【完結】赤痣の闘士は、好きになった彼が王弟殿下だと知らなかった

ゆらり

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本編

58 昼飯あとのひと騒動

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――食事を終えて店を出て路を歩いていると、背後から忙しない足音が近付いてきた。

「おい待て!」

 呼び止める男の声に振り向くより先に、リィは横を歩くイグルシアスの腕を取って引き寄せて、流れるような動きで背に庇う。

「――なんだテメェか」

 油断なく身構えて鋭い目つきで睨み据えた先には、酷く慌てた表情の好敵手が立っていた。

「リィ、お前やっぱりその男と会っていたのか。止めておけと言っただろう」
「あぁ? 余計な世話だっ! 何様だテメェはっ! なんでここにいる!」
「お前達が出てきた店は俺の行きつけだ」
「知るかっ! 追ってくんじゃねぇよバカがっ!」
「おや。誰かと思えばあの子の家のお抱え闘士だね。君のお友達なのかい?」

 見当違いな質問に、リィは勢い良く振り返ってきつく睨み上げる。

「違うっ! どこをどう見たらダチに見えるってんだよ!」
「そうなの? 仲が良さそうに見えたものだか少し嫉妬してしまったよ。そんなに怒らないで」

 苦笑しながらリィの頭を優しく撫でて、痣へと指を滑らせてきた。

「はぁ? し、嫉妬って、なんだよ、それ……」

 思わぬ言葉に勢いを削がれて、語尾が尻すぼみになっていく。

「ふふ。こんなことで嫉妬をしていては、君に愛想を尽かされてしまうかな」
「あ、愛想尽かしたりなんかしねぇし!」
「それなら良いけれど」

 慌てるリィの頭を何度も撫でながら好敵手の方へ視線を向けて、常日頃浮かべている温和なそれは違うニンマリとした質の悪そうな笑みを浮かべたかと思うと、焦げ茶色の髪を梳いて額にちゅっと音を立てて口付けを落とす。

 好敵手がうわあぁっ! と驚愕した悲鳴混じりの大声を上げるのが聞こえた。

「アンタほんっとに堪え性がねぇな! こんな時にすんなバカ!」
「あははは! だって、リィったら慌てちゃって可愛かったんだもの」
「いい加減にしろよコラァ!」

 顔を真っ赤にして胸倉を掴み上げ怒鳴るが、イグルシアスは緩い笑みを浮かべるばかりだ。

「そんな軽薄な男の何処が良いんだ! どうせ弄ばれて捨てられるのがオチだぞ!」

 ――という、悪し様な言葉が飛んできた瞬間、リィは胸倉を掴み上げていた手を離し振り返った。

「……今、なんて言いやがった……? ふざけた口叩きやがると勘弁しねぇぞ!」
「い、いや、その、なんというか、だな……」

 犬歯を剥き出しにして眉間ばかりでなく鼻の上にも皺を寄せた凄まじい形相と、底冷えのする様な低い声。普段はリィの粗暴な言動に動じない好敵手が、その迫力に顔を引き攣らせて言葉を詰まらせた。
 
「嫌だなぁ。僕はリィを捨てたりなんかしないよ」

 ガラリと変わった場の空気に動じず、イグルシアスは呑気に笑いながらリィの身体を背後から抱きすくめた。親密さを見せ付けているとしか思えないその動作に、好敵手がぐぬうっと悔し気に唸る。

「アンタは黙っていてくれ」
「え、でも僕がリィを弄ぼうとしているみたいに見られてる様だし、言い返して良いのではないかな」
「いいから、下がってろ。コイツは俺がる」

 イグルシアスの胸板を肘で後ろに押しやって、腕の中から抜け出す。

「よっぽど痛ぇ目に遭いてぇんだなテメェはっ!」

 咆哮と言っても良い怒声を上げて、疾風の勢いでリィは好敵手に突っ込んだ。
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