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本編第二部「金の王と不変の佳人」
1 再来と晩酌
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――王のもとに留まる形に収まったキュリオは、食客という立場を与えられた。
千切れかけた想いをようやく繋ぎ合わせることができはしたが、王であるリヤスーダとキュリオがともに過ごせる時間は直ぐには取れなかった。離れ家にリヤスーダが再来する報せが伝えられたのは、四阿での誓いの口付けから実に十日ほど後のことだった。
そしてようやくにして迎えた、再来の日。
陽も暮れようかという頃合いに、リヤスーダは白の長衣に黄土に染められた絹の帯を締めた姿で現れた。すっきりとしたその配色は、彼の燃えるような金髪と相まって輝かしい風格を与えていた。
「明日の昼までは、何にも煩わされずにお前と居られる様に時間を作ってきた」
「随分と勤めを頑張ったのだね。嬉しいけれど無理はしていないか?」
穏やかに微笑みながら、キュリオは彼を出迎えた。ゆったりとした淡い萌黄色の装いに身を包み、髪は帯と揃いの朱赤の結い紐で巧みに結い上げられている。淑やかで華やぎのある装いは、闘士とは思えぬ麗人ぶりだ。
「その辺は問題はないさ。俺一人で国を動かしている訳でもない。……ただ、今日までがとても、長かった。たかが数日だと言うのに、これまでずっとお前に会わずにいたそれよりも、ずっと長く思えた」
リヤスーダは気のせいでなく疲れた顔で言うなり、キュリオの細身をやわく抱きすくめて肩口に顔を埋める。喉を鳴らさんばかりに甘える姿は、ただ一人の凡庸な青年のようだ。
「君に甘えられると、なんだかこそばゆいよ。大きな子供みたいだね」
クスクスと笑いながらキュリオは、部屋の灯りで眩く輝く金髪を優しく撫でてから、しなやかな腕を伸ばして大柄な体を抱き返してやった。
「……子供は、こんなことはしないだろう」
低く呟きながらの首筋への口付をされ、キュリオはくすぐった気に苦笑しながら「こら、悪戯をするでないよ。今から酒を飲みながら話したいのだから」と、乱暴に金髪をかき混ぜた。
「ああ、まずはそれが一番だな。久しぶりにお前とゆっくり話したい。これからの事もな」
姿勢を正した二人は、微笑み合いながら晩酌の席へと着いた。
「――ん、やはり酒は誰かと飲むものだね。実に美味い」
杯に波々と注がれた酒を一息のうちに飲み干したキュリオが、至福の笑みを浮かべてふうっと息を吐く。
「ここに来てから酒を断っていたから、なおのこと美味いよ」
「酒好きのお前が、なぜそんな真似をしていたのだ」
「飲んだところで美味い訳がないだろう。君や店主と一緒に飲んでいたのをどうしても思い出してしまうし、稼ぎも無く暇を持て余す無駄飯食らいな身だ。とてもそんな気にもなれなかったのだよ」
禁酒の理由を聞いて、リヤスーダは端正な面に苦微笑を浮かべた。
「……これからはもう、好きに飲んでくれ。そのような理由で酒を断たれるのは寝覚めが悪い。お前の食客としての務めは、俺との剣の手合わせや、こうして晩酌の供をすることだ。他にも頼みたい事柄があれば、その都度に頼むことになるだろう」
「わかった。私の出来ることであれば、如何様にも務める」
「この離れ家からは、できれば出て欲しくはない。以前のようなことがないとも限らないからな」
「さすがに、あのようなことが二度も三度もあるとは思えないが……、君がそう望むのならば」
恋仲となった間柄にしては事務的で、いささか歪な会話だ。だが、それでも和やかな雰囲気が漂う二人の晩酌は、夜が深まり、闇が星々以外の全てを帳で覆い尽くす夜更けになるまで続いた。
千切れかけた想いをようやく繋ぎ合わせることができはしたが、王であるリヤスーダとキュリオがともに過ごせる時間は直ぐには取れなかった。離れ家にリヤスーダが再来する報せが伝えられたのは、四阿での誓いの口付けから実に十日ほど後のことだった。
そしてようやくにして迎えた、再来の日。
陽も暮れようかという頃合いに、リヤスーダは白の長衣に黄土に染められた絹の帯を締めた姿で現れた。すっきりとしたその配色は、彼の燃えるような金髪と相まって輝かしい風格を与えていた。
「明日の昼までは、何にも煩わされずにお前と居られる様に時間を作ってきた」
「随分と勤めを頑張ったのだね。嬉しいけれど無理はしていないか?」
穏やかに微笑みながら、キュリオは彼を出迎えた。ゆったりとした淡い萌黄色の装いに身を包み、髪は帯と揃いの朱赤の結い紐で巧みに結い上げられている。淑やかで華やぎのある装いは、闘士とは思えぬ麗人ぶりだ。
「その辺は問題はないさ。俺一人で国を動かしている訳でもない。……ただ、今日までがとても、長かった。たかが数日だと言うのに、これまでずっとお前に会わずにいたそれよりも、ずっと長く思えた」
リヤスーダは気のせいでなく疲れた顔で言うなり、キュリオの細身をやわく抱きすくめて肩口に顔を埋める。喉を鳴らさんばかりに甘える姿は、ただ一人の凡庸な青年のようだ。
「君に甘えられると、なんだかこそばゆいよ。大きな子供みたいだね」
クスクスと笑いながらキュリオは、部屋の灯りで眩く輝く金髪を優しく撫でてから、しなやかな腕を伸ばして大柄な体を抱き返してやった。
「……子供は、こんなことはしないだろう」
低く呟きながらの首筋への口付をされ、キュリオはくすぐった気に苦笑しながら「こら、悪戯をするでないよ。今から酒を飲みながら話したいのだから」と、乱暴に金髪をかき混ぜた。
「ああ、まずはそれが一番だな。久しぶりにお前とゆっくり話したい。これからの事もな」
姿勢を正した二人は、微笑み合いながら晩酌の席へと着いた。
「――ん、やはり酒は誰かと飲むものだね。実に美味い」
杯に波々と注がれた酒を一息のうちに飲み干したキュリオが、至福の笑みを浮かべてふうっと息を吐く。
「ここに来てから酒を断っていたから、なおのこと美味いよ」
「酒好きのお前が、なぜそんな真似をしていたのだ」
「飲んだところで美味い訳がないだろう。君や店主と一緒に飲んでいたのをどうしても思い出してしまうし、稼ぎも無く暇を持て余す無駄飯食らいな身だ。とてもそんな気にもなれなかったのだよ」
禁酒の理由を聞いて、リヤスーダは端正な面に苦微笑を浮かべた。
「……これからはもう、好きに飲んでくれ。そのような理由で酒を断たれるのは寝覚めが悪い。お前の食客としての務めは、俺との剣の手合わせや、こうして晩酌の供をすることだ。他にも頼みたい事柄があれば、その都度に頼むことになるだろう」
「わかった。私の出来ることであれば、如何様にも務める」
「この離れ家からは、できれば出て欲しくはない。以前のようなことがないとも限らないからな」
「さすがに、あのようなことが二度も三度もあるとは思えないが……、君がそう望むのならば」
恋仲となった間柄にしては事務的で、いささか歪な会話だ。だが、それでも和やかな雰囲気が漂う二人の晩酌は、夜が深まり、闇が星々以外の全てを帳で覆い尽くす夜更けになるまで続いた。
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