244 / 351
第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。
第八幕 情報収集とフランケンシュタイン
しおりを挟む
(………怪しい人間は今のところ潜んでは居ないか。敵意や殺意を持った人間にしか反応しないからな。潜んではいるが警戒だけしている可能性もある。だが、そうなると大抵は敵意を含むからな………)
「旦那様、ミレーネたちに伝えてきたわよ。それじゃあ私たちは情報集めに向かいましょう」
「あ、ああ。そうだな」
エリーゼの言葉で思考の海から浮かび上がってきた千夜はマップを閉じてエリーゼたちと情報収集を行う事にした。
******************************
暗闇と静寂が支配する空間に二人の人物が椅子に座って対面していた。
日差しが差し込む窓も隙間も無く、簡素に作られた木の机の中心にポツンと置かれた一本の蝋燭のみ。
ゆらゆらと揺らめく小さな灯火のみが暗闇の空間の一部を照らす。
「久しぶりですな、フラン殿」
「与太話は良い。それより急遽俺を呼んだ理由を言え」
「相変わらず世間話が嫌いなようですな」
「………」
小さな灯火ではまともに相手の表情を読み取る事も、ましてや見る事もできない。それに加え互いにフードを目深く被っているのだから、そうそう見えるものではない。
しかし相手が纏う雰囲気だけで今どう思っているのかだけはなんとなく察する事が出来る。例えば苛立っている時とか。
「解りました。話しますよ………今回、フラン殿に来ていただいたのは他でもありません。領地境界線近くで活動していた駒が突如消えました」
「何者かに殺されたという事か?」
「多分、仕事を行っている最中に冒険者にでも襲われたのでしょう。どうせ捨て駒程度にしか思っていませんでしたので構いませんが」
「それなら何故一々俺を呼び出したんだ」
「いえね、まだ確定ではありませんが、どうやら、皇帝陛下に気づかれた恐れがあるんです。それに加え捨て駒といえ20人を一瞬にして殺せる冒険者となるとそうそう居ませんから」
「なるほど。つまりその冒険者がこの都市ルーセントに来るかもしれないと言いたいのか」
「はい」
「解った。こっちで調べておく」
「また、あの部下に頼むつもりですか?」
「そうだが、問題でもあるか?」
「いえ、そうでは無いのです。ただ、貴方と同じで絶対に顔を見せないので」
「俺たちは神の居ない暗闇の世界に住む住民だ。おいそれと他人に顔は見せられないだけだ」
「そうですか。では私はこのへんでお暇するとしましょう。まだ政務が残っていますので。それでは次の機会にフランケンシュタイン殿。それとも暗霧の十月のリーダーと呼んだほうが宜しいでしょうか?」
「殺されたいのか?」
「おっと失礼。それではこれで」
男は立ち上がると机の蝋燭の火を吹き消すと扉から出て行った。
完全に闇と静寂が支配する空間と化した一室に男の擦れた声が響く。
「私の顔は見せたくても見せれないだけだ」
男の指先が鉄の仮面を優しく触れる。
「さっそく部下に調べさせるか」
そう呟くと男もまた一室から出て行くのだった。
******************************
適当に村の様子を観察しながら千夜たちは話が聞けそうな人物に話しかける。
「ちょっと良いか?」
「なんだ?」
休憩中の男に話しかける。
「俺たちこの領には初めて来たんだが、他と比べて随分と値段が高いように思えてな。少し気になってな?」
「ああ、それは新しい代官様の命令だよ」
「代官様の命令? 領主様じゃないのか?」
「ああ。領主……エリーゼ・ルーセント様は二年前に御結婚されてな。領主はご子息のウィリアム様が継ぐんだがまだお若く成人もされていないからな。成人されるまでの間皇帝陛下の命令で代官様がこの領地領主代理をしているってわけなんだ」
「なるほどな。つまり領主様の時から値段が高かったって事か」
「いや、そうじゃないんだ。エリーゼ様の時は普通だったよ」
「じゃあなんでだ? まさか税金が上がったとかなのか?」
「確かに上がったが少しさ。気になるほどの事でもないさ」
「じゃあ、なんでだ?」
「年に一回春に税金を納めるのは知っているな」
「ああ。知っている」
(俺は冒険者だが屋敷と店を持ってしまったから税金を払っているわけだが)
「俺たち村人はいつもお金と収穫した作物で納税してたんだ。多分他の村も同じだと思うが。だが、代官様の命令で今後はお金でしか納税を認めてくれなくなったんだ」
「なるほど。それで?」
「俺たちみたいな村人にはまともな学があるわけじゃない。あるといえば農業の知識や建築知識ぐらいで商談の仕方なんて知らないんだ」
「なるほど、で商人に安く買い叩かれて仕方なく値段が上がっているわけか」
「そうなんだ」
「それにしては建築するお金はあるんだな」
「これも代官様の命令さ」
「建築もか?」
「そうさ。材料費、人件費は全部代官様持ちだから俺たちはただただ言われた通り働くだけさ」
「そうか。色々と話が聞けて良かった」
「それなら良いが。おっとそろそろ俺は仕事に戻るぜ」
「ああ」
こうして話し終えた千夜はエリーゼたちと宿に戻るのだった。
「旦那様、ミレーネたちに伝えてきたわよ。それじゃあ私たちは情報集めに向かいましょう」
「あ、ああ。そうだな」
エリーゼの言葉で思考の海から浮かび上がってきた千夜はマップを閉じてエリーゼたちと情報収集を行う事にした。
******************************
暗闇と静寂が支配する空間に二人の人物が椅子に座って対面していた。
日差しが差し込む窓も隙間も無く、簡素に作られた木の机の中心にポツンと置かれた一本の蝋燭のみ。
ゆらゆらと揺らめく小さな灯火のみが暗闇の空間の一部を照らす。
「久しぶりですな、フラン殿」
「与太話は良い。それより急遽俺を呼んだ理由を言え」
「相変わらず世間話が嫌いなようですな」
「………」
小さな灯火ではまともに相手の表情を読み取る事も、ましてや見る事もできない。それに加え互いにフードを目深く被っているのだから、そうそう見えるものではない。
しかし相手が纏う雰囲気だけで今どう思っているのかだけはなんとなく察する事が出来る。例えば苛立っている時とか。
「解りました。話しますよ………今回、フラン殿に来ていただいたのは他でもありません。領地境界線近くで活動していた駒が突如消えました」
「何者かに殺されたという事か?」
「多分、仕事を行っている最中に冒険者にでも襲われたのでしょう。どうせ捨て駒程度にしか思っていませんでしたので構いませんが」
「それなら何故一々俺を呼び出したんだ」
「いえね、まだ確定ではありませんが、どうやら、皇帝陛下に気づかれた恐れがあるんです。それに加え捨て駒といえ20人を一瞬にして殺せる冒険者となるとそうそう居ませんから」
「なるほど。つまりその冒険者がこの都市ルーセントに来るかもしれないと言いたいのか」
「はい」
「解った。こっちで調べておく」
「また、あの部下に頼むつもりですか?」
「そうだが、問題でもあるか?」
「いえ、そうでは無いのです。ただ、貴方と同じで絶対に顔を見せないので」
「俺たちは神の居ない暗闇の世界に住む住民だ。おいそれと他人に顔は見せられないだけだ」
「そうですか。では私はこのへんでお暇するとしましょう。まだ政務が残っていますので。それでは次の機会にフランケンシュタイン殿。それとも暗霧の十月のリーダーと呼んだほうが宜しいでしょうか?」
「殺されたいのか?」
「おっと失礼。それではこれで」
男は立ち上がると机の蝋燭の火を吹き消すと扉から出て行った。
完全に闇と静寂が支配する空間と化した一室に男の擦れた声が響く。
「私の顔は見せたくても見せれないだけだ」
男の指先が鉄の仮面を優しく触れる。
「さっそく部下に調べさせるか」
そう呟くと男もまた一室から出て行くのだった。
******************************
適当に村の様子を観察しながら千夜たちは話が聞けそうな人物に話しかける。
「ちょっと良いか?」
「なんだ?」
休憩中の男に話しかける。
「俺たちこの領には初めて来たんだが、他と比べて随分と値段が高いように思えてな。少し気になってな?」
「ああ、それは新しい代官様の命令だよ」
「代官様の命令? 領主様じゃないのか?」
「ああ。領主……エリーゼ・ルーセント様は二年前に御結婚されてな。領主はご子息のウィリアム様が継ぐんだがまだお若く成人もされていないからな。成人されるまでの間皇帝陛下の命令で代官様がこの領地領主代理をしているってわけなんだ」
「なるほどな。つまり領主様の時から値段が高かったって事か」
「いや、そうじゃないんだ。エリーゼ様の時は普通だったよ」
「じゃあなんでだ? まさか税金が上がったとかなのか?」
「確かに上がったが少しさ。気になるほどの事でもないさ」
「じゃあ、なんでだ?」
「年に一回春に税金を納めるのは知っているな」
「ああ。知っている」
(俺は冒険者だが屋敷と店を持ってしまったから税金を払っているわけだが)
「俺たち村人はいつもお金と収穫した作物で納税してたんだ。多分他の村も同じだと思うが。だが、代官様の命令で今後はお金でしか納税を認めてくれなくなったんだ」
「なるほど。それで?」
「俺たちみたいな村人にはまともな学があるわけじゃない。あるといえば農業の知識や建築知識ぐらいで商談の仕方なんて知らないんだ」
「なるほど、で商人に安く買い叩かれて仕方なく値段が上がっているわけか」
「そうなんだ」
「それにしては建築するお金はあるんだな」
「これも代官様の命令さ」
「建築もか?」
「そうさ。材料費、人件費は全部代官様持ちだから俺たちはただただ言われた通り働くだけさ」
「そうか。色々と話が聞けて良かった」
「それなら良いが。おっとそろそろ俺は仕事に戻るぜ」
「ああ」
こうして話し終えた千夜はエリーゼたちと宿に戻るのだった。
20
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“
瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
だが、死亡する原因には不可解な点が…
数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、
神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。