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vs秘密結社クロノス
75話 シルビア.3 出会い 2/21 少し手直ししました
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雨の吹き込む薄暗い裏路地。偶然か境遇故の必然か彼女と彼は出会った。
一人は10代前半のように見える幼き少女。もう一人は全身を淡黄色の装甲で覆った身長190cmはある人型の人形。
ぱちゃ、ぱちゃ、
少女は路地裏に迷い込んだ時点で頭から血を流し今にも倒れそうであった。
靴は履いておらず、美しかったであろう空色の服は血や泥や草で汚れている。
元は布装飾のふんだんに使われたドレスだったのだろうが、ズタズタに切り裂かれ見る影もない。刃物による傷もありただことでないことが窺える。
ぱちゃ、ぱちゃ、
少女はふらふらと揺れでうつむいたまま進む。まるで目的を失ったロボットのようだ。
青い瞳は霞がかっており生きる気概というものを感じられない。さらに、金色の髪と美しい容姿も相まって精巧に作られた人形のようにも見える。
対して本物の人形は捨てられたかのように壁にもたれ掛かっていた。遠目から見ても目立たないほど風景と同化しており、まるで古くなって捨てられたマネキンである。
「き、君はだれ?」
ギギィと軋むような音を出しながら顔を上げる。声は機械音声のようであり、荒れとノイズが酷く聞き慣れないイントネーションもあいまり、聞き取るにはそれなりの集中を必要とする。
彼もまた傷だらけである。刺突、斬撃、打撃、あらゆる攻撃を受けた後がある。傷跡は元々の色であったであろう純白が露出している。だが、どの跡にもバリの無い。わざわざ研磨したような特殊な傷跡をしている。
ぱちゃ…
少女は立ち止まりる。首を動かす気力もない彼女は青い瞳だけを動かして人形を見る。雨に濡れ涙の有無は判別できないが、目元は確かに腫れていた。
「私は…私は、人間ですか?」
「ちょっと聞かせて。」
一人の人間と一体のモンスターが互いに警戒を解くのに時間は必要なかった。
馬が合ったと言う事もある。しかし、最も大きい要因は二人には帰るべき場所が無いことだった。彼らは自身の居場所、家族を失うことで支えきれなくなった重い心を押しつけられる拠り所を必要としていたのだ。
二人は暗い闇で本音を語り合った。お互いのことは全く知らない。だが、それ故に自分勝手に振る舞うことができた。相手の事情なぞ一切考慮しない。自分のためだけの語らいである。
相手の悔悟をそれっぽい言葉で慰めて”必要とされる満足感”を得る。自身の悲嘆を吐き出し”癒しの同情”を乞う。
互いに自分の事しか考えていない身勝手な傷の舐め合いであった。
孤独からの脱却。それが彼らの心を急速に軽くした。やがて重い荷物が減り、互いに相手を気遣うほどの余裕が出て来た頃。
「へクシュ!」
少女が一際大きなくしゃみをした。
一人では無いと安心して気が抜けたのだろう。彼女は風邪をひいた。
ばちゃ。
限界ギリギリであった彼女の体は安心を得たことによって、力が抜け人形の方へと崩れて落ちた。
他人だけでなく自分ですら信用出来ない状態の中で、唯一信頼しても良いと思える相手が現れたのだ。その相手がもたらす安心はとても小さいものであったが、今の彼女が自分の人生を預けるには十分大きく公平だった。
ーーーーー
「大丈夫?」
「食べて寝れば1日で治ります」
あの後、抱えられどこかの室内に運び込まれた。意識もあり完全に信用したわけでは無いが、その時は目を瞑って誰かに体を預けたい気分だった。
「ねぇ、お粥食べる?」
「今、どこから取り出しました?」
お粥が空中に出現したように見えた。何の前兆もなく自然にポンと…。しかも、隠そうともしていない。
何も考えていないのか。それとも信頼してくれているのだろうか。
ぽかぽかの部屋にふかふかのベット、ほかほかのお粥さらにぴかぴかの食器、清潔で無駄なものが一切ない。病人の看病にこれほど適した場所はない。
少し目を閉じただけでこの空間に放り込まれるのは流石に正気に戻りかける。
「いいから、いいから、食べる?」
彼はスプーンで粥を掬い、少女の口へと持っていく。
「いただきます。」
スプーンを奪って手の甲に一滴落とした。その後、少し経ってから口の中に入れた。だが、すぐに飲み込まず口に含んだままにする。
これはパッチテストであり毒見役としての癖である。口の中で味わい毒の有無を判別する。
「どう?美味し…あ゛っ」
彼は急速に焦り出した。
「…?」
「忘れてた。お口痛くない?ぺッ出来る?ぺッ」
「ぶがでふ」
「ほらこの布に…何で!?言っとくけど毒だよ
口に含んだ際に少し刺激を感じた。だが、彼女はその正体に心当たりがあった。アルコールである。粥に入れるのは少々不思議だが別に気にするほどでは無い。
この国では綺麗な水を十分に得られない。そのため飲料水は一般的に度数の低い酒となっている。よって飲み慣れており、多少濃度が濃くても吐き出す理由がない。
「んぐ。アルコールですか?この国では酒を水と呼びます。それに私は30を超えてます。未成年飲酒には当たりません」
「ん?あぁ…ん?あっ、ん?…ちょっと待って!症状似てるけど違うから!」
彼は言葉に矛盾を感じ取りはしたが追求はしなかった。それどころでは無いとのもあるが、互い傷に深入りにないようにする適切な距離感を保つよう行動した結果である。
「んぐ、確かに、んぐ。少し、んぐ。火照って、んぐ。来ました。んぐ」
彼女は粥を一口一口を飲むように流し込む。よほど口に合ったのか口に運ぶ速度はどんどん速くなる。
彼いわくアルコールではないらしいが、1日ぶりのまともな食事だ。食べないと言う選択肢は無かった。
「ねぇ、体に異変が出るなら食べるの止めよ?拒否反応すごいことになるよ?」
「んぐ。絶品でした。おかわりください」
彼が嘘を付いていないのは分かっていた。しかし、身体に症状は現れず、むしろ、体調が回復していっている。それが、結果であり現実だ。
「…。皿は返さなくていいよ。魔法で作ったものだからそのうち消える」
彼は椅子を生成して不貞腐れて座った。一応で粥を作り出したものの渡すのは渋っていた。
「そうなんですか。あぁ、もしかして、さっきの粥も?」
「そう!だから…ッ!」
「それなら大丈夫ですよ。私達は魔法の水飲めるので」
「え?この時代に?ウソ……。」
「本当ですが?ん」
空になった突き出して皿を揺らし、おかわりを要求する。
そのあと、少し間が空いた。
「ねぇ…」「私、死のうとしてました。」
二人の話の出だしが被った。相手も何か言いたそうにしていたがが、少女は無理やり話を続けた。
「…だから、ありがとうございます」
彼に出会うことが出来なければ自分は全てを諦めていたかもしれない。コレばかりはお姉様でも変えられなかった。
「……」
彼は何の話か分からないと言わんばかりに硬直した。
「……?まさかっ!」
「てへっ、」
あれほど語り合ったのにも関わらず話を殆ど聞いていなかったのだ。
「まぁ、いいです。体が重くなって来ました、寝ます」
友好を維持するために努力を必要としない、そんなその場限りの友人。いいかもしれない。自由で自然でその場のノリで楽しめる。
「おやすみーー」
彼は部屋についていた明かりを消した。
ーーーーー
「ん、んーー!」
普段よりもよく眠れたかもしれない。大きく体を伸ばす。乾いた朝日が浴びれればさらに完璧だった。
左に目を向けるとマネキンが椅子に腰を据えていた。空中に本を生成し1ページ1ページ丁寧に付け加えている。
「随分と心地良そうだね」
「ぐっすり寝れば大抵のことは吹き飛びます。ところで誰です?」
彼は体も声も変わっており、全くの別人だった。
「僕だよ僕!君が寝ている間に壊れてたところ直したんだ。どう?かっこいいでしょ!」
彼の装甲のは傷を綺麗に修復し、色も真っ白に変わっていた。関節の軋む音も無くなっていて、ノイズだらけで聞き取りずらかった声も青年6女性4割のような聞き取りやすい声に変わっていた。
「黄ばんで出んですね…」
「言い方!歴戦の証とか言ってほしいな。これでも全世界で最強だったんだから。それじゃ…」
バリン!
彼は自身の手で胸を貫いた。胸の装甲は割れ地面に落ちる。元々そのつもり直したのか貫かれた胸の傷は綺麗な円形をしていた。
そして中からひび割れた核を取り出した。
「はい、あげる」
「はっ!?えっ!?いらないです。戻してください!」
「フハハ、もう手遅れ。僕は30分くらいで機能を停止する。もう手遅れだよ」
「な、何で!?」
「元々、明日の昼には死ぬ予定なんだよ。これはもう覆らない。本当に厄介なことをされた。4000年以上は生きたんだ1日くらい大した差はない」
「だからって!」
彼女は核を押し返す。彼の胸に戻そうとするが彼の手に邪魔をされうまくいかなかない。力に圧倒的な差があった。
「そんなに乱暴はしないで欲しいな。伝えなければならない事が沢山ある。さっきも言ったけど寿命が30分しかないんだ」
「イヤです。あなたは私の友として共に生きる人です!数年置きに合うそんなところまで想像してました!」
「君は今から遺言を言う人間の口を塞ぐ気?」
「私をその気にさせておいて、のうのうと逝くつもりですか?」
「こんな可愛い娘に看取られるんだ。幸せだし悔いも無い。だから受け取ってほしい」
「思ってもいないくせに…そんな嘘で私が動くとでも!?私の力くらいは気づいているでしょう!?あなたが強欲で表せないほど欲深く身勝手で何一つ失うことを良しとしない化け物。諦めるという言葉はあなたが一番嫌いな言葉です!」
「見えすぎると言うのは厄介なんだ。君はまだ助かるかもしれないと考えている。でも僕はそうじゃない」
「だからって!」
「だったら君はその心を読み取る能力で覗くといい。」
「………」
言い返せなかった。彼の言う通り私には心を読み取る能力がある。
好きだとか嫌いだとか、何を伝えたいとか、言葉とか。そう言った本音を覗き見ることができる。
だから、知ってしまった。彼が助からないと言える理由も、彼の考えを変えられないという現実も。私では彼を救えない。彼を動かす言葉や行動は思いつけなかった。彼はもう私に全てを託すつもりなのだ。
「いい子だ。しっかり聞いて。詳しいことは本に書いたから大事なところだけね。これはこの世界に余る代物だ。それほどの力を持つ。デメリットも君たちが使っているものとは比較にならない。だから時が来るまで使わないでほしい。具体的には80年後、黒牛と紫鼠が学園という施設を襲撃する。前者は交渉で解決するが、後者はそうはいかない。消し飛ばして欲しい。後は…これはいいや。虎の尾を踏まない事を祈っている」
「…はい。」
もう変えることができないのならば全てが終わった後、彼の望む幸せを叶えるのがせめてもの恩返しとなる。
「ありがとう、頼んだよ」
彼は本と一本の質素な剣を重ねて渡した。二つとも魔法で作られた物のようだが、先ほどの皿とは雰囲気が違った。
「屈辱です」
この時のシルビアは彼との出会いが今後どれだけの影響を持つか知る由も無かった。
一人は10代前半のように見える幼き少女。もう一人は全身を淡黄色の装甲で覆った身長190cmはある人型の人形。
ぱちゃ、ぱちゃ、
少女は路地裏に迷い込んだ時点で頭から血を流し今にも倒れそうであった。
靴は履いておらず、美しかったであろう空色の服は血や泥や草で汚れている。
元は布装飾のふんだんに使われたドレスだったのだろうが、ズタズタに切り裂かれ見る影もない。刃物による傷もありただことでないことが窺える。
ぱちゃ、ぱちゃ、
少女はふらふらと揺れでうつむいたまま進む。まるで目的を失ったロボットのようだ。
青い瞳は霞がかっており生きる気概というものを感じられない。さらに、金色の髪と美しい容姿も相まって精巧に作られた人形のようにも見える。
対して本物の人形は捨てられたかのように壁にもたれ掛かっていた。遠目から見ても目立たないほど風景と同化しており、まるで古くなって捨てられたマネキンである。
「き、君はだれ?」
ギギィと軋むような音を出しながら顔を上げる。声は機械音声のようであり、荒れとノイズが酷く聞き慣れないイントネーションもあいまり、聞き取るにはそれなりの集中を必要とする。
彼もまた傷だらけである。刺突、斬撃、打撃、あらゆる攻撃を受けた後がある。傷跡は元々の色であったであろう純白が露出している。だが、どの跡にもバリの無い。わざわざ研磨したような特殊な傷跡をしている。
ぱちゃ…
少女は立ち止まりる。首を動かす気力もない彼女は青い瞳だけを動かして人形を見る。雨に濡れ涙の有無は判別できないが、目元は確かに腫れていた。
「私は…私は、人間ですか?」
「ちょっと聞かせて。」
一人の人間と一体のモンスターが互いに警戒を解くのに時間は必要なかった。
馬が合ったと言う事もある。しかし、最も大きい要因は二人には帰るべき場所が無いことだった。彼らは自身の居場所、家族を失うことで支えきれなくなった重い心を押しつけられる拠り所を必要としていたのだ。
二人は暗い闇で本音を語り合った。お互いのことは全く知らない。だが、それ故に自分勝手に振る舞うことができた。相手の事情なぞ一切考慮しない。自分のためだけの語らいである。
相手の悔悟をそれっぽい言葉で慰めて”必要とされる満足感”を得る。自身の悲嘆を吐き出し”癒しの同情”を乞う。
互いに自分の事しか考えていない身勝手な傷の舐め合いであった。
孤独からの脱却。それが彼らの心を急速に軽くした。やがて重い荷物が減り、互いに相手を気遣うほどの余裕が出て来た頃。
「へクシュ!」
少女が一際大きなくしゃみをした。
一人では無いと安心して気が抜けたのだろう。彼女は風邪をひいた。
ばちゃ。
限界ギリギリであった彼女の体は安心を得たことによって、力が抜け人形の方へと崩れて落ちた。
他人だけでなく自分ですら信用出来ない状態の中で、唯一信頼しても良いと思える相手が現れたのだ。その相手がもたらす安心はとても小さいものであったが、今の彼女が自分の人生を預けるには十分大きく公平だった。
ーーーーー
「大丈夫?」
「食べて寝れば1日で治ります」
あの後、抱えられどこかの室内に運び込まれた。意識もあり完全に信用したわけでは無いが、その時は目を瞑って誰かに体を預けたい気分だった。
「ねぇ、お粥食べる?」
「今、どこから取り出しました?」
お粥が空中に出現したように見えた。何の前兆もなく自然にポンと…。しかも、隠そうともしていない。
何も考えていないのか。それとも信頼してくれているのだろうか。
ぽかぽかの部屋にふかふかのベット、ほかほかのお粥さらにぴかぴかの食器、清潔で無駄なものが一切ない。病人の看病にこれほど適した場所はない。
少し目を閉じただけでこの空間に放り込まれるのは流石に正気に戻りかける。
「いいから、いいから、食べる?」
彼はスプーンで粥を掬い、少女の口へと持っていく。
「いただきます。」
スプーンを奪って手の甲に一滴落とした。その後、少し経ってから口の中に入れた。だが、すぐに飲み込まず口に含んだままにする。
これはパッチテストであり毒見役としての癖である。口の中で味わい毒の有無を判別する。
「どう?美味し…あ゛っ」
彼は急速に焦り出した。
「…?」
「忘れてた。お口痛くない?ぺッ出来る?ぺッ」
「ぶがでふ」
「ほらこの布に…何で!?言っとくけど毒だよ
口に含んだ際に少し刺激を感じた。だが、彼女はその正体に心当たりがあった。アルコールである。粥に入れるのは少々不思議だが別に気にするほどでは無い。
この国では綺麗な水を十分に得られない。そのため飲料水は一般的に度数の低い酒となっている。よって飲み慣れており、多少濃度が濃くても吐き出す理由がない。
「んぐ。アルコールですか?この国では酒を水と呼びます。それに私は30を超えてます。未成年飲酒には当たりません」
「ん?あぁ…ん?あっ、ん?…ちょっと待って!症状似てるけど違うから!」
彼は言葉に矛盾を感じ取りはしたが追求はしなかった。それどころでは無いとのもあるが、互い傷に深入りにないようにする適切な距離感を保つよう行動した結果である。
「んぐ、確かに、んぐ。少し、んぐ。火照って、んぐ。来ました。んぐ」
彼女は粥を一口一口を飲むように流し込む。よほど口に合ったのか口に運ぶ速度はどんどん速くなる。
彼いわくアルコールではないらしいが、1日ぶりのまともな食事だ。食べないと言う選択肢は無かった。
「ねぇ、体に異変が出るなら食べるの止めよ?拒否反応すごいことになるよ?」
「んぐ。絶品でした。おかわりください」
彼が嘘を付いていないのは分かっていた。しかし、身体に症状は現れず、むしろ、体調が回復していっている。それが、結果であり現実だ。
「…。皿は返さなくていいよ。魔法で作ったものだからそのうち消える」
彼は椅子を生成して不貞腐れて座った。一応で粥を作り出したものの渡すのは渋っていた。
「そうなんですか。あぁ、もしかして、さっきの粥も?」
「そう!だから…ッ!」
「それなら大丈夫ですよ。私達は魔法の水飲めるので」
「え?この時代に?ウソ……。」
「本当ですが?ん」
空になった突き出して皿を揺らし、おかわりを要求する。
そのあと、少し間が空いた。
「ねぇ…」「私、死のうとしてました。」
二人の話の出だしが被った。相手も何か言いたそうにしていたがが、少女は無理やり話を続けた。
「…だから、ありがとうございます」
彼に出会うことが出来なければ自分は全てを諦めていたかもしれない。コレばかりはお姉様でも変えられなかった。
「……」
彼は何の話か分からないと言わんばかりに硬直した。
「……?まさかっ!」
「てへっ、」
あれほど語り合ったのにも関わらず話を殆ど聞いていなかったのだ。
「まぁ、いいです。体が重くなって来ました、寝ます」
友好を維持するために努力を必要としない、そんなその場限りの友人。いいかもしれない。自由で自然でその場のノリで楽しめる。
「おやすみーー」
彼は部屋についていた明かりを消した。
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「ん、んーー!」
普段よりもよく眠れたかもしれない。大きく体を伸ばす。乾いた朝日が浴びれればさらに完璧だった。
左に目を向けるとマネキンが椅子に腰を据えていた。空中に本を生成し1ページ1ページ丁寧に付け加えている。
「随分と心地良そうだね」
「ぐっすり寝れば大抵のことは吹き飛びます。ところで誰です?」
彼は体も声も変わっており、全くの別人だった。
「僕だよ僕!君が寝ている間に壊れてたところ直したんだ。どう?かっこいいでしょ!」
彼の装甲のは傷を綺麗に修復し、色も真っ白に変わっていた。関節の軋む音も無くなっていて、ノイズだらけで聞き取りずらかった声も青年6女性4割のような聞き取りやすい声に変わっていた。
「黄ばんで出んですね…」
「言い方!歴戦の証とか言ってほしいな。これでも全世界で最強だったんだから。それじゃ…」
バリン!
彼は自身の手で胸を貫いた。胸の装甲は割れ地面に落ちる。元々そのつもり直したのか貫かれた胸の傷は綺麗な円形をしていた。
そして中からひび割れた核を取り出した。
「はい、あげる」
「はっ!?えっ!?いらないです。戻してください!」
「フハハ、もう手遅れ。僕は30分くらいで機能を停止する。もう手遅れだよ」
「な、何で!?」
「元々、明日の昼には死ぬ予定なんだよ。これはもう覆らない。本当に厄介なことをされた。4000年以上は生きたんだ1日くらい大した差はない」
「だからって!」
彼女は核を押し返す。彼の胸に戻そうとするが彼の手に邪魔をされうまくいかなかない。力に圧倒的な差があった。
「そんなに乱暴はしないで欲しいな。伝えなければならない事が沢山ある。さっきも言ったけど寿命が30分しかないんだ」
「イヤです。あなたは私の友として共に生きる人です!数年置きに合うそんなところまで想像してました!」
「君は今から遺言を言う人間の口を塞ぐ気?」
「私をその気にさせておいて、のうのうと逝くつもりですか?」
「こんな可愛い娘に看取られるんだ。幸せだし悔いも無い。だから受け取ってほしい」
「思ってもいないくせに…そんな嘘で私が動くとでも!?私の力くらいは気づいているでしょう!?あなたが強欲で表せないほど欲深く身勝手で何一つ失うことを良しとしない化け物。諦めるという言葉はあなたが一番嫌いな言葉です!」
「見えすぎると言うのは厄介なんだ。君はまだ助かるかもしれないと考えている。でも僕はそうじゃない」
「だからって!」
「だったら君はその心を読み取る能力で覗くといい。」
「………」
言い返せなかった。彼の言う通り私には心を読み取る能力がある。
好きだとか嫌いだとか、何を伝えたいとか、言葉とか。そう言った本音を覗き見ることができる。
だから、知ってしまった。彼が助からないと言える理由も、彼の考えを変えられないという現実も。私では彼を救えない。彼を動かす言葉や行動は思いつけなかった。彼はもう私に全てを託すつもりなのだ。
「いい子だ。しっかり聞いて。詳しいことは本に書いたから大事なところだけね。これはこの世界に余る代物だ。それほどの力を持つ。デメリットも君たちが使っているものとは比較にならない。だから時が来るまで使わないでほしい。具体的には80年後、黒牛と紫鼠が学園という施設を襲撃する。前者は交渉で解決するが、後者はそうはいかない。消し飛ばして欲しい。後は…これはいいや。虎の尾を踏まない事を祈っている」
「…はい。」
もう変えることができないのならば全てが終わった後、彼の望む幸せを叶えるのがせめてもの恩返しとなる。
「ありがとう、頼んだよ」
彼は本と一本の質素な剣を重ねて渡した。二つとも魔法で作られた物のようだが、先ほどの皿とは雰囲気が違った。
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この時のシルビアは彼との出会いが今後どれだけの影響を持つか知る由も無かった。
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