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本編
2 空色の瞳
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――二つ名持ちとなってから、ひと月ほどが過ぎたある日。
試合を終えた後の昼時、リィは空腹を満たそうと馴染みの飯屋へ向かう裏路地を歩いていた。
「わっ、やめて! ちょ、いたっ! 誰かっ!」
いまいち緊張感に欠けるが、どうやら必死らしい悲鳴混じりの叫び声が聞こえて路地の奥を見ると、柄の悪い若者二人に身形の良い長躯の青年が襲われている姿があった。
「うるせぇよ。大人しくしなっ!」
「ぐっ!」
腹に拳を喰らってよろめき壁に強かに背中をぶつけた青年は、路地の湿った石畳に倒れ込んでしまう。若者らは、身じろぎすらしなくなり抵抗の止んだ青年の上衣をまさぐって財布を取り出し、中身を引き抜いた。
「へっ。たんまり持ってやがるな。ムカつく……」
空になった財布を青年の体に叩き付けて、下品な笑い声を響かせながら若者の一人が強かに蹴りを入れるのを見て、リィは顔をしかめた。
富裕層も行き来する王都中央通りとは違い、下町の裏路地などはどうしても治安が悪い。いかにも金を持っていそうな見目の余所者が、不用意に足を踏み入れる方がどうかしているのだ。
……とはいえど、誰かが理不尽に暴力を振われているのは気分が悪い。幼い頃に自分が与えられた辛い痛みと屈辱を思い出し、胃の腑の奥が重くなる。
「オイ! つまんねぇ真似してんじゃねぇぞテメェら!」
こんな屑どもの好きにはさせない。
腹の底に力を入れ、険を孕んだ低い声を裏路地に響き渡らせる。すると若者らは弾かれたように飛び上がり、下劣な笑みを浮かべていた顔はリィの姿を見た途端、無様に引き攣った。
「げっ! 赤痣!」
「とっとと行けクソガキども! 捻り潰すぞ!」
二つ名を叫ばれた瞬間に犬歯をむき出しにし、威嚇しながら腕を振るって追い払う仕草をすれば、彼らは転がらんばかりの勢いで逃げ出していった。
「ったく、下手に名が売れるのもうざいな……」
顔に掛かる焦げ茶の髪を乱雑にかき上げてぼやきながら、その場に残された青年へと濃い緑色をした瞳を向ける。幾度も蹴られたのが効いたのか、路地に横たわったまま動く気配がない。
「おいアンタ、大丈夫か?」
目の前にしゃがみ込んで肩を揺するが、弛緩した体はされるがままだ。瞳は固く閉じられていて、明るめの色をした赤毛に縁取られた甘く端正な顔が苦痛に歪んでいる。打ち所が悪かったのかと心配になりながらも、思わず最初よりも強く肩を揺すると長い睫毛が小刻みに震えた。
「うっ……」
呻き声と共に薄く開いた瞳は、綺麗な空色だった。鮮やかに澄んだ不思議なまでに美しい色合いに、一瞬にして心を奪われる。
「ひっ! うわぁっ!」
ところが、その瞳は光を取り戻すと同時に怯えの色を宿して大きく見開かれ、形の良い唇から情けない悲鳴が上がった。
試合を終えた後の昼時、リィは空腹を満たそうと馴染みの飯屋へ向かう裏路地を歩いていた。
「わっ、やめて! ちょ、いたっ! 誰かっ!」
いまいち緊張感に欠けるが、どうやら必死らしい悲鳴混じりの叫び声が聞こえて路地の奥を見ると、柄の悪い若者二人に身形の良い長躯の青年が襲われている姿があった。
「うるせぇよ。大人しくしなっ!」
「ぐっ!」
腹に拳を喰らってよろめき壁に強かに背中をぶつけた青年は、路地の湿った石畳に倒れ込んでしまう。若者らは、身じろぎすらしなくなり抵抗の止んだ青年の上衣をまさぐって財布を取り出し、中身を引き抜いた。
「へっ。たんまり持ってやがるな。ムカつく……」
空になった財布を青年の体に叩き付けて、下品な笑い声を響かせながら若者の一人が強かに蹴りを入れるのを見て、リィは顔をしかめた。
富裕層も行き来する王都中央通りとは違い、下町の裏路地などはどうしても治安が悪い。いかにも金を持っていそうな見目の余所者が、不用意に足を踏み入れる方がどうかしているのだ。
……とはいえど、誰かが理不尽に暴力を振われているのは気分が悪い。幼い頃に自分が与えられた辛い痛みと屈辱を思い出し、胃の腑の奥が重くなる。
「オイ! つまんねぇ真似してんじゃねぇぞテメェら!」
こんな屑どもの好きにはさせない。
腹の底に力を入れ、険を孕んだ低い声を裏路地に響き渡らせる。すると若者らは弾かれたように飛び上がり、下劣な笑みを浮かべていた顔はリィの姿を見た途端、無様に引き攣った。
「げっ! 赤痣!」
「とっとと行けクソガキども! 捻り潰すぞ!」
二つ名を叫ばれた瞬間に犬歯をむき出しにし、威嚇しながら腕を振るって追い払う仕草をすれば、彼らは転がらんばかりの勢いで逃げ出していった。
「ったく、下手に名が売れるのもうざいな……」
顔に掛かる焦げ茶の髪を乱雑にかき上げてぼやきながら、その場に残された青年へと濃い緑色をした瞳を向ける。幾度も蹴られたのが効いたのか、路地に横たわったまま動く気配がない。
「おいアンタ、大丈夫か?」
目の前にしゃがみ込んで肩を揺するが、弛緩した体はされるがままだ。瞳は固く閉じられていて、明るめの色をした赤毛に縁取られた甘く端正な顔が苦痛に歪んでいる。打ち所が悪かったのかと心配になりながらも、思わず最初よりも強く肩を揺すると長い睫毛が小刻みに震えた。
「うっ……」
呻き声と共に薄く開いた瞳は、綺麗な空色だった。鮮やかに澄んだ不思議なまでに美しい色合いに、一瞬にして心を奪われる。
「ひっ! うわぁっ!」
ところが、その瞳は光を取り戻すと同時に怯えの色を宿して大きく見開かれ、形の良い唇から情けない悲鳴が上がった。
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