鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

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その頃、立て直した勇者は?

己の手を汚す覚悟

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「なんだ分からないのか? お前たち、特に勇治お前なら分かっていると思ったんだがな」
「え、それは……」
 何が言いたいのかさっぱり分からない。まず依頼内容すら分かっていない状態で解れと言う方が無理だ。だが、奏や紅葉は理解したのか纏う雰囲気が変わる。

「まあ、良いだろう。今回お前たちにして貰う依頼は、盗賊団の討伐だ」
「え?」
 バルディの言葉に勇治の思考は一時停止した。

「逮捕じゃ無くて討伐ですか?」
「そうだ」
 バルディの冷徹にして冷酷な鋭い視線が勇治を貫くかのように見詰める。

「で、でも別に殺す必要はありませんよね」
「勇治この国の法律は知っているか?」
「は、はい……」
 バルディが何を言いたいのか勇治は理解した。
(この国の法律、盗賊、海賊は罪の重さに関係無く死刑。変わるのは処刑の違い。重いほど苦しく殺される)

「だったら、解るな」
「でもそれは僕の正義に反します!」
 握り拳を作り真っ直ぐとバルディを見て言い放つ。

「………勇治、お前は優しい。誰に足しても。そして自分にもな」
「そんな事はありません!」
 バルディの言葉に苛立ちと怒りまして大声で反論する。

「いや、お前は優しいと言うよりも甘い」
「そんな事はありません! 辛い訓練も弱音吐いてませんし、自主訓練だってだれよりも――」
「そう言う意味じゃない」
「ではどういう意味でですか?」
「覚悟が無いって言ってるんだよ!」
「だから覚悟はあります!」
「なら、お前は人を殺す覚悟があるって言うのか?」
「どうしてそんな覚悟をする必要があるんですか。人殺しは悪い事なのに!」
「確かにその通りだ。じゃあ、お前は今回の依頼を討伐から逮捕に変えたとしよう」
「はい」
「お前は依頼を果たし、衛兵に盗賊を引き渡した。お前はそれで依頼を果たして満足かもしれないが、捕まった盗賊たちはどうなると思う?」
「そ、それは……処刑されます」
「そうだ。処刑人や兵士たちの手によって殺される。それってつまり本当ならお前たちが殺す筈だった奴らを肩代わりしたって事だよな」
「っ!」
「誰だって殺しがしたい奴なんて居ないだろう。だが、それが仕事である以上、生きるため、誰かを護るためには己の手を汚す覚悟だっているんだ。俺はそんな奴らを悪人だとは思わない。それどころか良くやってくれたと賞賛の言葉を投げかけたり、労ってやりたいとも思う。だけど正義、正義とただ言うだけで自分の手は汚す覚悟も無く、他人任せの奴の方がよっぽど悪人だと俺は思うがな。お前たちはどう思う?」
「………」
 バルディの言葉にこれまでの思い出がフラッシュバックする。
 和也が初めて人を殺した時。蟲毒の蛇の襲撃を返り討ちにした時。魔王軍十二神将の補佐官を倒した時。その全てが自分たちではなく、他の者の手によって殺されていた事に勇治だけでなく真由美たちまでもが何も言い返せなかった。

「もう一度言うが誰だって殺しがしたい奴はいない。それでも誰かを護るため、犯罪者を減らし悲しむ者を減らすために己の手を汚す覚悟がある奴こそが正義であり、正義を語れるんじゃないのか?」
 先程とは違い優しく投げかけるバルディの言葉。その言葉に勇治たちの頬に一筋の線が出来る。

「はい。その通りだと……思います!」
「今回の依頼はお前たちだけじゃ心配だから念のために指導役を用意した。明日8の鐘が鳴るまでにギルドに来てくれ」
「解りました」
 奥歯を噛み締めたまま勇治たちは部屋を後にした。
 勇治たちが出て行ったのを確認したバルディは背もたれに体重を預ける。

「まったく手の掛かる勇者だな。いったいどんな世界で暮らして居たんだか」
 吸い込んだ空気を吐き出したバルディは仕事に戻るのであった。

              ******************************

 ギルドを後にしたのは、話が終わってから2時間後の事だった。涙を流した顔を見られないようにするためではない。
 冒険者や受付嬢たちの話を聞いていたからだ。
 盗賊たちの討伐を依頼をした事があるかを訊き、その時の心情などを聞いた。訊いて冒険者たちから返ってくる言葉の中に必ずある言葉、それは、

 ――良い気持ちにはならない。
 
 生きるため、被害を出さないため、金を稼ぐため、どんな理由であれ、やはり人殺しほど良い気分になれないものはない。

「人を殺す覚悟は出来てるんですか?」
 そんな質問に足しては、覚悟なんてない。出来てない。などが殆どだった。それでも引き受けた以上、やり遂げる。そして嫌な事は面白い事や楽しい事を話しながら思い出しながら酒を飲んで忘れる。

「やはり考え方は人それぞれなんだね」
「あたりまえでしょ。何を今更」
「今日の真由美は厳しいな」
「仕方ないじゃない。私だって今すぐ覚悟が出来るてる訳じゃないもの。でも、もう二度と大切な仲間を友達を失いたくないもの……」
「そうだね……」
 勇者になる事を引き受けた。それがどれだけの重荷であり、重大な事なのかようやく理解した勇治たちは明日の為に王宮に戻るのだった。
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