鬼神転生記～勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。～

第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第三十五幕 村を救った英雄とウィルの好きな人

「本当にもう、行っちゃうの？」
「ああ、これ以上お世話になるわけにはいかいからな。それに俺たちは冒険者だ。依頼をこなさないと生きていけない」
「むぅ……」
　朝食を終えた千夜たちは今すぐ都市ルーセントに向かうと告げた。突然の事に驚きを隠せない村人たちだが快く見送るため村の入り口まで来ていた。アミッツだけは不満そうに頬を膨らませていた。

「センさん本当に何から何までありがとうございます」
「いや、俺は何もしていない。俺は依頼を受けてここに来ただけだからな。褒めるなら村のために一人で都市まで来たアミッツを褒めてやってくれ」
「はい。アミッツもこの村を救ってくれた英雄の一人です」
「村を救った英雄？ 誰がだ？」
「センさんですよ」
「別に俺はそんな大層な人間じゃないぞ」
「そう思っているのはきっと貴方だけですよ」
「そんな事はないと思うが」
　首を傾げる千夜に笑いが巻き起こる。

「そうそう言い忘れていたが、お前に渡したラクスの種だが」
「あ、はい」
「うまく育てれば美味しい実生るんだが、果実酒の材料としても最適なんだ」
「そうなんですか？」
「ああ。でだ。製造から販売までしている酒を扱う店に知り合いがいるんだが、お前たちの事は伝えておくからきっと良い商売になるだろう」
「本当ですか！」
「ああ。信頼できる奴だ。実が生る時期に行くよう伝えておくからきっと来年当たりにでも来るだろう」
「そうですか。本当に何から何まで」
「いや、唯単に俺がお酒好きだからなその果実酒を飲みたいだけだ」
　再び笑いが巻き起こる。

「ウィルも行っちゃうの？」
「うん。アミッツも元気でね。あんまり無茶しちゃだめだよ」
「うん……」
「どうしたの？」
　俯くアミッツに心配になり、ウィルは下から覗くように見つめる。

「アミ、将来大きくなったらウィルと結婚する！」
「え、ええええええぇぇ！」
「ほう……」
　アミッツのそんな言葉に千夜は笑みを浮かべた。が、女性陣からはキラリーンと獲物を見つけたような視線を向けられる。

「駄目？」
「あ、いや……その……」
「ウィル。男ならちゃんと返事しないと駄目だぞ。俺の時みたいにな」
「お父様……」
　ウィルの肩に手を置いてそう告げる千夜だが、ウィルには意地悪そうな笑みを浮かべた人にしか見えなかった。
（あの時の事、何気に根に持っていたんですね！）
　内心そんな事を思うウィル。

「え、えっとねアミッツ」
「うん……」
「ごめん！ 僕好きな子がいるんだ！」
「なに！」
「本当なの！」
「本当ですか！」
「今晩は宴なのじゃ！」
「ならばフェストボアの肉を用意しないといけませんね」
　ウィルの発言に千夜たちは各々の反応を示す。ちなみにフェストボアとは、生息地すら不明で数年に一度市場にでるかと言われている幻の肉で、そのお肉を食べた者は幸せになると言い伝えがあるほどだ。そのため祝い事の時にしか食べることが出来ない肉だ。ま、赤飯みたいなものと考えて貰えば分かりやすいだろうか。

「ウィルその話、あとでちゃんと詳しく聞かせて貰うわよ」
「は、はい……」
　エリーゼの言葉に拒否することが出来なかった。
（何歳になろうと女性は恋路が好きだな）
　そんな事を思う千夜。

「な、なら妾でも良いから！」
「なっ！」
　そんな千夜たちなどの会話など無視して更なる攻撃を仕掛けてくるアミッツに再び驚くウィル。

「ウィル、今こそ男の甲斐性を見せるときだ」
「旦那様に色々教わっているんだから頑張るのよ！」
「ウィル君なら出来ます！」
「頑張るのじゃ！」
「男の見せ時ですね」
（あんまり好き勝手言わないで下さい！）
　そんな千夜たちの言葉にウィルは心の中で叫ぶ。

「駄目?」
「いや、駄目じゃ無いけど……」
「だったら……」
「なら、アミッツが成人しても僕のことが好きならその時結婚しよう。それで良い？」
「うん！」
（さすが、ウィル男を見せたな）
（保留にしたわね）
（保留にしました）
（先延ばしなのじゃ）
（少しガッカリです）
　ウィルの返答に千夜とエリーゼたちでは考えが違った事は誰も知ることのない事だ。
　しかし、あの状況下で最善の返答があるのならきっと欲しいと思う者が居るのは間違いないだろう。

「ま、アミッツとの結婚は将来ウィルがどれだけ成長し良い男になるかだな。でなければアミッツの両親にも了承がでないだろうからな」
「「はい、その通りです」」
　千夜の言葉に返答するアミッツの両親。父親にいたっては額に青筋が浮かんでいた。それがウィルに更なるプレッシャーを与える事になるが、それはウィルの頑張り次第で解消されるだろう。
　そんなこんなでそのあとも他の村人たちと軽く話した千夜たちは満面の笑みを浮かべた村人たちに見送られながらルイラ村を後にし、都市ルーセントへと向かうのであった。