鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

文字の大きさ
245 / 351
第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第九幕 盗賊行為と有利な事

しおりを挟む
 宿へと戻ってきた千夜たちは夕食前に今日の成果を話し合うため、一旦部屋に戻っていた。
 元々二人部屋であるこの部屋に6人集まるのは流石に窮屈に感じてしまう。それでも全員が男性というわけではない分まだマシと言えた。

「さてと、それじゃあ話し合うとするか。でミレーネたちの方はどうだったんだ?」
「はい。別にこれといった異常はありませんでした。刺客が潜んでいる気配もありませんでしたし」
「そうか」
「ただ……」
「ただ、どうした?」
「い、いえ、これはエルザちゃんが言っていたんですが」
「エルザが? なんだ?」
「はい。刺客の気配だけでなく魔物の気配もまったくしなかったのです」
「なに?」
 エルザの言葉に千夜の表情が険しくなる。

「普通の小動物は居るのですが、魔物の類の気配がまったく感じ取る事が出来ませんでした」
「ここら辺に居る魔物はそこまで強くないわ。せいぜいゴブリンメイジがたまに居る程度よ。きっとエルザたちの気配に気づいて逃げたとかじゃないの?」
「いえ、それなら少しは気配を感じる筈です」
「だったらまだ冬眠しているとか」
「確かにそれは無いとは言えないが、日中はそれなりに暖かくなってきている。目を覚ました魔物が居てもおかしくはない」
「確かにそうね」
(いったい何が起きている。魔物の気配。いや、魔物が居ないとなると何処に行ったんだ)
 顎に手を当てて思考を巡らせるが、まったく答えが出ない。

「それでセンヤさんたちはどうだったんですか?」
「俺たちはそれなりに情報が入った。間違いなくベルグが言った通り代官は暗霧の十月ミラージ・サヴァンを使って何かを企んでいる」
「それは本当なんですか!」
「証拠があるわけではないが、9割は間違いないだろう」
「旦那様が言うからには間違いないわね」
(信頼されるのは嬉しいがその自信はいったいどこから来てるんだ?)
 内心疑問符を浮かべる千夜を他所に話は進む。

「それで、どのような情報が手に入ったんですか?」
「ああ、実は――」
 千夜は詳細に村人から聞いた内容を話す。

「その内容でどうして代官が何かを企んでいるって解るのじゃ」
「クロエの言う通りそれだけでは解らないと思うんですが?」
「確かに誰だってそう思うかもしれないが、このタルタ村に来る前にであって盗賊たちの事と照らし合わせれば間違いないだろう」
「どう言う事ですか?」
 口端を引き上げる千夜に対して疑問符を浮かばせるエリーゼたち。

「代官はなぜ、年に一度の納税をお金のみしたのか。それはそっちの方が儲かるからだ」
「儲かる? 変わらないと思うわよ」
「いやそんな事はない。納税を全てお金にしたという事は村人たちはお金を集めるため、どうする?」
「それは勿論、麦や他の物を行商人とかに売ってお金に換えるわ」
「そうするよな。商人というのは少しでも儲けが増えることを望む生き物だ。ま、誰だって得した方が良いと考える生き物ではあるが」
「確かにそうだけど」
 千夜の言い方に不満はあるが事実に言い返せないエリーゼ。

「そんな行商人がまともに商談や取引をした事のない村人たちから麦を売りたいと言ってきた。行商人からしてみれば儲ける絶世のチャンス。そう考えた行商人はどうする?」
「少しでも安く買い取るわね」
「その通り。村人たちはまともに取引などした事がないんだ。税金を納めるために安く買い叩かれても売るしかない」
「そうね。でもそれは代官にとってメリットなんか無いわよね。麦がお金に変わっただけだもの」
「確かにここまでなら何も変わらない。だが、手を組んだ相手、暗霧の十月ミラージ・サヴァンに行商人を襲わせたらどうだ?」
「え?」
「安く買い叩かれた麦は税金で納めるより量が多いだろう。全ての村がそういうわけではないだろうから強弱はあるはずだが、村から麦を買い叩いた行商人を襲わせ麦を自分の懐に入れたとすればどうだ?」
「麦の量だけ儲けるわね……」
「その通り。後は麦を他の場所で売り捌けば、その分儲かるという事だな」
「なるほどね……わざわざお金にしたのは多く儲けるためだったのね」
「その通りだ。確かに税金を上げればそれだけで同じぐらい儲ける事は可能だが村人や民たちの反感を買う。そうならない為に民たちが知らないところで盗賊たちに襲わせ儲けているというわけだ」
 千夜の説明に感嘆の声を洩らす。

「でも、何度も盗賊たちに行商人を襲わせれば行商人が居なくなるわよ。そうなれば――」
「問題ない」
「どうして?」
「簡単な事だ。行商人が居なくなれば自分の手下にでも行商人の振りをさせて麦を安く買い叩かせれば良いだけだからな。そうすれば盗賊たちも不要になり、王宮には行商人を襲っていた盗賊を討伐したと報告するだけで済む話だ」
「つまり、まだ始まったばかりって事?」
「そうだ」
「でも、すでに皇帝陛下には闇組織と手を組んでいる事は知られているのよ。もう無理だと思うわ」
「そうでもない。代官がその事に気づいていなかったとしたらまだまだ続くだろう。それに気づいていたとしても証拠はあるのか。と言えば良いだけの話。で、証拠が無いから俺たちが依頼を受けて此処にいるわけだが」
「それはそうだけど」
 犯罪行為の内容が解っても証拠が無いと捕まえる事が出来ない事に不満を洩らす。

「それに代官にはまだ有利な点もあるからな。代官本人は気づいていないだろうが」
「本人が気づいていない有利な事?」
「手を組んだ闇組織についてだ」
「どういうこと?」
「ベルグが言っていた筈だ。代官が手を組んだのは闇ギルド・・・・だと」
「それが?」
「闇ギルドってどんなイメージがある?」
「それは勿論。強奪や暗殺とか」
「その中に盗賊行為はあるか?」
「あ」
「そう言う事だ。ベルグたち上層部は代官が手を組んでいるのは闇ギルドだと思っている。だが本当は違う。闇ギルドではなく、ただの闇組織、犯罪者組織だ。だからまさか盗賊行為もさせているなんて思わないのさ」
「なるほどね」
 なっとくしたエリーゼたち。

「さてと、それを踏まえて話し合いをしたいところだが夕食の時間に遅れるからな。後は夕食後にするとしよう」
「そうね」
 千夜たちは話を切り上げ一階の食堂へと向かう。
しおりを挟む
感想 694

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。