【完結】金の王は美貌の旅人を逃がさない

ゆらり

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番外編  「旅人にまつわる小さな物語」

ご先祖様は嫉妬深い⑥

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 ――キュリオが宿泊していたのは、市内でも指折りの高級ホテルだった。

「凄いとこに泊まってますね……」

 ライターをしていると言っていたが、一体どれだけの高給取りなのか。

「私は安いところでいいと言ったのだがね……、リヤが駄目だと言うものだから」
「リヤ……? 誰ですかそれ」
「私の伴侶だ」

 淡く微笑んで返されたキュリオの言葉に、カルネは愕然とした。

「ええっ! キ、キュリオさん妻帯者だったんですか!」
「妻……ではないのだけれどね。結婚はしている」

  考えてもいなかった事実を聞かされた瞬間に、心臓の辺りがズキズキと痛んだ。

「……そ、そうなんですか……」
「はは。意外だったかな。所帯持ちだと見られないことはよくあるよ」

 結婚なんて、していなければよかったのに。

 ……そんな風に、思ってしまった。恋愛めいた経験がない訳ではなかったから、その感情が何かは直ぐに気付いた。キュリオに恋をしてしまっていたのだと。

 苦しくて目眩がした。それでも、カルネは無理をして笑顔でいようとした。ここで変に取り乱してしまってキュリオとの出会いが、楽しいままで終われなくなってしまうのが嫌だったからだ。

「……あ、俺そろそろ帰りますよ。今日はありがとうございました」
「こちらこそ。ありがとう。気を付けて帰るんだよ」
「はい。それじゃ……」

 微笑むキュリオに、手を振って踵を返そうとしたそのとき。 

「キュリオ、遅かったな」

 ホテルの入口から出て来た長身の男が、キュリオの肩を抱いた。

「ああ、思いのほか楽しくてね。遅くなってしまったよ。夕餉は済んでしまったかな」
「いや、まだだ。お前を待っていた」
「そうかね。では、今から二人で食べよう」

 燃えるような金髪をした……リヤスーダ王によく似た男は、ニコリと笑ったキュリオを包み込むようにして抱き締めて愛し気に目を細めた。細身でやや中性的な容姿をしたキュリオとは対照的に、筋骨たくましく男らしい美形だ。
 
「……世話になったようだな。礼を言う」

 突然現れたキュリオの『伴侶』にあ然としていたカルネは、彼の空色の瞳に見据えられてびくりと身を竦ませた。男は口の端を上げて笑ってはいるが、目が笑っていない。

「いっ、いえ。こちらこそ、色々と教えて頂きましたし」
「そうか。……余程に話が合ったのだろうな」
「ま、まあ、俺もキュリオさんも、歴史に興味があったんで、それなりに」
「ほう……」

 低く良く通る声は怒っているようには聞こえないが、肌に突き刺さるような圧を感じる。……明らかに威嚇だ。握り締めた手の平にじっとりと汗が滲んで、息が苦しくなった。

「リヤ、殺気など飛ばすでないよ。大人げない……」

 キュリオがぺしりと男の額を叩くと、ふっと圧が消えた。

「……ふん。少し外を歩かせるとこれだ。……まったく、油断ならん」
「何を言っているのかね。焼きもちも大概にしたまえよ」

 呼吸が楽になり大きく息を吸うと、胸の痛みが少し薄れていく。

 薄闇が迫る中、ホテルの入口からの淡い光に照らされているキュリオと彼を抱き締めている男の姿は、まるで映画のワンシーンのように絵になっていた。他の誰かが、二人の間に入り込む隙間などない。

「ほら、もう解放してくれないかね」
「……お前な、もう少し危機感を持て」
「君に心配されるほど、私は迂闊でも軽率でもないよ」
「どの口が言っているのか……」

 二人の痴話喧嘩めいた会話にカルネは酷く脱力した。一体なにを見せられているのだろう。失恋の痛手を感じていたはずなのに、何かどうでもよくなって笑いが込み上げてくるほどだった。

「あはは。お邪魔みたいですね。また今度、図書館ででも会いましょう」
「そうだね。また会おう。今日は楽しかったよ。ありがとう」

 親しく口をきいたのが気に入らなかったらしい男が「愛想を振りまくな」と、キュリオを深く抱きすくめてから、また睨みを利かせてきたが、キュリオが「やめたまえよ」と、言いながらまたぺしりと額を叩いてそれを止めさせた。遠慮のないやり取りがおかしくて堪らなかったが、ここで笑い転げると男にまた睨まれそうだ。

 カルネは大声で笑いたいのを必死で堪えながら、駆け足でホテルの前から立ち去ったのだった。
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