【完結・加筆修正中】横暴領主が平民狩人の俺に執着してくるんだけど、どうしたらいいと思う?

ゆらり

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24 蜜酒

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 今夜の領主は黒染めの夜着を纏っていた。

 前に見た藍染めの衣よりも白い肌が引き立って見える。手には凝った意匠の貼られた酒瓶と二つの小振りな硝子杯を持っていた。杯を卓上に置いて瓶の栓を抜き、零れる手前まで琥珀色の酒を惜し気もなく注ぐ。

「蜜酒だ。飲むと良い」

 食後そのまま卓に着いて待っていたシタンの目前に置かれた杯から、ふわりと甘い匂いがした。とても香りが強い。普段に飲んでいる物より絶対に美味い酒だ。
 
「……へぇ。あんた、こういう甘いのが好きには見えないけどな」

 冴え冴えとした鋭い目つきをしている男には、辛口の酒が似合いそうだと思った。

「好物ではないのか」
「え、いや、好きだけど……」

「なんで俺が、蜜酒を好きなのが分かったんだよ」と、首を傾げると、領主は薄く笑っただけで無言だった。あらかじめシタンの向かい側に置かれていた椅子に腰を下ろして、さっさと自分の杯に口をつける。

「ふむ。悪くはない味だ」
「なんなんだよ……、教えてくれないのか」
「飲んだ後で教えてやろう」

 どことなく得意気な態度が少し気に食わなかったが、芳醇な匂いに負けて杯を手に取った。軽く含んでみると、濃厚な甘みと強い酒精が口内に広がった。
 
 いつも飲んでいる蜜酒よりも濃くて、とても良い酒だ。コクのある甘味が、たちまち気分を上向けてくれた。

「はぁ……美味いな。凄く甘いし……」
 
 舌の上で転がすと蜂蜜の甘さと酒精がじわりと染み渡り、流れ落ちていく先の喉や胃の腑を甘やかに炙って熱くさせた。

「飲み易い割に、これは酒精が強かだ。飲みすぎるな」
「元々そんなに飲まない」
 
 軽く何口か飲めば終わってしまう深さの杯だが、普段の酒量よりもいくらか多い。舌と唇を湿らせ、ゆっくりと甘味を噛み締めて極上の酒を楽しんだ。

「――いつまで舐めている。夜が明けてしまうぞ」

 シタンがやっと半分ほどを飲んだ辺りで、少し険のある声がした。視線を向けると、領主はとっくに杯を空けていて、雑な音を立ててそれを卓に置いたかと思うと、席から立ち上がって横合いまで寄って来た。

「俺の好きな飲み方なんだよ、良いだろ別に……」
「遅い」
「ひぃっ!」

 すこぶる機嫌が悪そうな低い声に怯えてしまい、杯を落としそうになる。

「寄越せ」

 手元が緩んだ隙に、向かい側からひったくるようにして取られてしまった。

「あっ!」

 取り返そうとするも間に合わず、領主が残った中身を飲み干してしまう。

「なにも取る事ないだろ……。せっかくの美味い酒なのに……」
「いつまでも舐めている貴様が悪い」

 ……なんて言い草だろうか。こいつやっぱりろくでなしだと、シタンは改めて思った。
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