【完結】赤痣の闘士は、好きになった彼が王弟殿下だと知らなかった

ゆらり

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本編

1  赤痣の闘士

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 ――黄金色の髪を持つ優れた王が治める、とある国には賭博闘技場というものがあった。


 文字通り闘いを賭けの対象とする場だ。出自を問わず腕の立つ者が、闘士となれる実力主義の世界。民にとっては身近な娯楽であり、力を持て余す強者達の受け皿でもある。

 数多の闘士が火花を散らす舞台の上で、勝ち星を重ねる者にはやがて二つ名がつく。ここ数年で有名なところでは、『顔隠し』『猛進』『剣舞』といった名が挙がる。

 そういった二つ名持ちの一人であり現在は引退して雑貨屋を営む父と、行商人の娘であった母の間に生まれた、リィという名の少年が王都の下町に住んでいた。

 ――彼の顔には、赤いあざがあった。

 血の色をした歪で大きな痣が、左側の額から顎下に至るまでの半面を覆っていて、それは赤子の時期を過ぎても、消えることも薄れることもなかった。

 褐色の肌が特徴であるこの国の民とは違い、白い肌を持つ異国生まれの美しい母の血を継いで薄い色味の肌を持ち、面差しも彼女に似て小奇麗に整っていたばかりに、殊更に痣の存在が際立ってしまった。

「おばけ!」
「こっちにくるなよ! 痣がうつる!」

 近所の同年代の子供達に日々気味悪がられ、容赦のない言葉を浴びせられた。

 背が低く華奢な体つきをしていたリィは非力で、いじめの格好の標的にされ頻繁に泣かされていた。友人と呼べる存在など到底得られず、読み書きを覚えるためにと通わされていた学び舎でも、いつも独りだった。
 
 道ですれ違っただけの見知らぬ者に、汚らしい子供だと嘲笑われたりもした。周囲の誰も彼もが悪意を向けていたのではないにせよ、幼い少年が深く傷心し、自らの容姿や他人を嫌悪するのに足りる仕打ちを受けたのは間違いのない事実だった。

「こんな痣もうやだ!」

 濃い緑の瞳に涙を滲ませて叫んだリィに、両親は彼らなりの方法で向き合った。父は相手が泣くまでやり返してやれと発破をかけて、仕事の合間に遊びがてら剣術や体術を教え込んだ。母はいじめられて帰って来ては歯を食い食い縛り泣くのを堪える彼を、強く抱き締めて励ました。

 そんなふうに単に優しいだけではない深い愛情を注がれて育ったリィは、やがていじめを加えてくる子供らを退けられる強さを身に付けていった。

 大男とまではいかないが低かった背もそこそこの丈になり、華奢だった体は細身ながらもしなやかな強靭さが備わった男らしい体つきへと変わった。

 その結果、本来は繊細で優しい気質であったはずが次第に粗暴な言動を取り始め、剣呑で近寄り難い空気をまとうようになっていく。


 ――経緯はどうあれ強く勇猛な若者に育ったリィは、父親の勧めもあって成人になり切らぬ頃にすぐ試験を受けて闘士になった。そして、大きな怪我をすることもなく順調に勝ち星を稼いだ結果、数年で二つ名を得た。


 『赤痣』


 それが彼の二つ名だった。

 幼い頃からの足枷あしかせであった醜い痣が、闘士としての強さの証である二つ名の元になったのは何とも皮肉な話だ。しかし、痣を持って生まれなければ闘士になることすらなかっただろう。

 二つ名を得られた日。

 それを祝ってくれた両親の前で、リィは誇らし気な笑みを浮かべた。

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