鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第五十一幕 愛と悪女

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「旦那様どうしたの?」
 千夜の態度に怪訝に感じたエリーゼは声をかける。

「あ、ああ。今スケアクロウから連絡があってな」
「スケアクロウから? もしかして報告が?」
「そうだ。まだどの商会が暗霧の十月ミラージ・サヴァンと手を組んでいるのか解らないそうだ」
「そう……」
「ただ、アミーの商会も同盟の中にあるらしい」
「アミーの実家が?」
「そうだ。数年前まで業績低下で倒産目前だったが革新的な商品が大成功らしくて、今では借金も返し終わって前よりも裕福になっているらしい」
「それは良かったわ。きっとアミーは家の借金を返す為にギルド職員になったはずだから。でないと商会の娘がギルドで働いたりしないわよ」
「確かにそうかもな」
「それでこれからどうするの?」
「明日か明後日この都市を発つ」
「ダラに向かうのね」
「そうだ。どの商会が手を組んでいるのか解らないが、海賊を放置するわけにも行かない。それに海賊から情報を聞き出す手もあるからな」
「そうなれば完全に私たちが皇帝陛下からの差し金だってバレるわよ?」
「構わない。すでにバレているようなものだからな」
「ねぇ、旦那様?」
「ん?」
「なんだか焦ってない?」
「………そんな事はない」
「嘘よ」
「………どうしてそう思うんだ?」
 突然の事に内心驚く千夜だがエリーゼは悲しげな表情で答えた。

「最近難しい顔ばかりしてるもの。それに働きづめだし」
「そんな事はない。ちゃんと休んでいる。今日だってそうだ」
「そうじゃないわよ。気が張っていて休めてないって言ってるの」
「………」
 そんなエリーゼの言葉に千夜は反論する言葉が出てこなかった。

「無言は肯定と受け取るわよ」
「………」
 返事がない。
 口撃で負けた事が悔しいわけではない。
 図星を突かれた事が悔しいわけではない。
 自分でも気付いていなかった事を教えられたことに驚き、そして否定したいのだ。だが、その否定する言葉が出てこないのだ。

「………そうだな」
 渋々肯定する。

「どうして?」
「ん?」
「どうしてそんなに焦るの?」
「どうしてだろうな……」
 ベットに身を投げ出し横たわる。

「俺にも分からない。フィリス聖王国の時にはこんなことは無かった。多分だが、この領地がエリーゼとウィルにとって大切な物だからかもな」
「それって……」
「少しでも早く取り戻したい。元の平和に戻したい。そうすればエリーゼから悲しい表情が消える。そう無意識に思ったんだろうな。なのに今だ敵の組織の全貌すら見えてこない。組織のリーダーの名前すら解らない。それが無意識に苛立たせているんだろうな」
「……ごめんなさい」
「別にエリーゼが謝ることじゃない」
「だとしてもよ。私は旦那様に甘えていたわ」
「別にそれでも構わない。拒絶され、怒りや憎しみ、悲しみ、寂しさといった感情で凍りついた俺の心を溶かして暖めてくれたエリーゼたちには本当に感謝している。だからこそ俺はそんなお前たちの悲しい顔は見たくない。どんな手段を用いても原因を排除する」
 拳を突き上げ宣言する。

「それで旦那様が倒れたり怪我でもしたら私は死にそうなほど悲しいわ」
 千夜の上に覆いかぶさると腕の力が抜け自然と二人の顔が接近する。

「エリーゼ……」
「旦那様……」
 そして、二人の唇が重なる。
 いったいどれだけの時間が過ぎたのか解らない。すでに二人以外自分のベットで寝ているためそれを止めてくれる者も居ない。
 ただ永遠に近いひと時を過ごした気がした千夜たち。

「落ち着いた?」
「ああ。最高の精神安定剤だな」
「うふふ、もうちょっと上手い例えはなかったわけ?」
「それを俺に求めるか」
「ええ、求めるわ。旦那様の体も心も全て求める。けして手放さない。手にしていない物があるならそれすら手に入れてみせるわ」
「まるで悪女だな」
「あら、知らないの愛を知った女はみんな悪女の一面を身に着けるのよ?」
「それは恐ろしいな」
「嫌いになった?」
「いや、それすらも俺は愛して見せるさ」
「うふふ、知っていたわ」
 止める者がいないその場所は完全に二人の空間となっていた。
 互いに頬を撫で、見つめ合い、キスをする。それをなんども繰り返す。
 このあと何が起こるのか双手しやすいだろうが二人とも自分たちが居る場所がどこなのか把握しているため、それは起きなかった。
 だからといってこのまま離れる事無く二人はそのまま一つのベットで一緒に寝るのだった。


 次の日、目を覚ますとミレーネ、クロエ、エルザの三人が睨みつけていた。よくみるとウィルはその後ろでオドオドとしていた。

「おはよう。三人ともどうかしたのか?」
「どうかしたのか。じゃ、ありません! どうしてエリーゼお姉さまと寝てるんですか!」
「そうなのじゃ!」
「私たちが納得する理由を頂けるまではここから出しませんので」
 そんなミレーネたちに対して納得させるため千夜とエリーゼが朝から奮闘したことは言うまでもなかった。
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