安心して成仏できる。和也が信じる正義に俺と似た考えがあるならきっと成仏出来ないだろうな。こんな腑抜けた奴らが勇者なんだからな」
「好き勝手に生きているアンタだけには言われたくないわよ!」
言いたい放題言われた奏の怒りは頂点を迎え爆発し千夜を殴ろうとした。が、千夜に難なくと止められてしまう。
「言われたくないなら、見せてみろ。成し遂げてみろ。見返してみろ」
淡々と言い放つ千夜。
上から目線で言われた奏たちの目には闘志が宿っていた。
「分かったわ。見てなさい。アンタの口から悪態以外を言わせてやる!」
「そうか。楽しみにしている」
上からの態度に苛立ちを覚える奏たちだったが、そんな彼女たちの姿を見てセレナは安堵した。
「やっぱり流石ですね。和也さん」
けして聞かれること無い呟きは突然の出来事で集まってきた衛兵たちの声で掻き消されるのであった。
「あ、あの、センヤさん」
「なんだ?」
「さっき皇帝陛下に王宮に穴を開けるって言ってましたけど、あれって冗談ですよね」
「あんな冗談言ってどうする。本当だ」
「そんな……」
千夜に頼んだ事を今になって後悔しているセレナ。
「勿論、勇治たちが直ぐにでも立ち直るなら、軽く話す程度で済む筈だ」
「それなら――!」
「ま、そう上手くは行かないだろうから、先に伝えたんだがな」
「そうですよね……」
(私ですら無理だったんですから、当たり前ですよね。でもセンヤさんならって考えてしまうです)
窺うように視線を千夜に向ける。
(いつもクールで冷静に物事を見て判断する。でも、どこか抜けてて。それでもセンヤさんら何とかしてくれる。そう思わせてくれるんです)
セレナが千夜に向ける物。それは信頼。心の底からの信頼。
話した回数、一緒に居る時間は限りなく少なく、千夜が和也の時のを会わせても少ない。なのにセレナが千夜を信頼出来るのは、百鬼千夜という人物が持つ何か。
圧倒的な力でも、財力でも無い何か。
一緒に居るだけで心が落ち着き、安心する何か。
それはまるで、草原に生えた一本の木。太く頑丈で、どんな突風や嵐にも負ける事は無く、蒼天の広がる日には鳥や動物たちが枝や木陰で安らかに休める宿木。安心を与えてくれる存在。
勝手に凭れ掛かってしまう存在。
「センヤさん」
「どうした?」
「改めてお願いします」
「ああ、任せろ」
頭を下げるセレナ。
そんな彼女に笑みを浮かべて頭を撫でながら返答する。
移動する事数分。目的地に到着した。
「ここに勇治たちが居るのか?」
「はい、フィリス聖王国からの知らせを聞いた途端、勇治さんたちはこの部屋に全員で引きこもってしまいました」
「まったく、年頃の男女が一部屋に一ヶ月も篭るとは、けしからんな」
(それはセンヤさんが言える事では無いような)
千夜の独り言に対して内心ツッコむセレナ。
「先に言っておく」
「はい、なんでしょうか?」
「遣るからには俺の遣り方でやる。そうなると間違いなく優しいセレナは辛く感じる。それでも良いのか?」
「はい。覚悟は出来ています」
「そうか。なら、後は任せろ」
そうして千夜はドアを破壊した。
回し蹴りで破壊された扉はくの字に折れた状態で一直線に壁に激突した。
「セン――!」
(センヤさんに任せると決めたんです。私が口出しするわけには)
開いた口を閉ざしたセレナは真剣な眼差しで千夜の背中を見詰めた。
「入らせて貰うぞ」
ドアを破壊したにも拘わらず悪い事をしたという罪悪感を感じさせる素振りを見せる事無く千夜は堂々と室内に入る。
「予想以上に陰気臭い事になってるな」
カーテンは締め切られ薄暗く、まともな光はカーテンの隙間から差し込む僅かな日光のみ室内は陰鬱な重たい空気が充満していた。
突然扉が破壊されたにも拘わらず、まったく反応を示さない勇者たち。
ベッドで蹲るように横たわる奏。そんなベッドに座り互いに凭れ掛かる真由美と紅葉。ソファーに座り俯いたままの勇治と天井を見上げる正利。
「こんな部屋に居たら俺まで憂鬱になりそうだ」
室内を見渡しながら感想を吐き捨てる。
「何しに来たんですか……」
視線だけを向けて質問する勇治。その声音にはまったく覇気が無かった。
「セレナから話を聞いてな。魔王を倒し魔族から人間、エルフ、ダークエルフ、ドワーフたちを救う救世主である勇者様方が一ヶ月も部屋に閉じこもっていると聞いて来ただけだ」
「それなら、帰って下さい。僕たちにはもう戦う事は出来ませんから……」
「ま、確かに俺には関係無い事だからな。だけどー―」
先程まで入り口に立っていた筈の千夜の姿が消えた課と思えば勇治の襟首を掴んで壁に向かって投げつけていたた。
圧倒的ステータスを誇る千夜の力で投げられた勇治は壁を破壊して庭に落ちた。
「こっちにも事情があってな。そうもいかないんだよ」
「ちょっ! いきなり何するのよ!」
突然の事に真由美たちは驚愕するが、その表情には怒りで険しい表情になっていた。
だが、すぐさま勇治の安否を確かめるべく破壊され穴が開いた壁から覗くように見下ろす。
その隙にと千夜は真由美たちを蹴り落とす。
突然浮遊感に襲われた真由美たちは理解が遅れたがなんとか受身する事で怪我を免れた。
「どんなに腐っても勇者だな。この程度では死ぬ事は無いか」
悪びれた様子も無く平然と穴から飛び降りて着地する。そんな千夜を勇治たちは睨みつける。
「それにしても和也も間抜けって言うか馬鹿だよな。一度死んで運よく蘇ったのにまた死ぬなんて愚か以外の他でもない」
「アンタに何が分かるのよ!」
千夜から吐き捨てられた悪態に反応したのは奏だった。
立ち上がり千夜の胸倉を掴む。
「お兄ちゃんは自分が信じる正義に従って魔族と戦い死んだのよ! 好き勝手生きてるアンタとは違うのよ!」
「ま、確かに俺とは違うな。俺ならもっと上手く戦うからな。死ぬ事だって無かっただろうしな」
「っ! だったらアンタが魔王を倒せば良いでしょ!」
「ま、魔王が俺のテリトリーに土足で入るような事があれば倒すだろうが、しないなら戦う理由が無い。何故なら俺は冒険者だからだ。魔王を倒すのは勇者であるお前たちの仕事だ」
「それは……」
「それに和也が信じる正義をお前たちは一度拒絶したんだろ?」
「どうしてそれを知ってるのよ……」
「セレナから聞いたからな」
千夜の言葉に奏は穴から見下ろすセレナを睨む。
「セレナを恨むのは間違いだ。俺が知りたかっただけだからな」
「どうして知りたかったのよ」
「なに、ただの興味本意だ」
「最低ね」
「好きに言えば良い。それよりもどうして一度拒絶した相手が死んだぐらいでそこまで落ち込む?」
「家族だから、友達だからに決まってるじゃない!」
「だが、和也本人から縁を切ったとセレナから聞いたが」
「それもセレナから聞いたの?」
「そうだ」
再びセレナを睨む。
気がつけば勇治たちも立ち上がり奏の近くまで来ていた。
「なのにどうして未だに落ち込んでいる」
「アンタには分からないわよ」
「ああ、分からないな。分かりたくも無い。もしも俺が勇者で死んだとしたら、生き残った奴らに託すけどな」
「「「「っ!」」」」
千夜の言葉に奏以外は初めての実践訓練での出来事が脳裏に蘇る。
「俺には俺の考えがある。それはどんな嫌な事でも引き受けた以上最後まで成し遂げるって事だ。もしも途中で死んだとしても仲間が代わりに成し遂げてくれる。俺はそう信じている。だから安心して成仏できる。和也が信じる正義に俺と似た考えがあるならきっと成仏出来ないだろうな。こんな腑抜けた奴らが勇者なんだからな」
「好き勝手に生きているアンタだけには言われたくないわよ!」
言いたい放題言われた奏の怒りは頂点を迎え爆発し千夜を殴ろうとした。が、千夜に難なくと止められてしまう。
「言われたくないなら、見せてみろ。成し遂げてみろ。見返してみろ」
淡々と言い放つ千夜。
上から目線で言われた奏たちの目には闘志が宿っていた。
「分かったわ。見てなさい。アンタの口から悪態以外を言わせてやる!」
「そうか。楽しみにしている」
上からの態度に苛立ちを覚える奏たちだったが、そんな彼女たちの姿を見てセレナは安堵した。
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