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vs秘密結社クロノス
76話 シルビア.4 破滅者
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日が落ち、空がオレンジ色に染まり始めた頃。シルビアはある館に入った。早朝にシルと別れたのだが着いたのは夕方となった。
そこは付近の物件と比べて豪勢である。しかし、屋敷と呼ぶには少し小さく質素であった。そして、しばらく使われていないため庭の長い草で荒れ、蔦が伸び壁に張っている。
彼女がドアを開けてを玄関で靴を脱ぐ。昨日取り戻した体力は追っ手との戦いでほとんど使い知ってしまった。
「ただいま…」
その声は暗く寂しかった。だが、透き通ってよく響いた。ここが彼女の声とは比べ物のにならないほど暗く寂しい静寂に包まれていたからだ。
シルが作った本と布に包まれた彼の魔核を地面に置く。剣は置かずに持っておく。
分かっていた。使われていない家で出迎えなぞあるはずは無い。そもそも探してくれているかどうかも分からない。小さすぎる希望だった。
瞳に涙が浮かび始めた。もし昨日、シルに出会わなければ孤独感に耐え切れず泣き崩れていただろう。
ここから幸せになれるのだろうか?
「ッ……」
左手で右肩を強く握った。癖というかルーティンというか、普段は心を奮起させるため使っていた。ただ、今回はそれだけじゃどうにもならないようだ。
だが少し冷静になれた。
何故、ご主人様(久遠 龍樹)はあの様な凶行に至ったのか…
彼は合理性を突き詰めたような人だった。理由なく行動を起こす人では無い。必ず要因があるはずだ。だが、それが分からない。
「なんで…!」
自身の無知さに嫌気がさす。原因の究明以前に知らないことが多すぎる。
「うっ…!…?」
腹の辺りに衝撃を受けた。始めは何が何だか分からなかったがすぐに理解した。何者かが飛び込んで来たのだ。
「敵しゅ…う?」
目を向けるとお姉様が自身の腹に顔を埋め抱きついていた。
「……」
彼女は静かにシルビアの服を濡らしていた。少し痛いと思うほど力強く抱擁する。だが、攻撃の意は感じ取れずそれどころかその腕は慈愛に満ちていた。
「…お姉様?何で…?」
シルビアはこの状況を理解できず尻込みする。受け入れられない絶望を突きつけられたわけではない。むしろ、飛び上がるほどの朗報、救いであった。
しかし、”お姉様がそこに居るはずがない”と、そう思っていた。いや、今もそう思っている。
「よかった。本当によかった…!」
彼女は一度頭を上げてシルビアの顔を見ると、今度は彼女の頭を胸元まで持っていき、また強く抱きしめた。涙が彼女の顎を伝いシルビアの髪の上に流れ落ちる。彼女の涙は枯れること無く流れ続ける。
寝る間も惜しんで探し回ったのだろう。髪の毛はボサボサ、元々綺麗だったドレスもしわくちゃになっている。体臭も少し臭かった。
「……」
シルビアは受け入れることにした。抵抗せずにされるがまま流れに身を任せた。彼女から後悔ととてつもない安堵が伝わってくる。それだけで自分は愛されているのだと自覚させられる。現実逃避するには十分すぎるほど幸せだった。
でも、それでも、嬉しい…
「…それにしても、こんな美女と美少女を同時に裏切るなんて…島流しにでもしてやろうかしら」
声色はいつもの彼女そのままだった。冗談混じりで相手を元気づけるそのんな声。ただ、シルビアの心を感じ取る能力が全く別のものを感じ取った。
それは戦場を体験した事のない彼女にとって少々刺激の強いものだった。
「え?お姉様?」
顔を離し彼女の顔を確認しようとする。しかし、さらに強く引き寄せられ表情を見ることは叶わなかった。
「ごめんね、今は見られたくないの。きっと怖い顔してるから」
ぐちゃぐちゃになった複雑な思念と感情が流れ込んで来た。怒りと失望。切なさと苦しみ。信頼と疑念。そして、誓い。先程の慈愛に満ちた感情とは全くの別物である。
きっと、ご主人様の事を考えているのだ。
「私が全部終わらせるから、少し待ってて」
彼女はシルビアの頬と頭に撫でると、目線を合わせ笑顔を送る。まるでこれから戦場に向かうかのようだ。少なくても身内に会いに行く時の雰囲気では無い。
お姉様が味方になってくれる。それは嬉しい。だが…
「お姉様はそれでいいのですか?」
お姉様(久遠 真奈)はご主人様(久遠 龍樹)を愛している。男女の関係としてである。
「ねぇ、ダメ男はね、手綱を握ってやらないとダメなのよ。大丈夫、皆んな待ってるわ。帰りましょ」
彼女はシルビアの手を引いて館を出る。
何故か諭されるてしまった。
「待ってる…のですか?」
不安が募る。つい昨日、自分はそこで殺されかけた。しかも、実行したのはそこの主人だ。帰ったら全員が敵なんて事があってもおかしくない。
それに…私が味方であるとは限らない
「…そうね。今日はここで寝ましょ。少し掃除すれば寝室くらいは使えるようになるはずよ」
手を掴んだままUターンする。箒と塵取りを取り出して二階に向かった。
「…分かりました」
気を使わせてしまった。お姉様が言うからには、今は城の方が安全なのだろう。それに、あれだけの事件の後だ、大量の仕事があるに決まっている。ただ、今更意見を変えたって無駄なのだろう。
ーーーーー
ある程度片付けた後、二人はホコリ臭いベットに潜った。あの頃と全く違うのに、どこか懐かしい匂いがした。
シルビアにマナがすり寄る。
「ち、近いです」
「そういえば最近ご無沙汰だったな~って」
マナは頬を擦り合わせ、抱きついてイチャイチャし始めた。対応に多少困る程度に苛烈なスキンシップだ。仕舞いには髪の毛のにおいを嗅いで『女の子の匂いがする』と言い出した。
「やめてください…」
口では邪険にするが抵抗はしなかった。それどころか、自ら近づいていく。少しでも長く人肌を合わせていたかった。
「ねぇ、何もしないで。あの剣と魔石どこで手に入れたか知らないけど、付け焼き刃で勝てる相手じゃない」
シルビアを抱きしめる手が一層強くなる。彼女の不安が、恐怖がより一層強くなる。安心を強く求めシルビアを束縛する。
「……」
何も言わなかった。お姉様の言いたいことも分かる。だが、私はご主人様が敵か味方か確かめなければならない。
しかし、それを感じ取られたのだろうか。彼女は説得か助言か、思い出話か話を始めた。
「アイツは私と初めて会った時、互いに高め合う事を条件に親友の契約を持ちかけてきたの」
「いきなり何ですか?」
「それは、どんどん規模が拡大して国を乗っ取ったり、世界対戦に参戦した。その時は同じ方向を向いてたから気付かなかったのね。」
タツキの話をする彼女は少し寂しそうだった。
あれ?
何かが引っかかった。違うがした。お姉様は二人の繋がりが契約だけだと言った。昔の彼はそうだったかもしれない。だが、少なくても今は違う。その考えならあの時にあの言葉は出ないだろう。
確かめるべきだろうか?
「…ッ!」
シルビアは刺客を正確に捕捉した。
来た!今までと違う。敵意がない?いや、だからお姉様も気付けないのか。
「トイレに行ってきます」
シルビアはマナの腕から抜け出しベットから出る。掴まれたマナの手を振り解いて。
ーーーーー
シル、力を貸して。マッチに火をつけるように魔石を親指で擦った。
ガシャン!ドンッ!
シルビアがドアノブをぶち壊し扉を蹴破る。木製の扉は激しく音を出して飛んだ。中央で折れ曲がり金具部は大きく歪んだ。
「こんなところに大聖堂?なるものがあるとは知りませんでした。覚悟してください、ご主人様!」
場所はドランゴという商会の本部の地下である。
「今、少し忙しいから座って待っててくれ」
龍樹は右腕だけで書類を片付けている。しかし、それを感じさせない速度で紙が移動している。
彼は隻腕は”名誉の負傷で、戦いの歴史”なのだそう。左肩から下の腕が無い。
「扉を蹴り飛ばしたのは敵対の意を示したつもりですが?と言うか私、殺されかけているのですが?」
「3日足らずでここに辿り着くか…10年は掛かると予想していたが、マズイな」
「予想が甘いんじゃないですか?」
「シル、誰が予想外だと言った。最良と最悪な予測で最悪よりに近づいただけだ。俺は迷っている。お前は■■■か、それとも■■■■■か」
「私は人間です。この世界で生まれましたから」
「どうやってここに来た?」
「襲って来た人達を返り討ちにして聞きました」
「…そうか。間違いであって欲しかった。お前は俺の知っているシルとへ違う。声も仕草も性格も」
彼は剣を構えた。そして、左の裾を切り裂き義手の正体を露出させた。彼の義手は金色に輝き浮遊する三つのリンクだった。
相対するシルビアも剣を構える。彼女の構えは剣を持って1日とは思えないほど洗練されている。そして、手は返り血でベッタリと濡れていた。
ーーーーー
それから80年後の3月下旬、時期的にはリュートと出会う前のコアがトウカと戦闘をしている最中である。
時は全てを癒した。悲しみも寂しさも、もう彼女を縛り付けることはない。
「いってらっしゃい。頑張って」
森の中の質素な掘建小屋で1人の男がシルビアを見送る。
彼は色素が抜けたような真っ白な髪と異質な瞳をしていた。瞳の色はオレンジ色でさほど珍しくない。だが、一点異質な点がある瞳孔が太陽を模っ多様な形をしているのだ。
「ただ言われたことを約束通りにするだけです」
「そうだな、今回は確認だったな、本番はまだ先だ気楽にがんばれ」
彼の左腕には火と目を模った腕輪が腕に嵌められていた。それは、タツキの使用していた三つのリングのうちの一つである。
「はいはい」
シルビアは布に包まれたシルのコアを取り出した。年月の経過の現れか白い布はすっかり薄汚れてしまっている。だが、それを取り外すと中にはシルのコアがあの日と変わらない姿でそこにあった。
「…ッ!」
シルビアは彼が見守る中、意を決してコアを直接鷲掴みにする。昔は少し触れただけだったが、剣術やマナの使い方が驚くほど向上した。今回は確実に精神にも影響が出るだろう。
「うっ…!」
直後、シルビアは激しい頭痛に襲われた。それもそのはずコアに秘められた知識、思想、感情などシルの全てが彼女のちっぽけな脳に注ぎ込まれたのだ。
彼女の脳が悲鳴を上げる。全て受け止める事は叶わず大量の知識を取りこぼす。幸い必要な知識は目立たされていた。重要なものを取りこぼしたりはしなかった。
「…えっ?」
ある情報が目に止まる。それは目立たされていなかった。しかし、他の何よりも彼女の目を引いた。
”隻腕の学園長”
鼓動が速くなるのを感じる。何かの勘違いであって欲しいそう願った。学園長に片腕はいなかったはずだ。
他を切り捨て深く潜り込む。
”初代学園長 タツキ”
人違いでもなかった。理解が追いつかない…。ご主人様は勝利し目的を果たしたのか?それとも、私達が勝利しながらも彼の動機に納得し生かしたのか?
そうだ!二代目…ッ!
”二代目学園長 ナギ”
そんな…
二代目であるナギは龍樹と真奈の2人の子供である。つまり、母体であるお姉様の生存が確定した。少なくてもシルのいた時代では二人が生きていたのだ。
(…ッ!)
私は何をっ!?
たかが、現実逃避のために家族の死を望んだのだ。なんて浅ましいく身勝手なのだろうか。これは自分の行いが招いた結果だと言うのに。
「おい、大丈夫か!?」
彼は膝をつき急激にやつれたシルビアを心配し駆け寄る。手を伸ばし彼女の安否を伺う。
「…大丈夫です。役割は果たします」
彼女は彼の手を振り払い代わりに肩を掴んだ。彼を支えにして体制を保つ。頭は未だ痛みを発し、メンタルももうボロボロだが止める理由がない。
もう遅いのだ。後悔なんて贅沢だ。起きてしまった事を変えることはできないのだから。せめて与えられた役割を、それが私に出来る全て。
「……えっ?」
その時、運命を決めるパンドラの箱が開いた、開いてしまった。シルの記憶は一筋の希望を提示した。
フフッ、フハハッ、あなたそれはやり過ぎですよ…
シルビアは背後の男に気取られぬよう必死に笑いを堪える。彼にバレてしまっては後々面倒になる。
偶然は二度訪れたのだ。それを実行すれば世界そのものを敵に回す。しかし、その混沌を超えた先に幸せが存在する。
…やり直せる!
ーーーーー
学園の上空で現在の人形が純白の光で棒を生成し、切先をシルビアに向けた。
「僕も驚いてる。でも、この世界が好きらしい。壊されたら幸せになれない」
「力尽くでどうぞ。この世界に私の幸せありません」
巨大な力が二つ衝突した。それは、今までとは規模が違う。余波だけで島を揺らし、周囲の建物を粉砕した。
その強大な力はその存在を世界中に知らしめた。
そこは付近の物件と比べて豪勢である。しかし、屋敷と呼ぶには少し小さく質素であった。そして、しばらく使われていないため庭の長い草で荒れ、蔦が伸び壁に張っている。
彼女がドアを開けてを玄関で靴を脱ぐ。昨日取り戻した体力は追っ手との戦いでほとんど使い知ってしまった。
「ただいま…」
その声は暗く寂しかった。だが、透き通ってよく響いた。ここが彼女の声とは比べ物のにならないほど暗く寂しい静寂に包まれていたからだ。
シルが作った本と布に包まれた彼の魔核を地面に置く。剣は置かずに持っておく。
分かっていた。使われていない家で出迎えなぞあるはずは無い。そもそも探してくれているかどうかも分からない。小さすぎる希望だった。
瞳に涙が浮かび始めた。もし昨日、シルに出会わなければ孤独感に耐え切れず泣き崩れていただろう。
ここから幸せになれるのだろうか?
「ッ……」
左手で右肩を強く握った。癖というかルーティンというか、普段は心を奮起させるため使っていた。ただ、今回はそれだけじゃどうにもならないようだ。
だが少し冷静になれた。
何故、ご主人様(久遠 龍樹)はあの様な凶行に至ったのか…
彼は合理性を突き詰めたような人だった。理由なく行動を起こす人では無い。必ず要因があるはずだ。だが、それが分からない。
「なんで…!」
自身の無知さに嫌気がさす。原因の究明以前に知らないことが多すぎる。
「うっ…!…?」
腹の辺りに衝撃を受けた。始めは何が何だか分からなかったがすぐに理解した。何者かが飛び込んで来たのだ。
「敵しゅ…う?」
目を向けるとお姉様が自身の腹に顔を埋め抱きついていた。
「……」
彼女は静かにシルビアの服を濡らしていた。少し痛いと思うほど力強く抱擁する。だが、攻撃の意は感じ取れずそれどころかその腕は慈愛に満ちていた。
「…お姉様?何で…?」
シルビアはこの状況を理解できず尻込みする。受け入れられない絶望を突きつけられたわけではない。むしろ、飛び上がるほどの朗報、救いであった。
しかし、”お姉様がそこに居るはずがない”と、そう思っていた。いや、今もそう思っている。
「よかった。本当によかった…!」
彼女は一度頭を上げてシルビアの顔を見ると、今度は彼女の頭を胸元まで持っていき、また強く抱きしめた。涙が彼女の顎を伝いシルビアの髪の上に流れ落ちる。彼女の涙は枯れること無く流れ続ける。
寝る間も惜しんで探し回ったのだろう。髪の毛はボサボサ、元々綺麗だったドレスもしわくちゃになっている。体臭も少し臭かった。
「……」
シルビアは受け入れることにした。抵抗せずにされるがまま流れに身を任せた。彼女から後悔ととてつもない安堵が伝わってくる。それだけで自分は愛されているのだと自覚させられる。現実逃避するには十分すぎるほど幸せだった。
でも、それでも、嬉しい…
「…それにしても、こんな美女と美少女を同時に裏切るなんて…島流しにでもしてやろうかしら」
声色はいつもの彼女そのままだった。冗談混じりで相手を元気づけるそのんな声。ただ、シルビアの心を感じ取る能力が全く別のものを感じ取った。
それは戦場を体験した事のない彼女にとって少々刺激の強いものだった。
「え?お姉様?」
顔を離し彼女の顔を確認しようとする。しかし、さらに強く引き寄せられ表情を見ることは叶わなかった。
「ごめんね、今は見られたくないの。きっと怖い顔してるから」
ぐちゃぐちゃになった複雑な思念と感情が流れ込んで来た。怒りと失望。切なさと苦しみ。信頼と疑念。そして、誓い。先程の慈愛に満ちた感情とは全くの別物である。
きっと、ご主人様の事を考えているのだ。
「私が全部終わらせるから、少し待ってて」
彼女はシルビアの頬と頭に撫でると、目線を合わせ笑顔を送る。まるでこれから戦場に向かうかのようだ。少なくても身内に会いに行く時の雰囲気では無い。
お姉様が味方になってくれる。それは嬉しい。だが…
「お姉様はそれでいいのですか?」
お姉様(久遠 真奈)はご主人様(久遠 龍樹)を愛している。男女の関係としてである。
「ねぇ、ダメ男はね、手綱を握ってやらないとダメなのよ。大丈夫、皆んな待ってるわ。帰りましょ」
彼女はシルビアの手を引いて館を出る。
何故か諭されるてしまった。
「待ってる…のですか?」
不安が募る。つい昨日、自分はそこで殺されかけた。しかも、実行したのはそこの主人だ。帰ったら全員が敵なんて事があってもおかしくない。
それに…私が味方であるとは限らない
「…そうね。今日はここで寝ましょ。少し掃除すれば寝室くらいは使えるようになるはずよ」
手を掴んだままUターンする。箒と塵取りを取り出して二階に向かった。
「…分かりました」
気を使わせてしまった。お姉様が言うからには、今は城の方が安全なのだろう。それに、あれだけの事件の後だ、大量の仕事があるに決まっている。ただ、今更意見を変えたって無駄なのだろう。
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ある程度片付けた後、二人はホコリ臭いベットに潜った。あの頃と全く違うのに、どこか懐かしい匂いがした。
シルビアにマナがすり寄る。
「ち、近いです」
「そういえば最近ご無沙汰だったな~って」
マナは頬を擦り合わせ、抱きついてイチャイチャし始めた。対応に多少困る程度に苛烈なスキンシップだ。仕舞いには髪の毛のにおいを嗅いで『女の子の匂いがする』と言い出した。
「やめてください…」
口では邪険にするが抵抗はしなかった。それどころか、自ら近づいていく。少しでも長く人肌を合わせていたかった。
「ねぇ、何もしないで。あの剣と魔石どこで手に入れたか知らないけど、付け焼き刃で勝てる相手じゃない」
シルビアを抱きしめる手が一層強くなる。彼女の不安が、恐怖がより一層強くなる。安心を強く求めシルビアを束縛する。
「……」
何も言わなかった。お姉様の言いたいことも分かる。だが、私はご主人様が敵か味方か確かめなければならない。
しかし、それを感じ取られたのだろうか。彼女は説得か助言か、思い出話か話を始めた。
「アイツは私と初めて会った時、互いに高め合う事を条件に親友の契約を持ちかけてきたの」
「いきなり何ですか?」
「それは、どんどん規模が拡大して国を乗っ取ったり、世界対戦に参戦した。その時は同じ方向を向いてたから気付かなかったのね。」
タツキの話をする彼女は少し寂しそうだった。
あれ?
何かが引っかかった。違うがした。お姉様は二人の繋がりが契約だけだと言った。昔の彼はそうだったかもしれない。だが、少なくても今は違う。その考えならあの時にあの言葉は出ないだろう。
確かめるべきだろうか?
「…ッ!」
シルビアは刺客を正確に捕捉した。
来た!今までと違う。敵意がない?いや、だからお姉様も気付けないのか。
「トイレに行ってきます」
シルビアはマナの腕から抜け出しベットから出る。掴まれたマナの手を振り解いて。
ーーーーー
シル、力を貸して。マッチに火をつけるように魔石を親指で擦った。
ガシャン!ドンッ!
シルビアがドアノブをぶち壊し扉を蹴破る。木製の扉は激しく音を出して飛んだ。中央で折れ曲がり金具部は大きく歪んだ。
「こんなところに大聖堂?なるものがあるとは知りませんでした。覚悟してください、ご主人様!」
場所はドランゴという商会の本部の地下である。
「今、少し忙しいから座って待っててくれ」
龍樹は右腕だけで書類を片付けている。しかし、それを感じさせない速度で紙が移動している。
彼は隻腕は”名誉の負傷で、戦いの歴史”なのだそう。左肩から下の腕が無い。
「扉を蹴り飛ばしたのは敵対の意を示したつもりですが?と言うか私、殺されかけているのですが?」
「3日足らずでここに辿り着くか…10年は掛かると予想していたが、マズイな」
「予想が甘いんじゃないですか?」
「シル、誰が予想外だと言った。最良と最悪な予測で最悪よりに近づいただけだ。俺は迷っている。お前は■■■か、それとも■■■■■か」
「私は人間です。この世界で生まれましたから」
「どうやってここに来た?」
「襲って来た人達を返り討ちにして聞きました」
「…そうか。間違いであって欲しかった。お前は俺の知っているシルとへ違う。声も仕草も性格も」
彼は剣を構えた。そして、左の裾を切り裂き義手の正体を露出させた。彼の義手は金色に輝き浮遊する三つのリンクだった。
相対するシルビアも剣を構える。彼女の構えは剣を持って1日とは思えないほど洗練されている。そして、手は返り血でベッタリと濡れていた。
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それから80年後の3月下旬、時期的にはリュートと出会う前のコアがトウカと戦闘をしている最中である。
時は全てを癒した。悲しみも寂しさも、もう彼女を縛り付けることはない。
「いってらっしゃい。頑張って」
森の中の質素な掘建小屋で1人の男がシルビアを見送る。
彼は色素が抜けたような真っ白な髪と異質な瞳をしていた。瞳の色はオレンジ色でさほど珍しくない。だが、一点異質な点がある瞳孔が太陽を模っ多様な形をしているのだ。
「ただ言われたことを約束通りにするだけです」
「そうだな、今回は確認だったな、本番はまだ先だ気楽にがんばれ」
彼の左腕には火と目を模った腕輪が腕に嵌められていた。それは、タツキの使用していた三つのリングのうちの一つである。
「はいはい」
シルビアは布に包まれたシルのコアを取り出した。年月の経過の現れか白い布はすっかり薄汚れてしまっている。だが、それを取り外すと中にはシルのコアがあの日と変わらない姿でそこにあった。
「…ッ!」
シルビアは彼が見守る中、意を決してコアを直接鷲掴みにする。昔は少し触れただけだったが、剣術やマナの使い方が驚くほど向上した。今回は確実に精神にも影響が出るだろう。
「うっ…!」
直後、シルビアは激しい頭痛に襲われた。それもそのはずコアに秘められた知識、思想、感情などシルの全てが彼女のちっぽけな脳に注ぎ込まれたのだ。
彼女の脳が悲鳴を上げる。全て受け止める事は叶わず大量の知識を取りこぼす。幸い必要な知識は目立たされていた。重要なものを取りこぼしたりはしなかった。
「…えっ?」
ある情報が目に止まる。それは目立たされていなかった。しかし、他の何よりも彼女の目を引いた。
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鼓動が速くなるのを感じる。何かの勘違いであって欲しいそう願った。学園長に片腕はいなかったはずだ。
他を切り捨て深く潜り込む。
”初代学園長 タツキ”
人違いでもなかった。理解が追いつかない…。ご主人様は勝利し目的を果たしたのか?それとも、私達が勝利しながらも彼の動機に納得し生かしたのか?
そうだ!二代目…ッ!
”二代目学園長 ナギ”
そんな…
二代目であるナギは龍樹と真奈の2人の子供である。つまり、母体であるお姉様の生存が確定した。少なくてもシルのいた時代では二人が生きていたのだ。
(…ッ!)
私は何をっ!?
たかが、現実逃避のために家族の死を望んだのだ。なんて浅ましいく身勝手なのだろうか。これは自分の行いが招いた結果だと言うのに。
「おい、大丈夫か!?」
彼は膝をつき急激にやつれたシルビアを心配し駆け寄る。手を伸ばし彼女の安否を伺う。
「…大丈夫です。役割は果たします」
彼女は彼の手を振り払い代わりに肩を掴んだ。彼を支えにして体制を保つ。頭は未だ痛みを発し、メンタルももうボロボロだが止める理由がない。
もう遅いのだ。後悔なんて贅沢だ。起きてしまった事を変えることはできないのだから。せめて与えられた役割を、それが私に出来る全て。
「……えっ?」
その時、運命を決めるパンドラの箱が開いた、開いてしまった。シルの記憶は一筋の希望を提示した。
フフッ、フハハッ、あなたそれはやり過ぎですよ…
シルビアは背後の男に気取られぬよう必死に笑いを堪える。彼にバレてしまっては後々面倒になる。
偶然は二度訪れたのだ。それを実行すれば世界そのものを敵に回す。しかし、その混沌を超えた先に幸せが存在する。
…やり直せる!
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そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
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