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番外編 「旅人にまつわる小さな物語」
ご先祖様は嫉妬深い⑦
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その夜、奇妙な夢を見た。
黄金の見事な髪が眩しい、リヤスーダ王――いや、あの男が現れた。
「いいか? あれは俺のものだ。いかに子孫であるお前であってもやらんぞ」
これ見よがしに黄金の髪を神々しく輝かせながら、大人げのない口ぶりで言った。
「は、はぁ……」と、気の抜けた返事をすると、男は「ふん……。理解しているのならばいい」と、言って男らしく整った精悍な顔に不遜な表情を浮かべて笑った。
『あれ』とは、キュリオの事だろう。さすがにこうまであからさまに釘を刺されると、やましい奴だと言われているような気がしてしまう。いくらなんでも、人の伴侶に手を出すような真似はしない。
苛立ちながら、「……分ってますよ」と、その気持を込めて男を睨みつけてやった。
「ふっ、そう睨むな。まるで幼い頃のラフィンのようだぞ。あれも随分とキュリオを慕っていたからな。事ある毎にそのような目をして、俺を睨んでいた。まさか子孫にまでそんな目をされようとはな」
クククと、可笑し気に笑いながら男はカルネの頭を乱暴に撫でてきた。
思わず「うわっ!」と叫んで、大きな手から逃げようとしたが、いいように撫で回されてあっと言う間に髪をボサボサにされた。
そうやってひとしきり頭を撫でた後、男は気が済んだのか何やら上機嫌な顔で、「ではな。……息災に過ごせよ。お前達が、健やかであることをキュリオも願っている」と、言い置いて悠々とどこへともなく歩き去って虚空に消えて行った。
「な、なんなんだ……あの人は」
ラフィンと言えば、リヤスーダ王の第一子である王子だ。賢王として有名なラフィンとキュリオの間に何があったのだろうか。
男の態度からして、子供の頃のラフィンに対してもあんな大人げない言い方をしていたなのだろうと思うと、何とも言えない複雑な気分になった。
嫌に鮮明で、現実のような夢はそこで終わった。
「……あの男が、リヤスーダ王だったっていうのか?」
だとしたら、キュリオも普通の人間ではないのか。リヤスーダ王と共に、百年以上もの年月を変わらない姿で生きてきたとでもいうのか。
そんなまさか。よく似ている別人じゃないのか? ……と、否定しかけたが、夢の中に出て来た王といい、離れ家の庭で見かけたあの幻のように美しい貴人の姿をしたキュリオといい……否定できないものを自分は見てしまっている。
「とんでもない人達に会っちゃったんだな……」
こんな話、誰に言っても信じてもらえそうにない。ただ、彼らに会えてよかったとも思えた。
神や奇跡なんて信じてはいなかったが、そういうものが現実に存在すると知れただけで、視界が大きく開けた気がしたからだ。これからは、もっと、この国の歴史を調べるのが楽しくなるだろう。
――ちなみに、夢の中で乱暴に撫でられた頭は、いつもより激しい寝癖が付いていた。
夢の中にまで現れて、こんな悪戯までして釘を刺すだなんて本当に大人げない。
昨日見た二人の姿で、キュリオが自分には手の届かない存在だと思い知らされていたのだから。わざわざ言いに来るなんて……。
「――はぁ……。嫉妬深いにもほどがありますよご先祖様」
時間を掛けてもなかなか寝癖の直らない髪を弄りながら、カルネはそうぼやいたのだった。
※ご先祖様は大人げない……。完結です。お読みいただきありがとうございました。
黄金の見事な髪が眩しい、リヤスーダ王――いや、あの男が現れた。
「いいか? あれは俺のものだ。いかに子孫であるお前であってもやらんぞ」
これ見よがしに黄金の髪を神々しく輝かせながら、大人げのない口ぶりで言った。
「は、はぁ……」と、気の抜けた返事をすると、男は「ふん……。理解しているのならばいい」と、言って男らしく整った精悍な顔に不遜な表情を浮かべて笑った。
『あれ』とは、キュリオの事だろう。さすがにこうまであからさまに釘を刺されると、やましい奴だと言われているような気がしてしまう。いくらなんでも、人の伴侶に手を出すような真似はしない。
苛立ちながら、「……分ってますよ」と、その気持を込めて男を睨みつけてやった。
「ふっ、そう睨むな。まるで幼い頃のラフィンのようだぞ。あれも随分とキュリオを慕っていたからな。事ある毎にそのような目をして、俺を睨んでいた。まさか子孫にまでそんな目をされようとはな」
クククと、可笑し気に笑いながら男はカルネの頭を乱暴に撫でてきた。
思わず「うわっ!」と叫んで、大きな手から逃げようとしたが、いいように撫で回されてあっと言う間に髪をボサボサにされた。
そうやってひとしきり頭を撫でた後、男は気が済んだのか何やら上機嫌な顔で、「ではな。……息災に過ごせよ。お前達が、健やかであることをキュリオも願っている」と、言い置いて悠々とどこへともなく歩き去って虚空に消えて行った。
「な、なんなんだ……あの人は」
ラフィンと言えば、リヤスーダ王の第一子である王子だ。賢王として有名なラフィンとキュリオの間に何があったのだろうか。
男の態度からして、子供の頃のラフィンに対してもあんな大人げない言い方をしていたなのだろうと思うと、何とも言えない複雑な気分になった。
嫌に鮮明で、現実のような夢はそこで終わった。
「……あの男が、リヤスーダ王だったっていうのか?」
だとしたら、キュリオも普通の人間ではないのか。リヤスーダ王と共に、百年以上もの年月を変わらない姿で生きてきたとでもいうのか。
そんなまさか。よく似ている別人じゃないのか? ……と、否定しかけたが、夢の中に出て来た王といい、離れ家の庭で見かけたあの幻のように美しい貴人の姿をしたキュリオといい……否定できないものを自分は見てしまっている。
「とんでもない人達に会っちゃったんだな……」
こんな話、誰に言っても信じてもらえそうにない。ただ、彼らに会えてよかったとも思えた。
神や奇跡なんて信じてはいなかったが、そういうものが現実に存在すると知れただけで、視界が大きく開けた気がしたからだ。これからは、もっと、この国の歴史を調べるのが楽しくなるだろう。
――ちなみに、夢の中で乱暴に撫でられた頭は、いつもより激しい寝癖が付いていた。
夢の中にまで現れて、こんな悪戯までして釘を刺すだなんて本当に大人げない。
昨日見た二人の姿で、キュリオが自分には手の届かない存在だと思い知らされていたのだから。わざわざ言いに来るなんて……。
「――はぁ……。嫉妬深いにもほどがありますよご先祖様」
時間を掛けてもなかなか寝癖の直らない髪を弄りながら、カルネはそうぼやいたのだった。
※ご先祖様は大人げない……。完結です。お読みいただきありがとうございました。
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