【完結】騎士団をクビになった俺、美形魔術師に雇われました。運が良いのか? 悪いのか?

ゆらり

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本編

6  雇い主が俺を全力で甘やかしてくる。どうしたらいいと思う?

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 ――超魔術師のお屋敷で、高給取りな住み込み家政夫になった俺。びっくりの連続だった出会いから、だいたい1ヵ月が経った。いやー、早いもんだなー。

「ふわぁ……」

 朝5時起床。おはようございます。

 ふっかふかの特大ベッドの上で欠伸をひとつ。最初は落ち着かなかったけど、慣れてくると寝心地満点高級ベッドの虜になった。

 下着姿パンイチで室内履きを引っ掛けて脱衣所に行って、備え付けの洗面台で顔を洗ったりする。寝間着? そんなものない。

 ついでに言うと私服も少ない。綿シャツやその上に羽織る上着に、黒染めの麻布ズボンが各数枚だけ。脱衣所の棚に突っ込んである。衣裳部屋は使っていない。人が余裕で歩き回れるくらい広いクローゼットがあるんだけど、そこまで歩いて行ってたった数枚の服を出し入れする方が不便だっ!

 ……広すぎる収納に意味もなく切れ散らかしたくなった俺に、誰か頷いてくれ……。

 服を着て身支度が終わったら、お仕事開始だ。洗濯物を洗濯機へ放り込み、水を注いで魔力をちょっと流して作動させる。洗い上がるまでに、朝飯の支度をしておく。

「おはようございます」
「あ、おはようございます。カムロさん」

 なんでか、朝飯が仕上がるタイミングぴったりで必ず起きてくる。

「今日も美味しそうです」
「夕べのうちに仕込んでおいたスープがありますよ。いい感じに仕上がりました」
「んん、良い匂いですね。目が醒めますよ」

 そして、2人で一緒に食べる。昼と晩と、ついでに10時と3時のおやつ時間ティータイムもだ。「一緒に食べて欲しいです。その方が美味しいです」なんて、穢れのない……この人結構いい性格してるから絶対違う……ような瞳で言われて、そうなった。

 朝飯が終わると、カムロさんは作業場兼書斎の部屋へ向かう。俺はひたすら家事に勤しんで、余った自由時間はひっろいお庭で体力づくりをする。

 腕立て腹筋背筋、体の筋を伸ばしたりしてから、お屋敷の周りを走る。護衛の仕事は頼まれていないけど、トレーニングをしないと落ち着かない。

 限界手前まで走り込んだら、倉庫にあったモップで素振り。うーん、剣が欲しいな。モップだと重さが足りない。騎士団の支給品を使ってたから自前はないんだよ。先払いしてくれた給料があるけど、ちょっと足りない。とりあえず貯金だな。

 ……なんて、汗だくになりながら考えていたら、視界の隅にカムロさんの姿が。

「ハス君、そろそろ休憩にしませんか」

 懐中時計を片手に微笑んでいらっしゃる。

「あっ、もうそんな時間ですか。急いで汗流してきますんで」
「慌てずにどうぞ。少し早いですから」

 慌てるなと言われたけど、それでも急がないと。汗を適当に拭いながら駆け足で部屋に戻って、ざっとシャワーを浴びてからまた駆け足で調理場へ。

 今朝に焼いたクッキーと淹れたての紅茶やら何やらをトレイに乗せて、立派なテラスの方へ向かう。

「おまたせしました。どうぞ」
「ありがとう。いただきますね」

 さくっとクッキーを食べて、至福の表情を浮かべるカムロさん。よし! 今日も胃袋を掴みまくっているぞ俺! カムロさんの紅茶には砂糖を3杯と、ミルクを4割入れる。俺はストレートで。

「美味しい……。ああ、幸せです。ハス君のクッキーはいつも美味しいです」
「ありがとうございます。今後もクビにされないように精進します」
「クビになんてしませんよ」

 紅茶とクッキーでまったりと休憩。優雅だ。

 そういえば、いつの間にか「ハスさん」だったのが「ハス君」呼びになっている。最初から親しみのある感じの人だったけれど、ここ1ヵ月で距離が近くなった気がするな。
 
 住み込み家政夫っていうよりも、同居の家族みたいな雰囲気だ。ぼりぼりとクッキーをかじりながら、俺自身の立ち位置について考える。

 食費というか生活費は、ほぼカムロさん持ち。朝昼晩の飯とおやつを一緒に食べていて、寝起きしている場所も隣同士……。寝室が扉で繋がってるけど鍵も掛けてあるし、夜這いなんかしないからどうでもいいとしても、色々とゆるゆるすぎやしませんかねカムロさん。

 ……なんか違う気がするんだけどなぁ。こんなのでいいのかなぁ。甘やかされてるよな。

「さて、ちょっと出掛けてきます」

 おっ、出掛けるのか。考え事を中断して、頬張っていたクッキーを紅茶で胃に流し込む。

「わかりました」

 家で食べられないときは、飯とおやつをたっぷり詰め込んだバスケットを渡すことになっている。「外でも、ハス君の料理が食べたいです」という、雇い主のありがたいご要望でございますよ。ちなみに、バスケットはカムロさん作の見た目より何倍も物が入る魔道具だ。

 ここまでくるともう、胃袋を掴んだどころか征服したと言えるんじゃないかな! 最初は不安だったけど、最近やっと自信が持ててきた。あと何ヵ月雇ってもらえるか分からないけど、地道に頑張るぞ!

「いってらっしゃいませ」
「はい。行ってきます」

 バスケットを笑顔で受け取って、「夕食のメインは作らずにおいてください。食材を持ってきますから」と、言いながら出ていくカムロさんを、でっかい玄関エントランス先で見送った。



 ……で、その日の夕方。

 「これ、使ってください」って、言いながら魔道具バスケットから調理台に出された肉の大きさと量に、俺はあんぐりと口を開けてしまった。でけぇし多い! 調理台が埋まりそうになったぞ!

「何の肉ですかこれ」って聞いたら、日常生活ではお目にかかれない、めちゃくちゃ危険な魔物の名前がカムロさんの口から飛び出した。

 そして衝撃のひと言。

「狩ったばかりですから新鮮ですよ」

 ……ひいっ!

「ちょっと出掛けてきます」って言って外出した雇い主が、超危険な魔物をさくっと狩ってきましたよ。ブチ飛んでるなおい!

「す、すごいなぁ。まずシンプルに焼いてみますか」
「そうですね。現地で血抜きなどはしてありますから、普通の肉として調理して問題ありませんよ」
「了解です……」

 縮み上がった俺だったけど、魔物肉が最高に美味くてすぐ復活した。

 赤身の旨味と、脂の甘味が半端ない! 噛み締めると口の中にぶわっと味が広がって、頭の中が蕩けていきそうになる。柔らかいけどしっかりした肉質で、程々に噛み応えがあるのもいい。いくらでも食えるやつだこれ! とにかく、うまぁあああ!

 次は煮込みにでもしようか。あっ! ミートパイとかもいいな! 保冷庫が高性能だから腐らせずに長期で保管できるし、暫くはこの美味い肉で料理作り放題できるぞ!

「ハス君を雇ってから今日でちょうど1ヵ月ですよ。お祝いというか……、ちょっとした労いのつもりです。これからもお願いしますね」

 えっ、祝うようなことでもなくないか? ちょっとした労いでこのレベルって! 逆に怖いぞ!

「いや、そんな。わざわざありがとうございます。こんな美味い肉、初めてです」

 意味が分からない展開だけど、肉を食う手が止まらない。美味すぎるんだよ!

「ふふ。喜んでもらえてよかった……。実はちょっと不安でしたから」

 目を細めてふわっと微笑んだカムロさん。うう、眩しい。1ヵ月で慣れたつもりだっけど、この人の顔の威力は肉の美味さ以上に半端ない!

「ん、んぐっ! と、とんでもない! 凄く嬉しいですっ!」

 肉を喉に詰まらせそうになったよ! 危ない! 

「そうですか。でも、お祝いが肉だけなのも色気がありませんよね。ほかに欲しい物があったら言ってください。頑張ってくれているご褒美に、プレゼントしますから」

 う、うわああ! なんかもうすんごく甘い! 空気が甘い! その顔と声で言われると甘さが爆増するからやめてくれ! 俺をどうしたいんだカムロさあああん!

「お、俺、そんなに大したことしてませんよ。とっ、とりあえず、肉で腹いっぱいですんで、今は何も考えられないかなぁ。ははは……」
「待ってますから、思いついたら言ってくださいね」

 えぇ……。欲しい物、言わなくちゃ駄目なのか? こ、これ以上、何を欲しがればいいんだ! 腹いっぱいどころか、胃もたれ起こしそうな甘さ加減だ。うっぷ。

 あたふたする俺を眺めながら、カムロさんはとてもご満悦な様子だった。



 ……雇い主が俺を全力で甘やかしてくる。どうしたらいいと思う?
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