【完結】赤痣の闘士は、好きになった彼が王弟殿下だと知らなかった

ゆらり

文字の大きさ
84 / 91
番外編

痣に触れるその理由※

しおりを挟む
 ――イグルシアスは、リィの顔にある赤い痣になぜかよく触れる。

 甘えてじゃれついてくるとき、出張に行く前などの別れ際、そして行為の最中でも……むしろそのときは必ずといっていいほどに触れる。

 指先で、手のひらで、それから唇で。愛し気な眼差しと共に、痣に触れるのだ。



 ――とある年、彼の公務が立て込んで、出張や王宮での泊まり込みが続いた月があった。

 多忙の山場を乗り越えて、二人きりの時間が久々に取れた日の行為は、どちらからともなく、奪い合うようにして始まった。いつになく長くなったそれは、会えなかった時間を取り戻すように、睦まじくも激しいものだった。

「――あっ……あぁ……っ」

 イグルシアスの腕の中で、彼の自身に奥まで貫かれ大きく揺さぶられながら、リィはか細い声で鳴いた。上気し色づいた肌と雨を浴びたような汗が、長時間に渡る行為の激しさを物語っていた。

「あ、あ……んっ! ……はぁっ、はぁっ、あぁっ、はっ……、あうっ、はあぁっ……!」

 中を擦られる刺激によって小刻みに震えながら、空気を求めて大きく胸を反らし、喘ぎ混じりの荒い呼吸を繰り返す。

「んっ、……はぁっ、も……、この辺で、止しておこう。疲れたでしょ……?」

 指先で左頬の痣を何度も撫でるイグルシアスの肌もまた、同じく大量の汗で濡れている。リィの後孔に納められた彼の自身は、まだ熱く脈打っていて硬さを失っていない。

「はっ、あっ、やだ! アンタだって、満足してねぇだろ……っ!」 

 快楽に溶けてぼやけた意識の中で、リィは退こうとする長躯に肢体を絡ませてしがみ付き首筋に頬をすり寄せた。

「そんな可愛いことをしないで! 壊してしまいそうだよ!」
「うぁ……! あっ、やあっ……!」

 大きさを増した自身で内壁を容赦なく抉られて、同時に前も愛撫され、乱れたシーツの上で細身が大きく跳ねた。半ばまで引き抜かれては挿し込まれ、掻き回される度に卑猥な水音が響き、既に何度も注がれていた精が結合部の狭間から溢れて、とろりとシーツに滴っていく。

「んっ! んぁ、あ、あっ」
「奥、入れるからね……!」
「う、ああっ!」

 突き上げは更に力強さを増して、最後には脚を大きく開かれ、奥の秘められた場所を何度も攻め上げられた。止め処ない快感に、艶のある甘い鳴き声が勝手に口から零れて寝室に響いた。

「ひっ! あうぅっ! あぁ、んああぁっ……!」

 深く激しく愛されて高みへと追い込まれた末に、体を強張らせて絶頂を極める。

「――んんっ、くっ……!」 
「はあぁっ、あぁ……っ! んぅ……。ふぁ……ん……っ」

 唇への軽い口付けを受け止めながら、深い部分にこれでもかと注がれる精の熱さに腰を小刻みに震わせた。

「ああ、幸せ……」

 蕩けた甘い声で呟いて、イグルシアスが痣にも口付けを落とす。


 ――身体を繋げたまま口付けを幾度も交わして余韻に浸り、息が整い始めた頃……。

 リィはふと、日頃から疑問に思っていたことを口にした。

「――なぁ、なんで……、アンタは俺の痣に触るんだ?」
「ん? だって、リィの痣だもの」

 色っぽい笑みと共に返された言葉は、まるで答えになっていなかった。  

「あ? 意味わかんねぇし」

 眉間に皺を寄せて、苛立ちを声に滲ませながら自分の中にある物をきつく締め上げる。

「うっ! ちょ、まって……! 痛っ……!」
「……ふざけてねぇで、んっ、はぁ……っ、俺に分かるようにっ、んぁ、言えよ……っ」

 締め上げる力は緩めずに腰を揺らして嬲ると、イグルシアスは涙目になって震えた。

「あうっ! あっ、ダメ……! 千切れちゃうよ……っ!」 
「……んんっ、……そうなったら、俺が…、アンタを抱けば良いよな?」
「ひぃっ! 嬉しそうに言うのやめて!」
「くくっ、そんな顔すんな」

 あまりの怯えぶりに思わず笑いながら体の力を抜いて背中を撫でてやると、心底ほっとした溜息と共に腰を引いてリィの中からゆっくりと自身を引き抜いていく。

「あ……、んぁ……っ」
「……はぁっ。怖い脅し方しないで……! ちゃんと答えるから、まずは浴室に行こうね」

 寝台から身を起こして夜着を羽織ると、いつも通りに上掛けでリィの身体を包み込んでよいしょと抱き上げた。


 ――浴室で後始末を終えて戻った寝台の上で、褐色の腕に抱き締められる。後始末をしている間に誰かの手で寝台は整えられていて、清潔なシーツが綺麗に汗を流した肌に心地良い。

「ふぁ……」
「おい、寝るなよ。寝るなら、さっきの質問に答えてからにしろ」 
「うん……、分かってるよ」

 小さく欠伸をしたイグルシアスの肩を揺すると、苦笑しながら頭を優しく撫でてくる。

「……痣がなかったら、今の君には出会えなかったよね」
「闘士になってたかどうかもわかんねぇな」
「そうだね。……もし、闘士になっていなかったら、今こうして一緒にいられなかっただろうし」

 痣にちゅっと口付けて、愛情に満ちた微笑みを浮かべる。

「……痣のせいで君が辛い経験をしてきたのを知っていても、僕は君に痣があってよかったって思うんだよ。痣さえなければ、きっと今頃はお父さんの雑貨屋を継いでいて、もしかしたら奥さんと子供もいて……、平穏な人生を送れたかもしれないのに」

 静かに語りながら、イグルシアスは手の平でそっと痣に触れた。

「今のリィが大好きだから、その君を作り上げた痣も好きっていうか……、全部を愛してるよ」

 耳元に唇を寄せて低く甘い声音で囁かれ、ぶるりと体が震えてしまう。

「痣がない方がずっと幸福な人生だったとしても、そんな君の姿なんて……僕は絶対に見たくはない」

 こんな痣なんかなければと、生まれてからずっとそう思いながら生きてきた。だというのに、自分を抱き締めてくれているイグルシアスは、痣のない姿など見たくないと言うのだ。

 恐ろしく自分勝手で残酷な言葉だったが、それがどうしてか嬉しくてたまらない。

「アンタ、やっぱりろくでもねぇ男だ」 
「ふふ。そういう男は嫌い?」
「嫌いならそばに居る訳ねぇだろアホ」

 憎まれ口を叩きながらも、ぽろぽろと涙が零れてしまう。

「嬉しいの? 泣いちゃうなんてリィったら可愛い……」
「うるせぇよバカ……っ!」

 緩み切った顔で強く抱き締めてきたイグルシアスの胸元に顔を押し付け、生地に涙を吸わせながら抱き返す。

「ああもう、ほんと、可愛い!」

 可愛い可愛いと連呼しながら頭を撫で回したり頬擦りをされたりしてじゃれつかれて、いい加減にしろと唸るがまるで治まる気配がない。その間にも涙が零れて、夜着の胸元辺りがすっかり湿っぽくなってしまった。

「くそっ……! 止まんねぇ……」
「こういう涙はね、いっぱい流して良いんだよ」
「良くねぇしっ!」
「あはは! 意地っ張りだねぇ。……そんなところも、可愛いよ」

 イグルシアスは、頭や額に口付けを何度も堕として、リィの細身をきゅっと抱きしめる。

「ああ、可愛い。なんでこんなに可愛いの。たまらないなぁ……」
「可愛いしか言えねぇのかよアホっ!」
「だって、可愛いんだものしょうがないでしょ!」
「こんの、バカっ!」

 寝台の上で騒いでいるうちに、二人はいつの間にか眠りに落ちていった。





 ――イグルシアスが良く痣に触れる理由など、詳しく問うまでもないことなのだ。

「ん? だって、リィの痣だもの」

 結局のところは、この一言が全てなのである。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

白い結婚を夢見る伯爵令息の、眠れない初夜

西沢きさと
BL
天使と謳われるほど美しく可憐な伯爵令息モーリスは、見た目の印象を裏切らないよう中身のがさつさを隠して生きていた。 だが、その美貌のせいで身の安全が脅かされることも多く、いつしか自分に執着や欲を持たない相手との政略結婚を望むようになっていく。 そんなとき、騎士の仕事一筋と名高い王弟殿下から求婚され──。 ◆ 白い結婚を手に入れたと喜んでいた伯爵令息が、初夜、結婚相手にぺろりと食べられてしまう話です。 氷の騎士と呼ばれている王弟×可憐な容姿に反した性格の伯爵令息。 サブCPの軽い匂わせがあります。 ゆるゆるなーろっぱ設定ですので、細かいところにはあまりつっこまず、気軽に読んでもらえると助かります。 ◆ 2025.9.13 別のところでおまけとして書いていた掌編を追加しました。モーリスの兄視点の短い話です。

騎士が花嫁

Kyrie
BL
めでたい結婚式。 花婿は俺。 花嫁は敵国の騎士様。 どうなる、俺? * 他サイトにも掲載。

窓のない部屋の、陽だまりみたいな君

MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。 そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。 ​そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。 完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。 ​「五分だけ、ここにいさせてくれないか」 ​一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。 次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。 住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。

愛しの妻は黒の魔王!?

ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」 ――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。 皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。 身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。 魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。 表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます! 11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

【完結】言えない言葉

未希かずは(Miki)
BL
 双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。  同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。  ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。  兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。  すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。 第1回青春BLカップ参加作品です。 1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。 2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)

処理中です...