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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。
第一幕 出発と受け売り
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次の日、準備が整った千夜たちは屋敷の前で集まっていた。
冒険者として都市ルーセントに向かうのは、千夜、エリーゼ、ミレーネ、クロエ、エルザ、ウィルの六人である。タイガーは屋敷の警備として待機させる事にした。
「タイガー屋敷の警備は頼んだぞ」
「はっ、家臣として命に代えましても全うする所存にございます」
「ラムもローと一緒に護ってくれ」
「うん、分かった!」
「ガウッ!」
セバスやタイガーたちに見送られながら千夜たちは出発した。
今回の依頼はこれまでとは違い内容もメンバーも異例だが千夜は気にしていなかった。ただ、少しでもエリーゼやウィルが元気になれば良いとしか考えていない。
そんなこんなで時間は過ぎてゆき、気がつけば空は茜色に染まり始めていた。
都市ルーセントは帝都から南南東にあり、距離にして馬車で5日の距離だ。勿論冒険者の千夜たちは馬車など使わず走って向かっている。そっちの方が早く到着するからだが、今回はウィルも居るため移動速度も遅く、休憩回数も増えているためそこまで到着時間は変わらない。
街道沿いの川で野宿する事にした千夜たちはさっそく準備に取り掛かる。それぞれに与えられた役割を慣れた手つきで準備する千夜たち。それを見てウィルは感嘆の念を覚える。
「お母様たちはいつもこんな事をしてるんですか?」
「そうよ。冒険者だもの」
「干し肉とか準備していないのですか? 学園ではそう習ったのですが」
「確かに念のために保存食はあるけど、大抵はその日の夕食は野宿の準備をする時に役割の人が仕留めているわ。そうした方が動物たちの行動を学ぶ事が出来るし、解剖なんかも上手くなるしね。ま、旦那様の受け売りなんだけどね」
「そうなんですか?」
「まあ、狩猟が得意な者とそうでない者いるから、時間が掛かったり、量が少なかったりとその時その時疎らなんだけど、文句はないわね」
「どうしてですか? 疲れてお腹いっぱい食べたいと誰だって思いますよ」
「そうね。でも、捕って来た本人がそれを一番理解している。だから何も言わないの。ただ捕って来た事を感謝するだけ、だから次は頑張ろうって捕って来た本人も思うのよ」
「そういうものなんですか?」
「互いに相手の事をよく理解すればの話だけどね」
「なるほど、では野宿の際に困った事とか無いのすか?」
「困った事か……」
ウィルの質問にエリーゼは苦笑いでミレーネたちを見る。ミレーネたちもまた同じ気持ちなのか頬を引きつらせていた。
「どうしたんですか?」
「困った事はあるわよ」
「やはり食材が捕って帰れなかった時とかですか?」
「まあ確かにそれもあったけど、逆なのよね」
「逆ですか?」
エリーゼの言葉にウィルは首を傾げる。
「ねえ、ウィル」
「なんですか?」
「今、食材を捕りに行ってるのは誰?」
「え、それはお父様ですけど……」
「覚悟しておいた方が良いわよ。たまにあるんだけど、絶対今日はそれだから」
「な、なんですか。その言葉は」
エリーゼの言葉に怯えるウィル。するとドスン、ドスンという地鳴り音が森の中から聞こえ始める。
「もしかして魔物!」
ウィルは慌てて剣を構える。
頬を冷や汗を垂らしながらその時を待つ。
数分して森の中から現れたのは額に一本の角を生やした巨大な虎を担いだ千夜だった。
「やっぱり」
予想通り過ぎて思わず頭に手を当てるエリーゼ。
「どうしたんだウィル剣なんか構えて?」
「え、いや、これは……」
どうして良いのか分からなくなり、戸惑いながらも剣を鞘に戻す。
「それよりお父様、その魔物は?」
「ああ、これか。これはミスト・タイガーだ。今日はウィルも一緒だからな美味しい物を食べさせたいと思って狩って来た」
全長6メートルはあろうという巨大な魔物を軽々と持ち上げる千夜の姿にウィルは呆気に取られる。
「ミスト・タイガーってSランクの魔物ですよね。今の時期だと冬眠している筈ですが」
「ああ、丁度獲物を探しているときに冬眠しているのを見つけたから狩ったんだ」
「解ったでしょウィル。狩ってくるのは良いんだけど、大き過ぎるし量が多いのよ」
「よく分かりました」
いつもクールな千夜だが、それは表情にあまりでないだけで心の中では父親として良い所を見せたいと張り切っていたのだ。
「ウィル一緒に捌くぞ」
「は、はい!」
ウィルは慣れない手つきミスト・タイガーを捌いていく。結局皮剥ぎだけで1時間以上の時間を費やした所で千夜と交代した。
「どうぞ、お水です」
「有難うございますミレーネお姉さま」
差し出された水を勢いよく流し込み喉を潤す。数秒して水筒から口を外したウィルは物凄い勢いで解体していく千夜の姿に魅了されていた。
「どうしました?」
「いえ、お父様は凄いなって思いまして」
「確かにセンヤさんは凄いです。私たちですら敵いませんからね。でも落ち込む必要はありません」
「え?」
「ウィル君は私をどう思いますか?」
「どうって?」
「そうですね。最初っから強かったと思いますか?」
「失礼ですが、そうは思いません」
「その通りです。昔の私はウィル君と始めて会った時は今のウィル君より弱かったと思います」
「そうなんですか?」
「ええ。でも大切な家族と一緒に辛い訓練をしたり依頼をこなして行き、センヤさんに指導して貰ったからこそ、今の私があります」
「そうなんですね」
「そして、その中に今ウィル君も居るんですよ」
「っ! 本当ですか?」
「ええ。だからセンヤに出来るところまで教えて貰えると良いですよ。そしたらきっともっと強くなれますから」
「はい!」
「但し焦っては駄目です。焦ったら視野を狭めて戦闘の際に死ぬ確立があがりますから」
「流石はミレーネお姉さまです」
「本当はこれもセンヤさんの受け売りなんですけどね」
笑顔で慰めてくれるミレーネの姿に感謝しながら、もう一度水筒を傾ける。
「よし、捌き終わったから、エルザ調理を頼む」
「解りました。ついでに明日の朝食と昼食の準備をしておきます」
「別に今じゃなくてもよくないか?」
「いえ、量が多いのでなるべく早く作って主様のアイテムボックスに入れてもらいたいと思っています」
「今日のエルザは冷たいな」
「誰かさんが張り切りすぎて大きな獲物を狩って来るからでしょ」
「そうか?」
エリーゼの皮肉に首を傾げる千夜の姿にウィルは笑みを零すのだった。
冒険者として都市ルーセントに向かうのは、千夜、エリーゼ、ミレーネ、クロエ、エルザ、ウィルの六人である。タイガーは屋敷の警備として待機させる事にした。
「タイガー屋敷の警備は頼んだぞ」
「はっ、家臣として命に代えましても全うする所存にございます」
「ラムもローと一緒に護ってくれ」
「うん、分かった!」
「ガウッ!」
セバスやタイガーたちに見送られながら千夜たちは出発した。
今回の依頼はこれまでとは違い内容もメンバーも異例だが千夜は気にしていなかった。ただ、少しでもエリーゼやウィルが元気になれば良いとしか考えていない。
そんなこんなで時間は過ぎてゆき、気がつけば空は茜色に染まり始めていた。
都市ルーセントは帝都から南南東にあり、距離にして馬車で5日の距離だ。勿論冒険者の千夜たちは馬車など使わず走って向かっている。そっちの方が早く到着するからだが、今回はウィルも居るため移動速度も遅く、休憩回数も増えているためそこまで到着時間は変わらない。
街道沿いの川で野宿する事にした千夜たちはさっそく準備に取り掛かる。それぞれに与えられた役割を慣れた手つきで準備する千夜たち。それを見てウィルは感嘆の念を覚える。
「お母様たちはいつもこんな事をしてるんですか?」
「そうよ。冒険者だもの」
「干し肉とか準備していないのですか? 学園ではそう習ったのですが」
「確かに念のために保存食はあるけど、大抵はその日の夕食は野宿の準備をする時に役割の人が仕留めているわ。そうした方が動物たちの行動を学ぶ事が出来るし、解剖なんかも上手くなるしね。ま、旦那様の受け売りなんだけどね」
「そうなんですか?」
「まあ、狩猟が得意な者とそうでない者いるから、時間が掛かったり、量が少なかったりとその時その時疎らなんだけど、文句はないわね」
「どうしてですか? 疲れてお腹いっぱい食べたいと誰だって思いますよ」
「そうね。でも、捕って来た本人がそれを一番理解している。だから何も言わないの。ただ捕って来た事を感謝するだけ、だから次は頑張ろうって捕って来た本人も思うのよ」
「そういうものなんですか?」
「互いに相手の事をよく理解すればの話だけどね」
「なるほど、では野宿の際に困った事とか無いのすか?」
「困った事か……」
ウィルの質問にエリーゼは苦笑いでミレーネたちを見る。ミレーネたちもまた同じ気持ちなのか頬を引きつらせていた。
「どうしたんですか?」
「困った事はあるわよ」
「やはり食材が捕って帰れなかった時とかですか?」
「まあ確かにそれもあったけど、逆なのよね」
「逆ですか?」
エリーゼの言葉にウィルは首を傾げる。
「ねえ、ウィル」
「なんですか?」
「今、食材を捕りに行ってるのは誰?」
「え、それはお父様ですけど……」
「覚悟しておいた方が良いわよ。たまにあるんだけど、絶対今日はそれだから」
「な、なんですか。その言葉は」
エリーゼの言葉に怯えるウィル。するとドスン、ドスンという地鳴り音が森の中から聞こえ始める。
「もしかして魔物!」
ウィルは慌てて剣を構える。
頬を冷や汗を垂らしながらその時を待つ。
数分して森の中から現れたのは額に一本の角を生やした巨大な虎を担いだ千夜だった。
「やっぱり」
予想通り過ぎて思わず頭に手を当てるエリーゼ。
「どうしたんだウィル剣なんか構えて?」
「え、いや、これは……」
どうして良いのか分からなくなり、戸惑いながらも剣を鞘に戻す。
「それよりお父様、その魔物は?」
「ああ、これか。これはミスト・タイガーだ。今日はウィルも一緒だからな美味しい物を食べさせたいと思って狩って来た」
全長6メートルはあろうという巨大な魔物を軽々と持ち上げる千夜の姿にウィルは呆気に取られる。
「ミスト・タイガーってSランクの魔物ですよね。今の時期だと冬眠している筈ですが」
「ああ、丁度獲物を探しているときに冬眠しているのを見つけたから狩ったんだ」
「解ったでしょウィル。狩ってくるのは良いんだけど、大き過ぎるし量が多いのよ」
「よく分かりました」
いつもクールな千夜だが、それは表情にあまりでないだけで心の中では父親として良い所を見せたいと張り切っていたのだ。
「ウィル一緒に捌くぞ」
「は、はい!」
ウィルは慣れない手つきミスト・タイガーを捌いていく。結局皮剥ぎだけで1時間以上の時間を費やした所で千夜と交代した。
「どうぞ、お水です」
「有難うございますミレーネお姉さま」
差し出された水を勢いよく流し込み喉を潤す。数秒して水筒から口を外したウィルは物凄い勢いで解体していく千夜の姿に魅了されていた。
「どうしました?」
「いえ、お父様は凄いなって思いまして」
「確かにセンヤさんは凄いです。私たちですら敵いませんからね。でも落ち込む必要はありません」
「え?」
「ウィル君は私をどう思いますか?」
「どうって?」
「そうですね。最初っから強かったと思いますか?」
「失礼ですが、そうは思いません」
「その通りです。昔の私はウィル君と始めて会った時は今のウィル君より弱かったと思います」
「そうなんですか?」
「ええ。でも大切な家族と一緒に辛い訓練をしたり依頼をこなして行き、センヤさんに指導して貰ったからこそ、今の私があります」
「そうなんですね」
「そして、その中に今ウィル君も居るんですよ」
「っ! 本当ですか?」
「ええ。だからセンヤに出来るところまで教えて貰えると良いですよ。そしたらきっともっと強くなれますから」
「はい!」
「但し焦っては駄目です。焦ったら視野を狭めて戦闘の際に死ぬ確立があがりますから」
「流石はミレーネお姉さまです」
「本当はこれもセンヤさんの受け売りなんですけどね」
笑顔で慰めてくれるミレーネの姿に感謝しながら、もう一度水筒を傾ける。
「よし、捌き終わったから、エルザ調理を頼む」
「解りました。ついでに明日の朝食と昼食の準備をしておきます」
「別に今じゃなくてもよくないか?」
「いえ、量が多いのでなるべく早く作って主様のアイテムボックスに入れてもらいたいと思っています」
「今日のエルザは冷たいな」
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「そうか?」
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