77 / 110
番外編「とある狩人を愛した、横暴領主の話」
10 拒絶の叫び
しおりを挟む
無情な決断に、心臓が潰れそうなほどに痛んだ。王都へ行くということは、シタンの住まう辺境地から遠く離れなければならないのだ。そんなことは、到底受け入れられはしない。
「――い、嫌です! 行きたくないっ!」
心からの拒絶の叫びは、年相応のあどけない我儘でしかなかった。
駄目だ。これでは父を納得させられはしない。至らなさにこぶしを握り締めて、鋭さを増した眼差しから逃れるために俯いてしまう。
「愚か者が。その愚かさは、いずれお前が背負う多くの民を、苦しめる禍根ともなろう。やはり相応の罰を与えねば目が覚めぬか」
どう言葉を返そうと、もはや父の考えは変わらなかっただろう。だが、単なる我儘でしかない叫びは、明らかに悪手だった。
「お前が懇意にしている狩人の一家に、伯爵家の子息を誑かした罪人として罰を与える」
「何故ですかっ! あの人達はなにも悪くないっ! 罰なら、全部僕が! 僕が受けます!」
父の上衣を渾身の力を込めて掴み、揺さぶりながら訴える。
こんな罰があってはならない。あの温かく優しい家族が不幸になることなど、到底受け入れられはしない。父に対する畏怖も忘れ、ラズラウディアは「僕が全部悪いのです!」と、あらん限りの大声をあげて叫んだ。
「取り乱すでないわ」
静かな声と共に掴んでいた手を引き剥がされ、頬に鋭い痛みが走った。
「ぐっ!」
頬を打たれた衝撃に視界が揺れ、足元がふらつく。耐え切れず絨毯の上に身を投げ出したラズラウディアに無慈悲な言葉が降り注いだ。
「罰とは、罪を犯した者だけに下されるものではない。時として、罪を犯させるに至らしめた者にもまた、下されるものだ。そこに悪意があろうとなかろうとな。覚えておくが良い」
あまりにも理不尽な言葉に、カッと全身が燃え上がるような激しい怒りと憎しみが湧き上がる。歯を食いしばって立ち上がり、あらん限りの殺意を込めて父を睨んだ。
「ほう。その様な目をする気概があったか」
何が琴線に触れたのか、父は面白げに目を細めた。
「それほどに大事か。良かろう。お前のその気概に免じて、私の命に従うのならば、あの者らに罰を与えはしないことにしてやろう。……今日だけは会う事を許す。早々に別れを告げてくるが良い」
「わかり、ました……」
用件は済んだと言わんばかりに、机へ戻り他の書類に目を通し始めた父に背を向けて、ラズラウディアは足早に私室を出た。
「――い、嫌です! 行きたくないっ!」
心からの拒絶の叫びは、年相応のあどけない我儘でしかなかった。
駄目だ。これでは父を納得させられはしない。至らなさにこぶしを握り締めて、鋭さを増した眼差しから逃れるために俯いてしまう。
「愚か者が。その愚かさは、いずれお前が背負う多くの民を、苦しめる禍根ともなろう。やはり相応の罰を与えねば目が覚めぬか」
どう言葉を返そうと、もはや父の考えは変わらなかっただろう。だが、単なる我儘でしかない叫びは、明らかに悪手だった。
「お前が懇意にしている狩人の一家に、伯爵家の子息を誑かした罪人として罰を与える」
「何故ですかっ! あの人達はなにも悪くないっ! 罰なら、全部僕が! 僕が受けます!」
父の上衣を渾身の力を込めて掴み、揺さぶりながら訴える。
こんな罰があってはならない。あの温かく優しい家族が不幸になることなど、到底受け入れられはしない。父に対する畏怖も忘れ、ラズラウディアは「僕が全部悪いのです!」と、あらん限りの大声をあげて叫んだ。
「取り乱すでないわ」
静かな声と共に掴んでいた手を引き剥がされ、頬に鋭い痛みが走った。
「ぐっ!」
頬を打たれた衝撃に視界が揺れ、足元がふらつく。耐え切れず絨毯の上に身を投げ出したラズラウディアに無慈悲な言葉が降り注いだ。
「罰とは、罪を犯した者だけに下されるものではない。時として、罪を犯させるに至らしめた者にもまた、下されるものだ。そこに悪意があろうとなかろうとな。覚えておくが良い」
あまりにも理不尽な言葉に、カッと全身が燃え上がるような激しい怒りと憎しみが湧き上がる。歯を食いしばって立ち上がり、あらん限りの殺意を込めて父を睨んだ。
「ほう。その様な目をする気概があったか」
何が琴線に触れたのか、父は面白げに目を細めた。
「それほどに大事か。良かろう。お前のその気概に免じて、私の命に従うのならば、あの者らに罰を与えはしないことにしてやろう。……今日だけは会う事を許す。早々に別れを告げてくるが良い」
「わかり、ました……」
用件は済んだと言わんばかりに、机へ戻り他の書類に目を通し始めた父に背を向けて、ラズラウディアは足早に私室を出た。
0
あなたにおすすめの小説
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています
不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です
新川はじめ
BL
国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。
フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。
生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
カワウソの僕、異世界を無双する
コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
本編完結いたしました♡コツメたん!無双おめでとう㊗️引き続きの番外編も完結しました💕
いつも読んでいただきありがとうございます♡ ほのぼのとワクワク、そしてコツメたんの無双ぶりを楽しんで下さい!
お気に入り1200越えました(new)❣️コツメたんの虜になった方がこんなにも!ʕ•ᴥ•ʔキュー♡
★★★カワウソでもあり、人間でもある『僕』が飼い主を踏み台に、いえ、可愛がられながら、この異世界を無双していく物語。
カワウソは可愛いけどね、自分がそうなるとか思わないでしょ。気づいたらコツメカワウソとして水辺で生きていた僕が、ある日捕まってしまった。僕はチャームポイントの小さなお手てとぽっこりお腹を見せつけながら、この状況を乗り越える!僕は可愛い飼い主のお兄さん気分で、気ままな生活を満喫するつもりだよ?ドキドキワクワクの毎日の始まり!
BLランキング最高位16位♡
なろうムーンで日間連載中BLランキング2位♡週間連載中BLランキング5位♡
イラスト*榮木キサ様
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる