鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

文字の大きさ
253 / 351
第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第十七幕 宰相ヘンリー・ハントと魔王ベルヘルム・ファウダー

しおりを挟む
「ふう、ようやくか」
 ウラエウスは高さ5メートルはある扉の前に立っていた。
 魔王の勅命を受けがレット獣王国から帰還し、すぐさま手に入れた情報と千夜の事を伝えようとした。しかし帰還してみれば魔王は誰とも会おうとしなかった。
 その理由は一家臣であるウラエウスに教えられる事はなかった。魔王直轄の少数精鋭部隊の体長であろうと。勿論、この異常事態に動かないウラエウスではない。しかし四天王ですら謁見を許されておらず、魔王の言葉を配下の者たちに伝えるのは、宰相であり魔王の補佐でもあるヘンリー・ハントだった。ヘンリーだけ魔王との謁見を許されているのはそれだけ信頼されている証拠なのだろう。
 しかし一ヶ月以上姿を現さない事に死んでいるのではという噂が流れたが、その夜王宮の一室からアノルジ大陸全土に魔王の魔力の波動が放たれた事により噂は鎮火した。
 しかし、そのあとも姿を現す事もなく、魔王の代弁者であるヘンリーの指示に従い数ヶ月働いてきた。
 そして帰還して8ヶ月。ようやく魔王と謁見が出来る日が訪れたのだ。
 久々の謁見にウラエウスは緊張していた。
 アノルジ大陸で暴れていた頃、偶然魔王と出会った日の事が頭の中を過ぎる。

「………ゴクリ」
 思わずその場で喉を鳴らしてしまう。それ程魔王と初めて出会った日は衝撃的だった。
 一言で言うなら、恐怖。
 勝てる気も、この場から逃げれる気もまったくしない。それどころか死を覚悟した程だった。
(きっとセンヤでも魔王様には勝てない)
 初めて千夜と闘った時、もしかしたらと頭を過ぎった事を思い出す。しかし、
(あの考えは愚かな考えだった)
 数十センチはある分厚い扉に隔てられた謁見の間前からでも魔王のオーラを身を持って感じる。
(いよいよだ)
 扉が開くのを感じ取ったウラエウスは覚悟を決める。
 真剣な面持ちになった直後、片方数トンはある扉が軋み音をたてながらゆっくりと開かれる。
 数分して完全に開かれた扉を確認したウラエウスは一歩足を踏み出した。

「うっ」
 謁見の間にたった一歩足を踏み込んだだけでウラエウスは悟った。
(完全に前より遥かに強くなっている)
 室内に充満した魔王のオーラは重く、奥に進むほど船酔いしたように眩暈するほどだ。
 それでもウラエウスは自我を強く持ち魔王の数メートル近くまで近づき跪く。

「久しいな、ウラエウスよ」
「お、お久しぶりでございます。魔王ベルヘルム・ファウダー様」
「して、お主に出していた命は無事に完遂したのであろうな」
「はい……ガレット獣王国の戦力調査は無事に終えました」
「そうか。それはご苦労であった。後でヘンリーに調査報告書を提出せよ」
「畏まりました。魔王様」
「まだ何かあるのか?」
「はい。実はガレット獣王国に調査に行った際にとある者と接触したました」
「ほう……して、その者とは?」
「はい。Xランク冒険者の漆黒の鬼夜叉に御座います」
「貴族吸血鬼の若造共が逃げ帰ってきた原因を作った奴か。してその者実力は?」
「正直危険です」
「ほう、お前がそこまで言うほどか」
「はい。漆黒の鬼夜叉、名をセンヤと言うのですが闘う機会がありその実力を確かめたのですが、服に掠らず事も出来ず負けてしまいました」
「…………そうか。四天王に匹敵する力を持つお前が服に掠らせる事も出来ない存在か」
「………はい」
「いったい何者だ。人間ではあるまいしな」
「センヤの種族は私同様混合種に御座います」
「なるほど。ならば勧誘すれば途轍もない戦力となるだろう」
「そう思われると思い既に勧誘を試みました」
「して、結果は?」
「残念ながら失敗に御座います」
「そうか。なら殺すしかあるまいな」
「ですが、そうなればこちらにも甚大な被害を齎します。こちらの戦力はまだ完全に回復しきっていない状況です。それにセンヤは魔王様との会談を望んでいます」
「ほう、用件は?」
「はい。センヤは冒険者ゆえ、戦争に参加しないと」
「甘いな」
「しかし、テリトリーに侵入すれば問答無用で殺すとの事です」
「ほう、テリトリーとな?」
「はい。センヤが活動している帝都を攻撃すれば容赦なく反撃するという事かと」
「なるほどな……」
「………」
 額に指先数本を当て頭を支えるベルヘルム。
 何も喋らなくなった事に跪き床を見詰めるウラエウスには不気味でしかなかった。

「……ク……ククッ……クハハハハハハハハハハッ!」
 突如、天を見上げ高らかに笑い出す。それがウラエウスには不気味でならなかった。

「つまりはこういう事かだな。こちらから手出しはしない。好きにすれば良い。しかし俺を怒らせるような事はするなと。このアノルジ大陸の覇者にして魔王たるこの俺に上から物を言うとは。何たる愚か者だ。決めたぞ!」
「いったい何をでしょうか?」
「その冒険者、センヤと言ったか。暗殺対象から外すものとする」
「はっ!」
(良かった。これでセンヤの命は護れた)
 ウラエウスは内心安堵する。が、

「その代わり俺自ら殺してやる! ヘンリー!」
「ここに」
 どこから姿を現したかは解らないが、いつの間にか扉の横に立っていた。

「今すぐ手紙を用意させろ。魔王ベルヘルム・ファウダーが直々に会ってやるとな」
「畏まりました」
「ちょっ――」
「ウラエウス。お前は手紙を持ってその男に手紙を渡して来い」
「か、畏まりました」
 もうどうする事も出来なくなったウラエウスはただ返事をするしかなかった。

「そうだ。ついでに異世界から召喚された勇者を殺して来い。今は弱くても後々厄介な存在になるかもしれないからな」
「畏まりました」
(先に勇者を探す。そうすれば少しはセンヤは長生き出来るはず)
 打算的な考えではある事は本人であるウラエウスがよく解っていたが、今はこれしか思いつかなかったのだ。
しおりを挟む
感想 694

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。