鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第三十三幕 深夜と謎の集団

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 夜遅くまで続いた祭りも自然鎮火する形で終了した。
 アミッツの家で寝る事になった千夜たちだが、元々人数の少ない家に大勢で寝るのは流石に大変で千夜たちは床で寝る事になった。勿論ベットを使って良いとアミッツの両親に言われたが野宿で慣れていると丁重にお断りした。
 壁に凭れて寝たり、床にそのまま横になったりと冒険者らしいと言えばらしいかもしれない。
 そんな寝静まった夜。千夜とエルザは物音を立てないようこっそりと外を出る。
 数時間前まで賑やかに騒いでいた村の中心が、今は嘘のように物静かで月光に照らされるだけの殺風景な光景に少し寂しさを感じさせる。
 しかし、そんな心象に浸ることもなく千夜とエルザは森に向かって歩き出す。
 別に目的地があるわけではない。いや、正確にはあるが、それがどこにあるのか分からないと言うべきだろう。
 今回の出来事が暗霧の十月ミラージ・サヴァンに関係していると判断した千夜はゴブリン軍団が来た方向に進む。ありがたい事にゴブリンたちの足跡が大量にある。夜目の利く千夜とエルザにはその足跡がクッキリと見えていた。それを辿り何処から来たのか調べるため速度を上げる。
 森に入り調べ始めて30分距離にして4キロは進んでいたが、未だにその足跡は続いていた。

「いったい何処まで続いているのでしょうか?」
「分からない。念のために村にエリーゼたちを残してきたが地形に疎い俺たちでは正確な場所までは分からないな。これならエリーゼだけでもつれてくれば良かった」
「仕方ありません。エリーゼお姉さまは夜目が利きませんから。ま、常人に比べれば遥かに利きますが」
「そうだな。それにしてもまだ続くのか。夜明け前には戻っておきたいんだがな」
「この程度の距離なら直ぐ戻れます」
「確かにそうだが、あんまり騒がしくしたくないからな。少しでも力を使えば森が騒がしくなる」
 夜の森は夜行性の動物や魔物が活動しだす時間帯。しかしそれは日中に比べて遥かに少ない。静寂の夜に騒ぎを起こせばたちまち近隣の村に伝わる。そうなればどこに潜んでいるのかも分からない暗霧の十月ミラージ・サヴァンのメンバーに知られる危険性だってあるのだ。
(今回ばかりは相手に知られるわけにはいかない。有力な情報だからな)
 有力と千夜が判断したのにはいくつか理由がある。
 ギルドで聞いた話が噂程度であり、暗霧の十月ミラージ・サヴァンと関係しているのか未確定であること。
 その情報が嘘であり、自分たちを誘き寄せるための罠であること。
 ゴブリンは知能が低いそのため嘘をつける類ではないことから今回の情報が有力と判断した。
 進む速度を上げさらに先へと進む。

「ん? とまれ」
 突如、先行して走る千夜が小声で指示を出すと物陰に隠れる。
 疑問に感じながらもエルザは千夜の後ろに隠れる。

「どうしました?」
「あれを見てみろ」
 千夜が指差した方角を見てみると十数人の人影あった。
 しかし目深く被った外套で素顔を見ることは出来ないがなにかしているのは確かだ。
 突然の事もあり相手に気づかれた恐れもあったが、運良く最初っから隠密スキルを使っていたことも幸いしたのか相手には気づかれていない。

「いったい何をしてるのでしょうか?」
「何か分かるような事は喋っていないのか?」
「はい。残念ながら一言も喋ることなく黙々と作業しています」
 月夜の酒鬼の中でもずば抜けて聴覚の良いエルザ。夜で静寂と言うこともありどんな小さな会話でも聞き逃す事はないが、一言も喋らなければ別だ。

「ただ、息遣いから察するに全員男です」
「そうか。ん? あれはスコップと箒か?」
「そうですね。いったい何をしているのでしょうか?」
「…………」
「主?」
「どうやら俺たちは運が良いらしい」
「どういう事でしょうか?」
「あいつらがしているのはゴブリンたちの足跡を消す作業だ」
「それって」
「ああ、どこから来たのか調べられないようにするためだ。まったく徹底した秘密主義だ」
「襲いますか?」
「いや、今回はやめておこう。あれは情報操作部隊の一つだろう。もしも一人でも欠ければ怪しまれる」
「分かりました」
「もう少し様子を見たら村に戻るぞ」
「はい」
 黙々と作業する謎の集団を監視する千夜たち。
(これといった特徴は無いな。蟲毒の蛇の時と違って見える範囲で組織の紋章があるわけでもない。本当に徹底した秘密主義だな)
 それから30分ほどして千夜たちは村に戻った。
 物音を立てないようゆっくりと入ったがエリーゼたちは警護の意味もこめて起きていたらしく小声で「お帰り」と呟いた。

「それで、どうだったの?」
「ああ、今回の事件は間違いなく暗霧の十月ミラージ・サヴァンが関っている。その手下らしき奴らも森の中で見つけた」
「本当に?」
「ああ。だが、その話はまたあとで話す。今は寝るとしよう」
「……そうね」
 気になるもどかしさに不満を感じつつもエリーゼたちは目を瞑る。
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