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本編
4 銀の首飾り
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「さっきの子達を追い払ってくれた君が一緒なら、絶対襲われなさそうだもの。一人歩きは心細いし……。街の中央通りに出るまでで良いから! あ、今日はさすがに無理だけれども、このお礼は後日にしっかりさせて貰うよ」
切々と言い募られ、「胆が小せぇにもほどがあるだろ……」と、唸るリィの眼前で、青年がゆっくりと襟元を開いて中から何かを取り出した。
「――これを君に預けるよ」
差し出されたそれは、薄暗い路地であっても目立つ輝きを放つ銀の首飾りだった。
「明後日の夕刻に会えるかな。これを見せれば入れる様に店の人には言っておくから」
巷で有名な料理店の名前を告げて、リィの手に握らせてくる。
「おい、こんなもん渡されても困るぜ」
厚みのある銀の土台に、輝石を埋め込んだ緻密な細工で紋章が表されている。どこの紋章かは判らなかったが、青年の身分が下町育ちの自分とは相当に違うのだということだけは知れた。
「まあまあ、遠慮しないで。御馳走するから絶対来てね! あ、僕のことはシアって呼んで。君は闘士だよね。赤痣っていう二つ名持ちの子でしょ? 試合を観た事があるよ!」
「……ああ」
リィは片手で痣を撫でながら不愛想に返事をしたが、シアと名乗った青年はそれを気にした様子もなく「わあ! やっぱりそうなんだ! 君がリィなんだね!」と、感嘆の声を上げながら瞳を輝かせる。
「僕、武術は得意じゃないけれど、観る方は大好きなんだよ。リィはつい最近二つ名持ちになったのだよね。新人の闘士に助けて貰えたなんて、嬉しいなぁ! 此処まで足を延ばした甲斐があったよ!」
やたらと嬉しそうだ。口が悪く粗雑なリィのあしらいにめげず、非常に良く喋る。それに、歳の頃はやっと成人に達したばかりのリィよりも恐らく上で、いい大人と言える年齢だろうに子供じみたはしゃぎ方が不思議と良く似合っていた。
彼の言動は、眩し過ぎるものだった。
家族を除けば、こうも真っすぐな好意を向けられた記憶がないのだ。二つ名が付いた時に少しばかり周囲の見る目が変わったが、奇異の目を向けられる方が今だ多い。
「これ返すわ。礼なんざいらねぇ」
初めての他人からの手放しの好意にあてられ、気恥ずかしさを感じ投げやりに首飾りを返そうとすれば、シアがその手を強く握って悲しそうに眉根を寄せる。
「そんな事言わないでよ! 助けて貰えて嬉しかったし、また君と会いたい。駄目かな?」
「……うっ、それは……」
余りにも悲し気な表情で見詰められ、罪悪感に駆られて視線を下に落とすと、薄い色をした己の手を包み込む大きな手が目に入った。
艶よく肌理の整った褐色の肌に覆われ、節くれだったところのない美しい形をした手。何不自由ない暮らしをしている人間だと判る肌の感触は、鍛錬で硬くなり荒れている闘士の手とは真逆で随分と柔らかく滑らかだった。
――綺麗な手だ。触られていると気持ちが良い。自分からも触ってみたい……。
彼の滑らかな肌を無意識に楽しみながら、ぼんやりとそう思った自分に気付いて愕然とした。
切々と言い募られ、「胆が小せぇにもほどがあるだろ……」と、唸るリィの眼前で、青年がゆっくりと襟元を開いて中から何かを取り出した。
「――これを君に預けるよ」
差し出されたそれは、薄暗い路地であっても目立つ輝きを放つ銀の首飾りだった。
「明後日の夕刻に会えるかな。これを見せれば入れる様に店の人には言っておくから」
巷で有名な料理店の名前を告げて、リィの手に握らせてくる。
「おい、こんなもん渡されても困るぜ」
厚みのある銀の土台に、輝石を埋め込んだ緻密な細工で紋章が表されている。どこの紋章かは判らなかったが、青年の身分が下町育ちの自分とは相当に違うのだということだけは知れた。
「まあまあ、遠慮しないで。御馳走するから絶対来てね! あ、僕のことはシアって呼んで。君は闘士だよね。赤痣っていう二つ名持ちの子でしょ? 試合を観た事があるよ!」
「……ああ」
リィは片手で痣を撫でながら不愛想に返事をしたが、シアと名乗った青年はそれを気にした様子もなく「わあ! やっぱりそうなんだ! 君がリィなんだね!」と、感嘆の声を上げながら瞳を輝かせる。
「僕、武術は得意じゃないけれど、観る方は大好きなんだよ。リィはつい最近二つ名持ちになったのだよね。新人の闘士に助けて貰えたなんて、嬉しいなぁ! 此処まで足を延ばした甲斐があったよ!」
やたらと嬉しそうだ。口が悪く粗雑なリィのあしらいにめげず、非常に良く喋る。それに、歳の頃はやっと成人に達したばかりのリィよりも恐らく上で、いい大人と言える年齢だろうに子供じみたはしゃぎ方が不思議と良く似合っていた。
彼の言動は、眩し過ぎるものだった。
家族を除けば、こうも真っすぐな好意を向けられた記憶がないのだ。二つ名が付いた時に少しばかり周囲の見る目が変わったが、奇異の目を向けられる方が今だ多い。
「これ返すわ。礼なんざいらねぇ」
初めての他人からの手放しの好意にあてられ、気恥ずかしさを感じ投げやりに首飾りを返そうとすれば、シアがその手を強く握って悲しそうに眉根を寄せる。
「そんな事言わないでよ! 助けて貰えて嬉しかったし、また君と会いたい。駄目かな?」
「……うっ、それは……」
余りにも悲し気な表情で見詰められ、罪悪感に駆られて視線を下に落とすと、薄い色をした己の手を包み込む大きな手が目に入った。
艶よく肌理の整った褐色の肌に覆われ、節くれだったところのない美しい形をした手。何不自由ない暮らしをしている人間だと判る肌の感触は、鍛錬で硬くなり荒れている闘士の手とは真逆で随分と柔らかく滑らかだった。
――綺麗な手だ。触られていると気持ちが良い。自分からも触ってみたい……。
彼の滑らかな肌を無意識に楽しみながら、ぼんやりとそう思った自分に気付いて愕然とした。
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