【完結】赤痣の闘士は、好きになった彼が王弟殿下だと知らなかった

ゆらり

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番外編

リィの変装①

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 ――リィがイグルシアスのお抱え闘士となって間もない頃。

 王弟殿下であり公爵であるイグルシアス付きの闘士となってから、リィの名声は更に高まった。もとより目立つ容姿のため、街を歩けばちょっとした騒ぎになることもしばしば。

 他人から不躾な視線を向けられたり、無遠慮に話し掛けられることも多くなり、下町の飯屋などに行って気楽に食事をすることなど到底できなくなってしまった。

「……前みたいに、アンタと飯食いに行きてぇな」
「うーん。僕も同じ気持ちだけど、ほんと、難しくなってしまったね」

 とある日の執務室にて、休憩と称してリィの膝を枕に長椅子で横になっていたイグルシアスが、「そうだ! いい方法があるよ!」と言って勢い良く身を起こす。

「別人になってみようよ」
「は?」

 輝くような笑顔でそう言ったイグルシアスに、リィは訝し気な顔になる。

「僕が変装して出歩くみたいに、君も変装すればいい」
「そんなのできるのかよ。こんな顔、隠せねぇだろ」

 髪色を変えるならまだしも顔にある大きな赤痣は隠せない。これがあるために自分から名乗らずともリィが何者であるかが丸わかりになってしまう。隠すとなると覆面でもしなければ無理だろう。それこそ逆に目立つのではないのか。

「心配ないよ。あてはあるから」
「本当に大丈夫かよ」
「凄腕だから大丈夫。きっと驚くよ」


 ――それから数日が過ぎた頃。イグルシアスは屋敷に一人の婦人を連れて来た。

「初めまして。わたくし、国王陛下直属の侍女長ベルセニアと申します。イグルシアス様のご要望により、リィ様に変装を施させて頂くために参りました」

 きりっとした表情に背筋の伸びた隙のない佇まいと、堂々たる口調はさすが王宮勤めという雰囲気がある。程よく彫が深く整った顔立ちではあるが、化粧っ気がなく簡素な装いであるからか地味な印象を受けた。これといった目立つ特徴のない女性だ。

「は、初めまして……」

 さすがのリィも粗雑な口調は憚られた様子で、おずおずと会釈をして大人しく挨拶の言葉を返す。

「リィ、ちょっと緊張してる? ベルはこう見えて愉快な侍女だから気楽にしていいよ」と、笑いながらイグルシアスが彼の頭を撫でる。

「撫でるな! 緊張なんかしてねぇし!」
「そう? それならいいけれども。かしこまった君も、可愛いよ」

 頭から手をはたき落として、ぎろりと睨み上げるリィの額にイグルシアスは口付けを落とす。

「やっ、やめろぉ! 場を選べって言ってんだろバカ!」
「ふふ。ベルは優秀な侍女だから、このくらい見て見ぬふりをするのは慣れているよ」
「意味わかんねぇし!」

 わしわしと頭を撫でる手を跳ねのけて「撫でるなって言ってんだろが!」と、吠えるリィに「可愛い!」と、イグルシアスが怒鳴られたのにも関わらずだらしなく顔を緩ませて抱き付く。

「バカ! アンタほんとにバカだなっ! 締めるぞ!」

 素早く首に腕を回し、リィは悪ふざけの過ぎるイグルシアスに仕置きを施す。
 
「ちょ、半分本気出すの止めて! 首、ほんとに締まっ……ぐぅ!」

「――ほほほ。仲睦まじいですね」という、ベルセニアの言葉でじゃれ合っていた二人の動きがぴたりと止まる。

 彼らが揃って視線を向けた先には、指先で上品に口元を隠して笑うベルセニアの姿があった。
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