【完結・加筆修正中】横暴領主が平民狩人の俺に執着してくるんだけど、どうしたらいいと思う?

ゆらり

文字の大きさ
79 / 110
番外編「とある狩人を愛した、横暴領主の話」

12 抱擁と口付け

しおりを挟む
「絶対、また会いに来るからな。僕のこと、忘れるなよ」

 悲しみと幸せが溢れて、涙となって瞳から零れ落ちてしまう。シタンはその涙を目にしておろおろと慌てた顔をして両手で頬を包み込み、親指の腹で涙を何度も拭ってきた。

「なっ、泣くなよ! 俺まで、な、泣いちゃうだろっ!」

 そう叫ぶシタンの瞳からも、涙が大粒の雨のように零れた。人に泣くなと言いながら、自分が泣いてしまっている様子がおかしくて、思わず声を上げて笑ってしまった。

「あはは! お前まで泣くなよ!」
「だ、だって、お前が……っ、泣く、からっ……ひっ、く……!」

 泣きじゃくる姿が愛おしくて、たまらない。

 身を伸び上がらせて頬に唇を押し付けると、シタンがその蜂蜜色の瞳を丸く見開いて「お、お前……なにすんだよ……っ」と、怒りとも驚きとも取れる声を上げた。

 ――やはり男の自分では、嫌なのだろうか。

「嫌だったか?」 

 拒絶される恐怖に苛まれながらも問い掛けると、彼はうっと声を詰まらせて目を泳がせる。

 そこには嫌悪の色はなく、もしかしたら、という期待が生まれる。固唾を飲んで答えを待っていると、少しの間をおいて「――い、嫌じゃなかった」と、頬を赤くしながら小さな声でシタンは言った。

「こういうこと言うと怒るかもしんないけど、ラズが女の子なら、お嫁さんになってくれって言たと思う。お前より可愛くて、一緒にいて楽しい奴なんていないし」

 抱き締める腕の力は弱まらず、深くため息をつき恍惚とした面持ちで彼は告げる。「女の子なら」という前置きには落胆したものの、シタンにとってラズラウディアが特別だということは間違いないのだと分かる言葉に胸が熱くなった。

「お前の方こそ女の子なら良かったんだ! なんか鈍くさくて心配だから、僕が嫁に貰って守る!」
「そうかも。でもそれでも良いかなぁ。一緒に居られるのは同じだし」

 嬉しさ反面、照れ臭くなってしまい、きつい言葉を返してしまった。だが、シタンはこれ以上ないほどに顔を緩めて嬉しそうに笑ってくれている。一緒にいたいと思っているのは自分だけではなく、同じ願いを持ってくれているのだ。

 甘やかな幸せが胸の中を満たして、シタンに対する強い愛情の念がラズラウディアの中に宿った瞬間だった。今は別れなければならないが、いつか父を超える立派な領主になったとき、必ずシタンに会いに来る。ラズラウディアは自身の心に強く誓った。

「またな、シタン!」
「うん!」

 温かいシタンの腕から抜け出して、振り返らずに駆け出す。小川を遠く離れたころに、悲痛な泣き声が聞こえた気がしたが、歯を食いしばり涙を堪えて城までの小道をひたすら走り続けたのだった。
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

カワウソの僕、異世界を無双する

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
本編完結いたしました♡コツメたん!無双おめでとう㊗️引き続きの番外編も完結しました💕 いつも読んでいただきありがとうございます♡ ほのぼのとワクワク、そしてコツメたんの無双ぶりを楽しんで下さい! お気に入り1200越えました(new)❣️コツメたんの虜になった方がこんなにも!ʕ•ᴥ•ʔキュー♡ ★★★カワウソでもあり、人間でもある『僕』が飼い主を踏み台に、いえ、可愛がられながら、この異世界を無双していく物語。 カワウソは可愛いけどね、自分がそうなるとか思わないでしょ。気づいたらコツメカワウソとして水辺で生きていた僕が、ある日捕まってしまった。僕はチャームポイントの小さなお手てとぽっこりお腹を見せつけながら、この状況を乗り越える!僕は可愛い飼い主のお兄さん気分で、気ままな生活を満喫するつもりだよ?ドキドキワクワクの毎日の始まり! BLランキング最高位16位♡ なろうムーンで日間連載中BLランキング2位♡週間連載中BLランキング5位♡ イラスト*榮木キサ様

処理中です...