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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。
第十幕 不味い夕食と撹乱
しおりを挟む「まったくなんなのあの料理は!」
「予想していた事だ。気にするな」
「気にするわよ! 石みたいに硬い乾燥パンと前だけのシチューって。あれなら私たち自身で狩りをした方がマシだったわ!」
夕食を終え寝室に戻ってきた千夜たちは再び一つの部屋に集まっていた。しかし夕食の内容があまりにも悲惨で話し合いどころではなかった。
「ま、塩スープでは無かっただけまだ良かったな」
「旦那様は不満じゃないの?」
「宿に合っていない値段と村人から話を聞いていたからな。予想はしていた」
「それなら私たちにも伝えておいて欲しかったわ」
エリーゼは嘆息しながら言った。私たちと言ったのはエリーゼだけでなく千夜以外全員が不満のある表情をしていたからな。
「いや、気づいていると思っていたからな」
「………」
「何だその目は」
「いえ、別に」
「何でもありません」
「気にしなくて良いのじゃ」
「主はどうぞお話を続けてください」
ジト目めを向けられる千夜だが、向けられる理由に心当たりが無いため府に落ちなかったが今後の行動の為にも早速話し合いを行う事にした。
「さて、今後の事だが前提条件として、盗賊に襲われている行商人が居てもなるべく見てみぬ振りをする事」
「どうして!」
「そうです! 目の前で傷ついている人が居るのに!」
千夜の言葉にエリーゼとウィルが反論した。
「理由は幾つかある。盗賊が今回の依頼に大きく関わっている事。盗賊たちを全滅させてしまったら俺たちの事が知られる恐れがあるから。今は幻惑魔法で姿を変えているから良いが、いつバレるか解らない。相手の戦力、規模、人脈といった全てが不明な点で動くのは危険すぎるからな」
「そうだけど。既に私たちは一つ倒してしまっているわよ」
「だから問題なんだ。戦う前はまさか盗賊が今回の依頼に関わっているなんて思っていなかった。普通に盗賊を討伐し、残りの盗賊たちも討伐するためにアジトの場所を聞き出す筈だった。だが結果は違った。もしも盗賊たちを監視する者が遠くから見ていたとしたら既に俺たちの事が知られているだろう」
「だったら――」
「今はまだ領内に入る前の事だったから居場所も突き止めるのも、今後の行き先を知るのも難しいだろう。幻惑魔法で変装もしているしな。だが道先道先で盗賊を片っ端から倒していけば、それだけで行動を知られる恐れがある。それだけはなんとしても防がなくてはならない」
「そうだけど……」
(エリーゼたちには悪いが行動を知られるわけには、いや待てよ………こっちの作戦の方が良いかもしれない)
「(クロエ、センヤさんの顔が……あれって)」
「(うむ、間違いないのじゃ)」
「(主の不敵な笑み。間違いありませんね)」
「「「(悪巧みを考えている顔)」」」
落ち込むエリーゼとウィルを覗き、ミレーネたちは千夜の表情に嘆息し、内心相手側に同情するのだった。
「エリーゼ、ウィル、今の作戦は無しだ。盗賊は全て討伐する事にした」
「さすが旦那様!」
「頑張ります!」
「エリーゼ早速なんだが、タルタ村を出てルーセント、ダラ、ケアドに向かう道はあるか?」
「あるわよ。だけど今は行商人が近道する程度で間には村が幾つかあるだけよ」
「いや、それだけで十分だ」
「そ、そう……(ねえ、あの表情ってまさか)」
「(はい、間違いありません)」
エリーゼの不安はエルザの一言によって的中し、思わず項垂れる。
「その道はどこから別れている?」
「えっとね、此処から都市ルーセントに向かって徒歩で1時間って距離よ。私たちだと10分もあれば余裕ね」
「そうか、解った」
(となると、今の内に準備しておいた方が良さそうだな。全部で三つ。いや、念のために倍は作っておくべきか。相手の戦力が不明な事を考えるとラッヘンやスケアクロウたちと同等でないと駄目だろうからな。だがそうなると、制限されている今の俺の魔力でも流石にキツイな。回復にそんなに時間が掛からないといっても。その隙に襲われる危険だってあるが、エリーゼたちに頑張って貰うしかないだろう)
「今から明日の予定を説明する。俺たちが向かうのは都市ルーセント。都市ルーセントまではあとどれぐらいだ?」
「私たちなら三日あれば余裕よ」
「となると……少しゆっくり行った方が良いだろう。早くても四日だな」
「どうしてゆっくり行くのですか?」
「撹乱のためだ」
「「「「「撹乱?」」」」」
「そうだ。盗賊たちを討伐する以上さっきも言ったが場所を捉まれるのが一番まずい。そこで俺の能力を使って少し撹乱する。俺たち本体が一番最初に都市に到着するのはまずいからな。だからゆっくり行く」
「なるほど。でも主、それだと依頼の事がバレる恐れが」
「盗賊を討伐するからな。バレても仕方が無い。だったら出来るだけ撹乱して時間稼ぎした方が良いと考えただけの事だ。それにもうバレている恐れだってあるからな」
「なるほど、よく解りました」
「話はこれで終わりる。質問はあるか?」
全員に視線を向ける。挙手する者も口を開く者もいない。
「無いみたいだな。なら解散とする」
千夜の一言を最後にミレーネたちは隣の部屋に向かう。
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