モンスターコア

ざっくん

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コア

25話 スパイ疑惑

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「あっ」

リュートはしばらく放心したのち、何かを思い出すように意識を取り戻した。
 そして彼はモラル的に許される程度の速さで走った。

「コア、起きてる?」

 リュートは与えられた部屋の扉を開ける。彼を迎えたのは明かりの消えた静かな部屋である。

(あれ?どうしたのかな?)

 リュートは返事が無いことを不思議に思った。彼は靴を脱ぎコア置いてある机の上に向かう。
 そこには、朝に部屋を出る時と同じ状況で置かれたコアがあった。それは思念型コントローラーでパソコンと繋がれていてハンカチに包まれていた。
 これはテストを受けている間暇になるであろうコアへの心遣いである。

 リュートは朝から何も変わっておらず返事もない状況に危機感を覚えた。

(もしかしてまだ寝てる…のかな?)

 リュート募る不安を抑えコアを持ち上げる。コアをコンコンと叩く。

「起きないと砕くよ!」

リュートは痺れを切らしコアを脅す。しかし、返事が無かった。

(あれ?)

 リュートの不安は的中してしまった。全速力で部屋を飛び出す。

(病院!…違う、研究所のほうがいい!)

 配布されたカードを使って主にコアを研究している研究所の場所を調べる。

 カードは手に持ち念じることで学園内に限り様々な便利機能を扱う事ができる。
 
 モンスター専門の病院は存在する。ペットとして弱いモンスターを飼う人間も少なくないため一定の需要がある。
 しかし、コアは見たことのない特殊個体である。前に調べていたが似たような事象の記録を見つけることは出来なかった。
 そのため、詳しく調べられる研究所を選んだ。

(コアを売る事になるけど、しょうがない)

 コアは希少な個体である。希少というのはそれだけで価値がある。

「おい、それ壊れちまったのか?」

 突然背後から声をかけられた。

「…ッ!」

 リュートはその声の主から敵意を感じ取り反射的に上段蹴りを打った。
 彼は部屋を出たばかりであり、人が後ろに回る隙など無かった。

ドン!

 リュートの足は無意味に扉を蹴った。そこに人の姿はなく扉があるのみである。

「ふぅー…オラァ!」

 声の主はリュートに気づかれず背後に回っていた。彼は拳に息を吹きかけると頭を思い切り殴った。



気がつくとリュートは布団で寝かされていた。

「…ッ!」

 リュートは飛び上がり周囲を警戒する。
 辺りを見回すと、ここが取調室のような場所であることがわかった。
 後方には壁一面の鏡、手前には机か一つ椅子が二つあり、その奥に壁を向いた机と椅子が置かれている。
 あと、黒髪でポニーテールの教員教員らしき男が金属と木材で出来た怪しげな箱を持って、手前の椅子に座っている。
 自分の体や持ち物を調べる。

「…ッ!(コアがいない!)」

  リュートはコアがいない事に気づいた。

「そこ座れ、そこ」

 男は軽い口調でリュートに話しかける。何かを企んでいる事が見てとれる。
 だが、その声は部屋の前で一方的に気絶させられた時のものと一致してた。
 リュートが警戒しながらも言われるがまま席に座る。
 しかし、心の奥底では警戒が無意味であると察していた。今の自分が何をしようと結果を変えることはできない。それほどの力量の差を感じ取っていた。

「カツ丼食うか?カツ丼!」

 目を輝かせながら男が言った。何故かとても楽しそうである。

「そんな事より聞きたいことがあるんですが、」

 リュートが話を切り出そうとする。何かを期待しているのは察しがついていたが、その内容までは分からなかった。

ドン!ガチャ、

「話は、カツ丼食ってからにしろ!」

 男は椀と割り箸を箱から取り出し机の上に置いた。

「……」

 リュートは自身に向けて並べられたを見て黙り込む。

「僕の持っていたコア知りませんか?黒い楕円型の原石(※人の手が加えられていないコアだと言うことを強調する時に使う)です。」

 リュートはカツ丼を無視して話を切り出した。

「…あー、あれか、教えてやってもいいが話はカツ丼食ってからだ」

 男はすこし考えてから、ハッと気づき机の上で手を組み妙な雰囲気を醸し出しながら言った。
 ただ、カツ丼に関しては譲らなかった。

「……(そんなに食べさせたいの!?)」

 リュートは男を見つめる。何か盛られていないかと不安になってきたのである。

「自白剤とか入ってねぇから安心して食えって」

 男はお椀の蓋を外して机の上に置いた。
 部屋中にカツ丼の匂いが広がる。見た目はどうと言うことのないカツ丼である。どちらかといえば美味しそうな部類である。卵と汁を吸い込んだカツがしなっとして、肉汁が溢れてキラキラと輝いている。見た目にも気をつかっているようで非常に美しい。

 リュートは箸で切り分け一口食べる。

 食欲に負けた訳ではない。

「……(玉ねぎがいい仕事してる)」

 リュートは料理において主役よりも主役と脇役の相乗効果を楽しむタイプである。
 ただ、食欲に負けた訳は無いので二口目は我慢する。

「おい待て、それだけか?もっと食えよ!」

 男が不服そうに肘をつく。

かちゃ、

 リュートは箸置きに箸を置く。
 彼は食べたら負けたような気分になるため、グッと堪える。
 例え、実技試験後で腹が空いていても、予想以上にカツ丼が美味だったとしても意地が勝った。
 
「一口食べました。コアを返してください。人の命が掛かってるんです」

 リュートは男を睨み付ける。
 状況が一向に理解出来ない。しかし、今はコアの容体の方が重要だ。彼はリュートにとってもう大切な友達である。

「は?」

 教員は突拍子のない話に困惑する。何を言っているのか理解できないと言った感じである。

「……いや、ちょっと待ってろ」

 彼は何か思い当たることでもあるのか部屋を後にした。

(コア…大丈夫かな)

 リュートはコアの様子を心配する。ただ、リュートの荷物からコアだけが回収されたと言う事は何かしらの目的がある事を意味する。
 言葉を話すことができるコアは希少性がある。目的が終わるまで雑に扱われる事はないと予想される。しかし、解剖などは考えないものとする。

ガチャ、

 男はほんの数秒でコアを持って戻ってきた。

(すぐ近くに保管されてたのかな?よかった)

 リュートは少し安心した。確認できる限り外傷は見当たらない。

「おい、これくっ付けろ」

 男はコアを差し出す。

「はい?(くっ付ける?)」

 リュートは言葉の意味を理解できなかった。

 男はきょとんとしているリュートに痺れを切らし、真剣な顔で説明を始めた。

「いいか?会話は出来るだけ引き伸ばせ。これにはマナの違いを区別する機構がある。つまり、お前以外にやれる奴が起動するとバレる。時間の関係で調べきれなかったがおとむね間違い無い。あと、起動してから少しの間連絡は取れないが気にするな。まぁ、色々言いたいことはあるが俺を信じろ」

 男の話はリュートの状況と噛み合っていなかった。
 彼はリュートが人質を取られ脅されているものと勘違いしたのである。

「???」

 そんな事は知らないリュートは飛躍した話に困惑する。ただ、彼は話の中で一つ重要なことに気づいた。

 今思えばコアと初めて会った時、彼は目が見えていないような様子であった。手についた後に壁に叩きつけても痛がっておらず、痛覚を感じていないようにも感じた。
 それなのに、飛行船内では景色を眺め、痛みで声を上げていた。

(もしかして、結合させれば生き返る?)

 リュートは『結合魔法』を発動させて始め出会った時と同じように手の甲に乗せた。

(そういえば、コアと会って三日目、思ったよりも短い…体感だと最も長い気がする。何でだろ?)

 リュートがコアを取り付けてから少し時間が経ち、コアの元気の良い声がした。

「おはようなのじゃ!」

 コアは朝の挨拶をする。彼は気づいていなかったのか、そもそも問題がなかったのか、呑気な様子である。

「コア、大丈夫?痛みとか無い?」

 リュートがコアの容体を心配する。

「何のことじゃ?」

 コアは状況が理解できないと言った様子である。

「ねぇ、丸一日くらい寝っぱなしで…切っても叩いても反応なくて、死んでるんじゃ無いかって気が気じゃなかっんだよ」

 リュートがコアの置かれた状況を説明する。その際、コアのあっけらかんとした態度にイラッとしてからかう。

「なっ…切っ…!?わしの体大丈夫なのじゃ!?どこをどうやって切っ、え?」

 コアは混乱のあまり言葉がおぼつかなくなる。

「まぁ、それは冗談だけど、心配したのは本当だから。次、同じ事があったら…黒歴史拡散させるよ」

 リュートは心配した分コアをからかう事で憂さ晴らしをする。

「なっ…そんな恐ろしい事を!人としての情はないのじゃ!?」

 コアは悪魔の所業に対して抗議する。だが、何故かリュートの決意は固かった。

「…無いわけじゃ無いけど、僕はやるよ」

 リュートはコアの抗議を退けた。

「ぐぬぬ…それよりもここど…うわぁ!誰じゃお主!」

 コアは抗議を一旦諦めての目で辺りを見回す。そして、男を見つけ驚き声を上げた。

「言うと思うか?お前が言え」

 男は冷たい目でコアを見つめる。

「いいぞ。わしはコアじゃ。そこのリュートを敬愛し従順なる従者じゃ!…元は巨大な牛じゃが…」

 コアは意外な事にノリノリで自己紹介をする。しかし、その途中で壁を叩くかなの様な大きな音が話を遮った。

ドン! ドン! ドン!

 その音はリュートからして後方から発せられている。
 後方のミラーはひび割れ、部屋は大きく揺れる。合わせて部屋全体にミシミシという音が鳴る。

「隣うるさいのじゃが…ん?お?お主、その目といい髪といいにてるのじゃ。もしや血縁に『クオン トウカ』と言うものおらんか?探しているのじゃ」

コアが男に尋ねた。

「何ぜお前に話さなきゃいけないんだ?」

 男はコアの質問には答えなかった。ただ、先程よりもピリピリとした雰囲気を纏っている様に感じられる。

「そんなピリピリしてどうしたのじゃ?」

 コアが男の態度に疑問を持ち聞き返す。

「じゃあ、何故…(姉貴の事を知ってんのか?)いや、人とどう言う関係…」

 男はコアを不振に思って警戒する。

ドン!

 男の言葉を遮り部屋の扉が勢いよく開いた。

「リオン!ソイツは黒よ!ぶっ殺しなさい!」

 女性の教員が扉を蹴破り中に入って来た。彼女は部屋に入るなりリュートを睨み襲いかかって来た。

(えっ!?)

 リュートはその女性(トウカ)を見て驚愕する。何故なら、彼女がコアの記憶で見たコアが最後に戦った女性と同じ容姿をしていたからである。

「…ッ!」

 男性教員(リオン)がリュートとトウカの間に割って入り彼女の手を掴む。

「邪魔しないで!」

 彼女は掴まれた腕をゴキゴキと鳴らしながら無理やり体を動かす。そして、反対の手に流水のナイフを形成しリュートに攻撃を仕掛けてきた。

 「おい待て!」

 リオンはかなり焦った様子でトウカを咎める。しかし、彼女のナイフはリュートに迫っていた。

「うっ…!いっ…」

 リュートは恐怖のあまり反射的に目を瞑ってしまう。しかし、気がつくと彼は部屋の角で尻餅をついていた。

「話が飛び過ぎだ!コイツは黒じゃねぇ!決めつけるなら根拠を言え!」

 リオンはトウカを押し返す。

「放しなさい!そっちじゃないわよ。こっち」

 トウカは掴まれた手を振り解くと、その手でコアを指さした。
 人間の可動域を裕に超えた動きをした彼女の腕だが、痛めている様子はなく問題なく機能している。

「今、調べてるところだろうが!お前がドア開けたせいで外と連絡で取れちまうじゃねえか!」

 リオンが感情的になって言い返す。その間も彼はリュートとトウカの間に立ち戦闘体制をとっている。

「そんなの心配いらないわ。コイツ諜報員じゃないもの!」

 トウカはコアに攻撃を仕掛ける。

「おい!」

 リオはがトウカを止めるべく取っ組み合う。

「おう、久しぶりなのじゃ!」

 コアがトウカに話しかけた。彼はこの状況でさえも怖気付かず太々しく振る舞っている。

「黙れ、」

 トウカが小さく呟く。

「何がどうなってる!?お前ら知り合いか?」

「いいえ、知らないわ」



「ソイツが諜報員じゃないなら根拠を言え!お前はいつもいつも言葉が足らねんだよ!言葉にしなくても分かってもらえると思うな!」

 リオンがトウカを睨みつける。
「弟でしょ!それくらい察しなさい!」
女が男にせり寄っていく。
「分かるわけねーだろ。どれだけ自分がアブノーマルか分かってんのか!?バカが!」
リオンが立つ純な罵倒した。
「はぁ!?学生の時あんたの方がずっと成績悪かったでしょ!」
女が顔を真っ赤ににして言い返す。
「あんなので頭の良し悪しが分かるわけねぇよ!教員の言うこと聞いてる脳死良い子ちゃんなら頭良いのか!?」
リオンが煽るように言った。
「そうよね、遅刻魔、トラブルメーカーの問題児のあなたが妥当な評価されるわけ無いものね。で、遅刻魔、トラブルメーカー、露出覗き教通り魔の豚がバカじゃないと?」
トウカが見下すような目で言った。
「おい!最後に変なの入ったぞ!?てか、露出教はお前だろ、痴女が。」
リオンがツッコミを入れたあと急に冷静になって言った。しかし、最後の言葉で空気が変わった。
「その悪口はダメよ。私も好きでやってるわけじゃないの。恥ずかしいのずっと我慢して戦って来たのよ。訂正しなさい。」
急に顔が真顔になり静かになったトウカだが、リュートの目には人を超越した怪物が一瞬にして戦闘態勢になったように感じた。知らない方がいい事もあるとはこう言う事言うのだろう。この怪物が本気で暴れたら比喩でも何でもなく余波だけで死んでしまうことをリュートが全身で感じ取った。
「い」
ドゴーン!
「やいや…そんな事ないのじゃ?」
コアが言葉を言い終わる頃には床には大きなヒビが円状に広がっており、トウカが頭を叩きつけられて地に伏し、まな板の上の鯛のように伸びていた。
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