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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第六十二幕 大乱闘と時代遅れの不良

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 あれから三日が過ぎた。
 その間、何事も起こることなく航海を続けてきた。それは護衛として船に乗船した冒険者たちからしてみれば退屈の何者でもない。
 戦闘以外する事のない冒険者たちは賭け事をしたり、釣りをしたりと自由に過ごすなか、千夜は甲板で刀を振るっていた。
 別に戦闘が起こったわけではなく、毎日している稽古だ。
 揺れる船の上で振るう刀は慣れてなければ思い通りに振ることは難しい、そのため体感の稽古にもなり一石二鳥でもあった。
 千夜の隣では汗を流しながらウィルも剣を振るっていた。船に乗るのも初めてのウィルにとってはいつも以上に体力と集中力を削られていた。

「ウィル少し休もう」
「い、いえ。僕はまだ出来ます」
「いや、休むんだ。休むことも強くなるために必要な事だ」
「わ、分かりました」
 千夜の言葉に渋々了承したウィルは剣を鞘に納めると壁に凭れ掛かりながら腰を落とす。

「水分補給はこまめにしておくんだ」
「ありがとうございます」
 千夜から水袋を受け取ると口にお猪口一杯分の水を含んだらすぐ飲み込まず常温になってから飲み込む。この方法も千夜が教えたものだ。
 正確には千夜が前世で見たテレビ番組で得た知識をそのまま有効活用しているだけなのだが。
 そんな稽古の休憩中にも千夜は海賊の仲間が居ないか乗船している人々に向けるが今のところそれらしい人物は見当たらない。
(まだ全員見たわけではないが、3日間探しても見当たらないとなるとこの船には乗って居ないのか?)
 そんな事を考えているとエルザがやって来る。

「主、少し宜しいでしょうか?」
「どうした?」
「船内で少し事件がありました」
「何?」
 その言葉に千夜とウィルの表情が険しくなる。
 即座に立ち上がるととエルザに案内されながら船内へと向かう。
 そこでは、冒険者たちが殴りあっていた。
 まさに大乱闘である。

「どうしてこうなった?」
「実は――」
 エルザの説明によると、賭けをしていた冒険者たちだったが、その内の数人がグループになってイカサマをしていた事がバレ、言い争いになり、それが殴り合いになり、最後には大乱闘にまで発展した。

「はぁ、なんともアホらしい」
「まったくです」
 思わず額に手を当てる千夜。そんな千夜たちなどお構い無しに未だに大乱闘は続く。
(だが、このまま放置していれば、間違いなく海賊との戦闘に支障がでる。狭い船内での戦闘では連携が不可欠だからな)
 ため息を吐くと千夜は威圧スキルを発動する。
 先ほどまで殴り合っていた冒険者たちの体が一瞬にして硬直する。
 感じたこともない威圧に恐怖で動けないのだ。

「おい、そんなに喧嘩がしたいのなら俺が相手になるぞ。それが嫌なら今すぐ振り上げている拳を納めろ」
 鋭い視線とドスの効いた声音が冒険者たちの耳に届く。
 圧倒的な力の差を一瞬で理解した冒険者たちは無言で拳を下げる。
 大乱闘を沈めた千夜はその場を去る事はない。今回止めてもまた起きる可能性があるからだ。

「で、イカサマをしていた連中ってのは誰だ?」
 そんな千夜の言葉に3人の冒険者に視線が集中する。

「お前らか?」
 そんな千夜の言葉に誰も返答しようとはせず、視線を逸らすだけだった。

「正直に答えろ。でないと俺の拳がお前らの顔面を砕く事になる」
 その言葉に3人の冒険者の視線が千夜の顔に向けられる。
 怒りなど一切なく冷めた表情。だが、鋭い視線にそれが脅しではないことだけが一瞬にして理解できた。

「そ、そうだよ。俺たちだよ」
 右の男が正直に答える。

「どうしてイカサマなんかした?」
「別に最初はするつもりはなかった。俺とザドはその男にイカサマするから手伝ってくれって言われただけだ。そしたら分け前をやるからって」
「なるほどな」
 一番左に座る男に視線を向ける。

「お前が主犯だな?」
「チッ、ああそうだよ」
(反省の色はなしだな)
 内心そんな事を思いながら千夜は口を開く。

「今までここで稼いだお金を全部だせ」
「な、なんでだよ!これは俺が稼いだお金だ!」
 その言葉に周りで聞いていた冒険者たちが怒声を喚き散らすが千夜が手を上げると一瞬にして静まる。

「確かにそれはお前がここで稼いだお金なのかもな」
「そ、そうさ」
「別に俺はイカサマが悪いとは思わない。イカサマも言い換えれば勝つための技、力なんだからな。騙される方が悪い」
「アンタ分かってるじゃねぇか」
「だが、そのイカサマはバレた。その時点でお前の負けだ。四の五の言わずに金を出せ」
「………」
「聞こえなかったのか?それとも俺の拳を食らいたいのか?」
「チッ、ほらよ!」
 懐から金が入った皮袋を放り投げる。
(思ったより少ないな)

「本当にこれで全部か?」
「ああ、そうだよ」
「…………」
「…………」
(嘘だな)
 男の嘘を見破った千夜は先ほどよりも鋭い視線を向ける。

「立て」
「え?」
「聞こえなかったのか?その場に立てと言ったんだ」
 男は理解できずにその場に立つ。

「ジャンプしろ」
「なんでだよ」
「良いから言うとおりにしろ」
 男は千夜の言われた通りにその場でジャンプした。
 チャリン
 男がジャンプすると金属と金属がぶつかり合う音が船内に響く。

「まだ隠し持ってるな?」
「チッ、ほらよ」
 男はそういうと先ほどとは反対側の懐から金が入った袋を渡す。
(どうやらこっちが本当に稼いだお金のようだな。それにしてもいつの時代の不良だよ。まったく俺は)
 自分のやり方に思わず嘆息したくなる千夜。
(だが、見つけた)
 思わず不敵な笑みを浮かべる千夜であった。
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