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本編
3 まさか、2回も心臓を止められそうになるなんて思わなかった
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――心臓を止められ掛けた俺が案内されたキッチンは、キッチンじゃなかった。
「調理場って感じだぁ……。おお、なんか魔道具がいっぱいある……」
ぴっかぴかの新品で、見たことない珍しい魔道具だらけ。うへぇ高そうだ。壊したら給料から天引きかな。まじまじと眺めていたら「道具は自由に使っていいです。もし、壊れてしまっても修理はできますので、心配しないでください」というありがたいお言葉が。お気遣いありがとうございます。
「食材はそこの棚と保冷庫にどうぞ」
「はい」
屋敷もでかいけど、保冷庫もでかい! 入れ放題だ。がさごそと紙袋から食材を出して、ひとまず仕舞っていく。元からあるのは、茶葉とかミルクに砂糖とか調味料系が少し。あとは手軽に食べられる甘い菓子くらいしかなくてスカスカだった。
……あんまり料理しないのかなー。食材、買ってきて正解だったな。
あ。自己紹介、忘れてた! 今のうちにしておこう。
「あの、まだ自己紹介してませんでしたよね。俺、ハス・ブレッデです。ハスって呼んでください。今年で20歳になります。南部のブレッデ出身です」
さらっと自己紹介をすると、魔術師が目を丸くした。おお、そんな顔でも綺麗だなこの人。紫色の瞳って珍しいなー。ベタな言い方だけど宝石みたいだ。
「……自己紹介、確かに忘れていましたね。私としたことが……、浮かれていたみたいですね」
「えっ? 浮かれてたって、何にですか?」
「いえ、こちらの話ですので気にしないで。私はカムロ・ディザートです。カムロと呼んでください。爵位持ちですが、元は商家の生まれで平民ですから屋敷内での様付けは禁止にしてください。様付けで呼んでも、返事はしませんからね」
「あ、はい。カムロさんと呼ばせて頂きます……」
様付け禁止、了解しましたよ! そしてやっぱりお貴族様かぁ。にしても、何かにつけて圧が凄いなこの人。顔が良過ぎるせいかな。
……ん? ディザートって、どっかで聞いたような名前だなー。なんとなく、ちらっと近くにあった魔道具のロゴを見た。あ。これ、ディザート社製だな。
……って! おいまて!
本人か? 本人なのか! いやいや。そんなまさか、アハハハ……。
……カムロ・ディザートっていう人は、超の付く有名人だ。
王国内で筆頭の魔術師で、魔術技師としても凄腕の天才。人気爆発中の魔道具メーカー「ディザート」の社長。それから、数年前の戦で死傷者をほとんど出さずに隣国を降伏させた英雄で、終戦後に爵位をもらってる。えーと、あれだ、上から数えて早い方の……、伯爵だ!
あと、人から聞いた噂だから本当かどうか知らないけど、魔術の実力が突き抜け過ぎていて王族さえも命令できないとか、地位と金目当てに群がる連中に嫌気がさしたからって出国しようとしていたけど、王様に「出て行かないでくれ!」って、泣いてお願いされて留まったとか……。
ここまでくるともう、大盛りすぎて腹いっぱいだ。吐きそう!
「……カムロさんって、あのカムロ・ディザートさん?」
「はい。あのカムロ・ディザートです。魔道具の。ちなみに28歳です」
……ひいっ! 本人だ! 心臓止まるかと思った! 本日2回目!
こんな凄い人に、俺なんかが雇われて大丈夫なのか?
「カ、カムロさん、お、俺なんかでいいんですか? し、素人ですよ。もっとこう、一流料理人とか、メイドさんとか……プロの方を雇った方が、いいと思うんですけど」
考えてみれば、でっかいお屋敷に住んでる貴族なのに、なんで本人が出迎えてたんだよ。えっとなんだっけ、執事? とかいうのか? そういうの雇ってないのかな。まさかとは思うけど、ひとり暮らしとか?
「一時期はそういう人達を雇っていましたが、全員クビにしました」
なんですと。
「な、なんで……、クビに?」
「気に入らなかったんです」
……どういうふうに気に入らなかったのかなああ……。気になるけど、つんと不機嫌そうな表情になったから、聞くのはやめておこう。何かを踏み抜きそうだし。
「ハスさんがいいです。俺なんかなんて、言わないでくださいよ」
「えっ? あぁ、はい……」
そ、そこまで気に入られることなんてなんもしてないですよ。まったくワケがわかりませんですよ。こ、混乱してきた! うおお!
心臓がばくばくいってる。落ち着け。深呼吸、深呼吸……。
「私が決めて雇うからには、無責任に放り出したりしません。責任は取ります」
「責任なんて取らなくていいです。実際に働いてみて、気に入らなくなったら言ってください」
ここで真に受けて即クビにでもなったら、しばらく立ち直れない。姿勢を正して真剣な声で言うと、カムロさんはとても嬉しそうに微笑んだ。
……きゅっと胸が締め付けられて疼くような感じがする笑顔。その顔で、そういう表情するのはやめて欲しい。女の子だったら惚れちゃうぞ!
「ふふ。ますます気に入りましたよ」
声が甘ったるい! 笑顔も甘い! なんでそんなに嬉しそうなの! 普通のことしか言ってないぞ! うわああああっ! むずむずする! この人、激烈にタラシすぎる!
……違う意味で心臓がばくばくした。
「末永く、よろしくお願いしますね。ハスさん」
「はっ、はいぃ……」
……まさか、2回も心臓を止められそうになるなんて思わなかった。
「調理場って感じだぁ……。おお、なんか魔道具がいっぱいある……」
ぴっかぴかの新品で、見たことない珍しい魔道具だらけ。うへぇ高そうだ。壊したら給料から天引きかな。まじまじと眺めていたら「道具は自由に使っていいです。もし、壊れてしまっても修理はできますので、心配しないでください」というありがたいお言葉が。お気遣いありがとうございます。
「食材はそこの棚と保冷庫にどうぞ」
「はい」
屋敷もでかいけど、保冷庫もでかい! 入れ放題だ。がさごそと紙袋から食材を出して、ひとまず仕舞っていく。元からあるのは、茶葉とかミルクに砂糖とか調味料系が少し。あとは手軽に食べられる甘い菓子くらいしかなくてスカスカだった。
……あんまり料理しないのかなー。食材、買ってきて正解だったな。
あ。自己紹介、忘れてた! 今のうちにしておこう。
「あの、まだ自己紹介してませんでしたよね。俺、ハス・ブレッデです。ハスって呼んでください。今年で20歳になります。南部のブレッデ出身です」
さらっと自己紹介をすると、魔術師が目を丸くした。おお、そんな顔でも綺麗だなこの人。紫色の瞳って珍しいなー。ベタな言い方だけど宝石みたいだ。
「……自己紹介、確かに忘れていましたね。私としたことが……、浮かれていたみたいですね」
「えっ? 浮かれてたって、何にですか?」
「いえ、こちらの話ですので気にしないで。私はカムロ・ディザートです。カムロと呼んでください。爵位持ちですが、元は商家の生まれで平民ですから屋敷内での様付けは禁止にしてください。様付けで呼んでも、返事はしませんからね」
「あ、はい。カムロさんと呼ばせて頂きます……」
様付け禁止、了解しましたよ! そしてやっぱりお貴族様かぁ。にしても、何かにつけて圧が凄いなこの人。顔が良過ぎるせいかな。
……ん? ディザートって、どっかで聞いたような名前だなー。なんとなく、ちらっと近くにあった魔道具のロゴを見た。あ。これ、ディザート社製だな。
……って! おいまて!
本人か? 本人なのか! いやいや。そんなまさか、アハハハ……。
……カムロ・ディザートっていう人は、超の付く有名人だ。
王国内で筆頭の魔術師で、魔術技師としても凄腕の天才。人気爆発中の魔道具メーカー「ディザート」の社長。それから、数年前の戦で死傷者をほとんど出さずに隣国を降伏させた英雄で、終戦後に爵位をもらってる。えーと、あれだ、上から数えて早い方の……、伯爵だ!
あと、人から聞いた噂だから本当かどうか知らないけど、魔術の実力が突き抜け過ぎていて王族さえも命令できないとか、地位と金目当てに群がる連中に嫌気がさしたからって出国しようとしていたけど、王様に「出て行かないでくれ!」って、泣いてお願いされて留まったとか……。
ここまでくるともう、大盛りすぎて腹いっぱいだ。吐きそう!
「……カムロさんって、あのカムロ・ディザートさん?」
「はい。あのカムロ・ディザートです。魔道具の。ちなみに28歳です」
……ひいっ! 本人だ! 心臓止まるかと思った! 本日2回目!
こんな凄い人に、俺なんかが雇われて大丈夫なのか?
「カ、カムロさん、お、俺なんかでいいんですか? し、素人ですよ。もっとこう、一流料理人とか、メイドさんとか……プロの方を雇った方が、いいと思うんですけど」
考えてみれば、でっかいお屋敷に住んでる貴族なのに、なんで本人が出迎えてたんだよ。えっとなんだっけ、執事? とかいうのか? そういうの雇ってないのかな。まさかとは思うけど、ひとり暮らしとか?
「一時期はそういう人達を雇っていましたが、全員クビにしました」
なんですと。
「な、なんで……、クビに?」
「気に入らなかったんです」
……どういうふうに気に入らなかったのかなああ……。気になるけど、つんと不機嫌そうな表情になったから、聞くのはやめておこう。何かを踏み抜きそうだし。
「ハスさんがいいです。俺なんかなんて、言わないでくださいよ」
「えっ? あぁ、はい……」
そ、そこまで気に入られることなんてなんもしてないですよ。まったくワケがわかりませんですよ。こ、混乱してきた! うおお!
心臓がばくばくいってる。落ち着け。深呼吸、深呼吸……。
「私が決めて雇うからには、無責任に放り出したりしません。責任は取ります」
「責任なんて取らなくていいです。実際に働いてみて、気に入らなくなったら言ってください」
ここで真に受けて即クビにでもなったら、しばらく立ち直れない。姿勢を正して真剣な声で言うと、カムロさんはとても嬉しそうに微笑んだ。
……きゅっと胸が締め付けられて疼くような感じがする笑顔。その顔で、そういう表情するのはやめて欲しい。女の子だったら惚れちゃうぞ!
「ふふ。ますます気に入りましたよ」
声が甘ったるい! 笑顔も甘い! なんでそんなに嬉しそうなの! 普通のことしか言ってないぞ! うわああああっ! むずむずする! この人、激烈にタラシすぎる!
……違う意味で心臓がばくばくした。
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