【完結】金の王は美貌の旅人を逃がさない

ゆらり

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本編第一部「金の王と美貌の旅人」

6  極あっさりとした説明

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 ――喧騒を離れたところで「どういことだ」と、リヤは友に詰め寄った。そして、詰め寄られたキュリオは、口元に穏やかな笑みを浮かべてこう答えた。

「滞在費を稼ぐために、賭博闘技場で働いているのだよ」

 極あっさりとしたその説明に、リヤはあんぐりと口を開けた。

「なんだと……! お前、なぜ闘技場などに……!」

 賭博闘技場とは、言葉の通り人間同士の闘いを賭けの対象とする場だ。そこに闘士として身を投じる者らには、地位も貧富も、無論ながら男も女も、関係はない。

 求められるのはただひとつ、腕っぷしの強さだ。

 闘技場の舞台の上でぶつかり合い、しのぎを削り、幾人もの猛者を蹴散らし、多くの勝ち星を得た者だけが――キュリオが観衆から呼ばれていた『顔隠し』といったいささか風変わりな――二つ名を与えられるのだ。

 一見すると嫋やかとさえ見える細身の旅人が、力を持て余した者らの受け皿である闘技場に飛び込むなど、リヤはちらとも思っていなかったのだろう。

「おや、そんなに驚くことかな。私が剣を扱うことを君は知っているのに」
「護身として剣がある程度、扱えるとは聞いた。だが、闘技場で稼げる程の腕だとは聞いていない」
「ははは。程度の解釈違いだね。稼げる程度には扱えるのだよ」

 楽し気なキュリオの笑い声は耳障りの良いそれではあったが、リヤは「笑いごとじゃないだろう! 危険だ!」と、苦々しい表情で半ば叫ぶようにして言いながら、頭を掻きむしった。

「お前がそんな殺伐とした場所に身を投じる必要が、どこにあるんだ。怪我でもしたらどうする」
「怪我など、してからどうするか考えるものだ。なに、下手を打つ気はない」

 過保護の極まった物言いをするリヤに、なかなかに豪気で男らしい屁理屈を返してキュリオはまたしても楽し気に「ははは!」と、笑った。

「お前の賢しさなら、安全な仕事のひとつやふたつ、俺の伝手で簡単に見つけられる。わざわざ荒事に手を出すな。肝が冷える」
「君に甘えるような真似などしたくはない。これは私なりに考えての選択だ。身一つで稼げる良い職場なのだから、そう騒がないでくれると嬉しいよ」

 どうしてなかなか、キュリオは意固地だった。

「甘えてくれた方がまだマシだ。お前は俺の肝を凍らせる気か」などと、更に言い募るリヤのしつこさに、さすがに辟易したらしいキュリオは、小さく肩を竦めて前を向いた。そして、何も言わず再び歩き始める。

 ――もうこれ以上、話すことはないということだ。

 まるで聞く耳を持たないその態度に、やれやれと言わんばかりにリヤは頭を振った。そして、大きくため息をついてから、彼を追いかけて傍らに並ぶ。
 
「それにしてもお前が『顔隠し』とはなぁ」
「顔を隠しているのは私だけだったようでな。ふふ……、まさか二つ名をもらえるとは思ってもみなかった。まったく愉快な気分だよ」
 
 ……整った顔を常に隠している彼に、実に似合いの名が付いたという訳だ。

 無邪気ささえ漂わせて、クスクスと呑気にキュリオが笑う。そんな様子にリヤは呆れ顔で深々と二度目のため息をつくと、次に真顔になってこう言った。
 
「そこそこ名が売れていれば、専属で雇いたいと声が掛かるぞ」
「ほぅ、面白いね。旅流れの私には、まず声は掛からないだろうがね」
「お前なら、むしろ俺が雇いたい。好待遇でうちの食客にする。どうだ?」
「ふふ、光栄なことだ。考えておこうかな」
 
「冗談でも嬉しい言葉だ」と、やんわりと口元を綻ばせるキュリオを、リヤはどこか思案がちな表情で見据えるのだった。
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