鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第二十七幕 1500のゴブリンと40人の村人男性

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 ルーセント南門を出た千夜たちは街道沿いを音速を越えるスピードで走り抜ける。
 空気を裂き走る千夜たちに小さな音は耳に届かない。まさしく無音世界。
(は、速い。なんなのこの人達。これがAランク冒険者の力なの。でも、これなら間に合う)
 クロエに背負われるアミッツは急激に通り過ぎる景色をうっすらと開けた瞼の隙間から覗く。

「ここを左だ」
 先頭を走る千夜の指示に従い直角に曲がる。
(え、森に入るの!)
 道無き道を走り出す千夜たちに驚きを隠せないアミッツだが、速度が落ちてない事に僅かながら感じ取る。
 ルイラ村は都市ルーセント、都市ケアド、都市ダラの三都市で出来る三角形の中心あたりに存在する村だ。周りは森に囲まれており、行商人もあまり通らない場所に村が存在する。
 森を抜ければ早いが、迷いの森ほどではないが遭難する者が多い森なのだ。そのためちゃんとした道を通るとなるとどうしても遠回りになってしまうが、千夜たちには関係ない。
 目的地であるルイラ村の方角さえ解ればそこに向かって走るのみ。あとは千夜のマップに魔物の大群が表示されれば軌道修正して走るだけなのだから。
 大雑把な方法ではあるが、遠回りするよりも早く到着する。
(マップに表示される距離は半径10キロ。まだ映らないとなるとまだ先か)
 先頭を走る千夜はマップを確かめながら追従してくるエリーゼたちに気を配りながら走り続ける。
 マップには赤い点が複数表示されるが、大抵は単独行動か少数行動の魔物ばかりなため完全無視。それどころか千夜たちの行き先近くに居た魔物は千夜たちが通った余波で吹き飛んでしまう。運が悪い魔物はそのまま木に激突して絶命していた。
 しかし一々死体処理をしている暇も無い千夜たちは何事もなかったように走り去る。
(む、あれか……)
 突如マップの上に大量赤が表示される。方向的には2時の方角から徐々に増えていっていた。

「少し右に進むぞ。あと数分で目的地に到着する」
 肩越しに視線を向けるとエリーゼたちは頷いた。
 森を抜け草原が広がる区域に出た千夜たちの目の前には大量のゴブリンの軍勢が目の前にあった。その数はおよそ1500.一国の軍団並みである。

「あそこ! あそこが私の村なの!」
 アミッツが指差した2時の方向に視線を向けると村人たちが斧や鍬を構えて待ち構えていた。

「あれじゃ全滅だ」
 千夜は淡々と呟く。
 目視できるだけでも数はおよそ40人。女子供は居ないが老人も含まれており、1500のゴブリンを相手にするには無謀でしかなかった。

「クーエはアミッツと一緒に村に行って説明してきてくれ」
「解ったのじゃ。アミッツもう少しの辛抱じゃ。頑張るのじゃ」
「うん!」
「俺たちはゴブリン軍団の殲滅。よくみるとホブゴブリンやゴブリンメイジも居る気を抜くなよ」
「ええ、分かっているわ!」
「全て殲滅します」
「下等生物が主の邪魔をしたことを後悔させてあげます」
(別に邪魔にはなってないんだが)

「ウィル。予想以上に敵は多い。だが、今のお前なら集中していればやれる筈だ」
「はい、頑張ります!」
「よし、行くぞ!」
 千夜の合図でゴブリン軍団に側面から突撃した。
(しかし、あれだけのゴブリンがどうして今まで報告されなかった。これも何か関係しているのか。いや、それよりもあれだけのゴブリンを統率するとなると間違いなく上位のゴブリンが居るはずだ。ゴブリンジェネラルかゴブリンキングか。どっちにしろ狩り尽くすには変わりない)
 不敵な笑みを浮かべた千夜は抜刀した鬼椿を横一閃でゴブリン数体の首を飛ばす。

              ******************************

 醜悪な笑みを浮かべて迫り来るゴブリンの軍団に村人たちは怯え今にも逃げたい思いに駆られる。
 しかし愛する家族を見捨てるわけにはいかず、無意識に斧や鍬を持つ手に力が入る。

「お父さ~ん! みんな~!」
「アミッツ!」
 ダークエルフに背負われた一人の少女の声に一人の男性が叫ぶ。

「お父さん!」
「アミッツ! いったい何処に行ってたんだ! 心配したじゃないか!」
「ごめんなさい……」
 男性は持っていた斧を投げ捨てるとクロエから飛び降りたアミッツを抱きしめる。

「それでアミッツ。彼女は?」
「クーエさんは冒険者なんだよ。それもAランクの!」
(本当はSSランクじゃがな)
 内心そんな事を思いながらアミッツの説明を聞く。

「まさかお前本当に冒険者を呼んできたのか?」
「うん!」
「ここからは我が話したほうが良かろう。我はクーエAランク冒険者じゃ」
「で、それでクーエさんお一人でここに?」
「いや、我の大切な仲間も一緒じゃ。安心せよ仲間もAランクじゃからな」
「姿が見えないようですが?」
「それなら、ほれ。既に戦っておる」
 クロエが指差した方向に村人たちは視線を向ける。そこには信じられない光景が待ち受けていた。
 1500ものゴブリンの大群が見る見る数を減らしていっているのだ。すでに約3分の1は倒されたのか姿が見えなくなっていた。それどころかゴブリンたちは千夜たちに気を取られているのか完全に動きを止め戦闘に集中していた。

「アミッツの父君」
「な、何でしょうか?」
「お主の娘は勇敢な娘じゃ。なんせたった一人で早馬で二日はかかる距離を走り。ボロボロになりながらも村を救ってくれと頼んできたのだからな」
「そうですか……」
 クロエの言葉に男性はアミッツの頭を撫でる。

「さて、そろそろ我も戦いに参加するとしようかしよかのう」
「頑張ってね!」
「無論じゃ」
「どうかお願いします!」
 村を代表してなのかアミッツのお父さんが頭を下げる。
 そんな村の姿を見て笑みを浮かべて返事をしたクロエはゴブリン軍団に向かって行った。
(我も早く子供が欲しいのじゃ)
 内心は別の事を考えているようではあったが。
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