【完結】赤痣の闘士は、好きになった彼が王弟殿下だと知らなかった

ゆらり

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番外編

お抱え闘士の心得

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 ――リィが護衛として、イグルシアスの出張に付いて行った先でのこと。

「――ほぉ。実に美しい闘士だ」

 主であるイグルシアスの背後に控えているリィを見て感嘆の声を上げたのは、視察先の土地を治める年配の領主だった。覗き込むようにしてリィの姿を見る彼を前にして、イグルシアスは浮かべていた余所行きのにこやかな表情を崩さず背後に視線を向ける。

「……勿体ないお言葉を有難うございます」

 そこに見たのは、静かな口調でもって返答をして、控え目な笑みを浮かべるリィの姿だった。普段の粗雑さなど微塵も感じさせない礼儀正しい態度に、イグルシアスは少しばかり瞳を見開いた。

「いやいや。世辞ではないよ。私のところのお抱えにしたいくらいだよ」
「光栄ですが……、我が主のお傍を離れることはとても考えられません」
「おやおや。振られてしまったねぇ。残念なことだ」

 信頼に満ちた眼差しでもってイグルシアスを見上げるリィを見て、領主は声を上げて笑う。

「荒々しい闘士と聞いてましたが、なかなかどうして品がありますなぁ」
「私の、自慢の闘士だからね。さて、視察の方を始めさせてもらおうか」

 感心しきりな領主の好意的な視線を遮るようにリィの前に出ながら、イグルシアスは仕事の話を彼に振った。
 


 
 ――粗方の視察を終えて馬車へ乗り込んだ途端、イグルシアスはリィに詰め寄った。

「リィ、どうしちゃったの! 別人みたいだったよ!」
「ふん、あのくらいは出来るさ。食事の作法とか、馬の扱いなんかも習ってる最中だ」
「……誰に?」
「そりゃ、御者のおっさんや侍女連中に決まってんだろ。皆、結構色々教えてくれるぞ」 
「ええっ! いつの間にそんなに仲良くなってるのっ! 僕だって教えられるんだからね! 全部僕に聞いてよ!」
「あぁ? アンタ、そんな暇あんまりねぇだろ。無理すんなよ」
「ううっ。……そ、そうだけど……でも、リィを皆に取られちゃう……」
 
 情けない顔で子供じみた独占欲を吐露して口ごもってしまったイグルシアスを見て、リィはククッと小さく笑ってから向かいの席を立ち、対面に居る彼の隣に腰を下ろして寄り添った。

「アンタのそばに居るために、全部してんだぞ」
「えっ……?」
「闘士として仕える以上は、なにも知らねぇバカじゃ良くねぇだろ? 護衛であちこち付いてくにしたって、アンタに恥かかせるような真似はしたくねぇし」
 
 膝の上に置かれた褐色の手に触れながら、瞳を細めて柔らかく微笑む。
 
「俺は、アンタのそばに居て恥ずかしくない男になりたいんだ。どうしたらいいか、まだあんま分かんねぇけど……、出来ることはなんでもする」

 空色の瞳から目を逸らさずにそう告げると、イグルシアスは急に真顔になり見つめ返しきた。

「リィ……」

 触れていない方の手が、リィの頬にある痣をゆっくりと優しく撫で上げる。

「……君は、僕になんか勿体ない子だね」
「はは。なに言ってんだ。それは……ん……っ」

 過分な誉め言葉に苦笑して言い返す間もなく、唇を軽く重ねられた。 
 
「誰に誘われても、僕の傍から、いなくならないでね。リィ、お願いだよ……」
「バカ……。そんな、有り得ねぇよ。ん、ふ……っ」
「ん……、大好き……。こんなに好きなの、君だけだ……」

 触れ合わせ、押し付けるだけの淡く柔らかい口付けの合間に、「愛してる」だの「今すぐ抱きたいくらいだ」だのと甘い声音で囁くイグルシアス。頬にあった手は、さらりと優しく髪や耳朶を撫でていく。

 「も、やめろよ……、ん、あ……っ」

 言葉では拒みながらも、リィは僅かに頬を上気させて心地良さそうに彼の手と唇に身を任せた。

 ――しかし、それがいけなかった。

「んぅ、ふぁ……、や……」 

 少しすると口付けは次第に深く濃厚になり、触れる手の動きは大胆になっていく。水音を立てて舌を吸われ、襟元を解かれて滑り込まされた指先が、胸の尖りをくすぐってきた。

「んっ、おぃ、そんな……っ、あっ……」
「君が凄く欲しくなってしまったよ。責任取ってくれる?」
「か、帰ってからに、しろっ、んぁ……、あ、やだ、そこ、やめ……っ」

 強く抱き寄せられて腰が浮き、座席から離れた尻の狭間をイグルシアスの長い指が行き来する。布越しに感じやすい部分へ触れた指先が弧を描くと、細く引き締まった腰が傍目からも分かるほどに大きく跳ねた。

「んあっ、や……っ! はぁっ、よせって……」 
「ふふ、可愛いなぁ。……ここに触れただけで、腰が震えてるよ」
「あぅ……、んうっ……!」
 
 太腿の上にまたがる姿勢にされ、両方の手で尻たぶをくっと持ち上げるようにして揉まれる。

「うあっ! やだって、あっ! やぁっ……! このっ、バカがっ!」
「あうっ!」

 雄の顔で意地悪く尻を弄るイグルシアスに、リィは怒鳴りながら軽く頭突きを食らわせた。

「い、痛い……」

 額を押さえて怯んでいる間に素早く対面の席へと身を移し、呆れ顔で深くため息をつく。

「アンタのこういうとこ、すげぇ困る」 
「ご、ごめ」
「次やったら、ぐからな」
「なっ、何をぐの!」
「うるせぇ黙れ。アンタは堪え性を付けろ。いつか恥かくぞ……」

 騒ぐイグルシアスの口を片手で顎を鷲掴む形で塞ぎながら、リィは再び溜息をつくのだった。
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