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31 胃袋を掴まれている気が
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居もしない嫁との仲を冷やかされた、その翌日。
シタンは干し肉作りに精を出していた。
前の晩に薄切りにして日保ちの効果がある葉と塩を入れた水へ漬けておいた肉を、竈の上に張った細い縄へせっせと干していく。すべて干し終えた頃には、昼になっていた。
干した物とは別に取り分けておいた肉を焼き、それに使った鍋を洗わずに屑肉と野菜を放り込んで炒めてから汁物を作る。木の器に盛り付けて黒麺麭の薄切りを何枚か添えれば、いつもより少しだけ贅沢な昼餉のできあがりだ。
「良い感じに煮えたな」
脂身のついた屑肉入りの汁物は、少し臭みはあるがこってりとしていて美味い。今まではそういう獣臭い肉の味で満足していたが、城で美味い料理を振る舞われるせいで物足りなさを感じてしまっている。
……たまには魚でも食べたい。ラズと二人で食べた川魚は、いつも美味かった。
「――あ……。最近釣りしてないなぁ」
小川で領主に出くわしてしまった日が、最後だ。
狩りや採取ができなくなる禁猟期までには、まだ日数がある。それとなく知人に聞いてみたが、釣りをしてはいけないというお触れなど出ていない。
またあの男に難癖をつけられるのは嫌だが、対価として慰み者にされているのだから今更だ。どうせ釣れないだろうが、駄目でもともとだ。餌を付けて釣りをしてみよう。
昼餉のあと、寝床の下にある物入れの箱を引っ張り出す。この入れ物には、ラズと再び会えたら贈ろうと手間暇をかけて作った釣竿も入っている。
「ん?」
そして自分用の釣竿も一緒に入っていたはずだが、見当たらない。
「あれ……? 」
最後に釣りをしたのは城に連れて行かれて、強姦された日なのは間違いない。寝室に行く時までは、釣竿を持っていた記憶がある。
「……どこで落としたんだ?」
強引に寝台へ転がされたそのどさくさに、落としてしまったのかもしれない。あんな場所に自分の釣竿が転がっているのを想像すると、なんだか嫌というか、気まずい。
釣りをするたびに、夜のことを思い出してしまいそうだ。もう手遅れな気もするが、少なくとも城にあるのだとすれば探さずにおくわけにはいかない。次に城へ連れて行かれたら、そのときに寝室の中を探せるだろう。
「次……かぁ……」
次があると、当たり前のように思っている自分にげんなりした。
抱かれるのを待ち望んではいない。美味い料理や蜜酒だって、別に楽しみにしてなんかいない。
……絶対にない。……ないと、思うが。
煮込みの柔らかい肉や白麺麭がまた食べられるな……と、一瞬だが思ってしまって、ぶるぶると頭を振る。胃袋を掴まれてどうするのか。どうせなら、嫁に掴まれた方がいい。釣竿を見つけるまでは、釣りはお預けだ。忘れずに探そう。
そう思いながら、引っ張り出した物入れを寝床の下にぐいっと勢いよく押し込んだ。
――それから数日後の、夕暮れ前。
いつものように馬で迎えに来た領主に、城へと連れて行かれた。
シタンは干し肉作りに精を出していた。
前の晩に薄切りにして日保ちの効果がある葉と塩を入れた水へ漬けておいた肉を、竈の上に張った細い縄へせっせと干していく。すべて干し終えた頃には、昼になっていた。
干した物とは別に取り分けておいた肉を焼き、それに使った鍋を洗わずに屑肉と野菜を放り込んで炒めてから汁物を作る。木の器に盛り付けて黒麺麭の薄切りを何枚か添えれば、いつもより少しだけ贅沢な昼餉のできあがりだ。
「良い感じに煮えたな」
脂身のついた屑肉入りの汁物は、少し臭みはあるがこってりとしていて美味い。今まではそういう獣臭い肉の味で満足していたが、城で美味い料理を振る舞われるせいで物足りなさを感じてしまっている。
……たまには魚でも食べたい。ラズと二人で食べた川魚は、いつも美味かった。
「――あ……。最近釣りしてないなぁ」
小川で領主に出くわしてしまった日が、最後だ。
狩りや採取ができなくなる禁猟期までには、まだ日数がある。それとなく知人に聞いてみたが、釣りをしてはいけないというお触れなど出ていない。
またあの男に難癖をつけられるのは嫌だが、対価として慰み者にされているのだから今更だ。どうせ釣れないだろうが、駄目でもともとだ。餌を付けて釣りをしてみよう。
昼餉のあと、寝床の下にある物入れの箱を引っ張り出す。この入れ物には、ラズと再び会えたら贈ろうと手間暇をかけて作った釣竿も入っている。
「ん?」
そして自分用の釣竿も一緒に入っていたはずだが、見当たらない。
「あれ……? 」
最後に釣りをしたのは城に連れて行かれて、強姦された日なのは間違いない。寝室に行く時までは、釣竿を持っていた記憶がある。
「……どこで落としたんだ?」
強引に寝台へ転がされたそのどさくさに、落としてしまったのかもしれない。あんな場所に自分の釣竿が転がっているのを想像すると、なんだか嫌というか、気まずい。
釣りをするたびに、夜のことを思い出してしまいそうだ。もう手遅れな気もするが、少なくとも城にあるのだとすれば探さずにおくわけにはいかない。次に城へ連れて行かれたら、そのときに寝室の中を探せるだろう。
「次……かぁ……」
次があると、当たり前のように思っている自分にげんなりした。
抱かれるのを待ち望んではいない。美味い料理や蜜酒だって、別に楽しみにしてなんかいない。
……絶対にない。……ないと、思うが。
煮込みの柔らかい肉や白麺麭がまた食べられるな……と、一瞬だが思ってしまって、ぶるぶると頭を振る。胃袋を掴まれてどうするのか。どうせなら、嫁に掴まれた方がいい。釣竿を見つけるまでは、釣りはお預けだ。忘れずに探そう。
そう思いながら、引っ張り出した物入れを寝床の下にぐいっと勢いよく押し込んだ。
――それから数日後の、夕暮れ前。
いつものように馬で迎えに来た領主に、城へと連れて行かれた。
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