モンスターコア

ざっくん

文字の大きさ
88 / 94
vs秘密結社クロノス

77話 vs.半使徒.1

しおりを挟む
 学園の中心で二つの巨大な力が衝突した。しかし、それはシルとシルビアでは無かった。
 片方はシルで間違い無いのだが、もう一つは純白に輝く細長い巨大な生物であった。ワニのような顔に鹿のようなツノを生やし、トカゲのような体をしている。
 それはシルに力で圧勝し一方的に突き飛ばした。

 何だアレは…

 その生物は一言で表すなら歪であった。キメラと言う名が相応しい。ただ、それだけでは無い元の生物を利点を享受できていない。
 ワニの口は短く咬合力が小さくなっている。鹿のツノは後ろに伸びてもはや装飾以外の意味がない。体はトカゲというよりヘビに足を生やしたもので、足の短さからしてまともに地面を歩くことはできないだろう。

「気持ち悪い…」

 作られたものとしての親近感はあるものの、機能性を完全無視したその姿には不快感を覚える。
 シルは瓦礫の山から飛び起き、顔に付いた土埃を拭き捨てる。シルビアとその周囲を守るように浮かぶ奴を観測する。

 奴は内包しているマナの量だけならシルを遥かに超える。数ヶ月前に学園を襲撃した紫鼠よりも多い。しかし、異様な事にその大量のマナを巨体を浮かべ操ることにしか使っていない。

 は何を血迷ってこんな物を…

 通常、身体のほぼ全てがマナで構成されている外界生物モンスターは普段呼吸にすら魔法を使っている。人間が微弱な電気信号で体を動かすように、彼らにとって魔法とは無意識で行う簡単な行為であるからだ。
 それなのに体を浮かす事以外に魔法を使用していない。つまり、人工的に作られた生命体である。

 モンスターアレは壊していいや。だけど、シルビアアレはどうしよう。中途半端に強いんだよね

 シルは心配をした。このままでは彼女は殺されてしまうからだ。

 次の瞬間、グレーが堕ちた。外界のマナを取り込むために生やした管は切り落とされ、背中に一太刀を入れられ意識が断たれる。

 そして、落ちる管の上にはトウカの分体が群をなしてひしめき合っていた。
 トウカの分体は衣類を一切身に付けず流水のナイフを手に持っている。羞恥心よりも戦いを優先し魔法で武器を形成した。
 そして、その大群の先頭にはミーニャがいた。服がボロボロだが毒液で二股の尻尾を生やし、ビルを両断できそうなほど長い刀を形成し構えていた。間合いはちょうど切先がシルビアに届く程度に調節されている。

 あのアイツらは平気で無茶をす…

「ん?えっーと…」

 次々に襲いくる事件の情報量の多さに処理が追いつかず思考がフリーズする。

 北から生徒ドロール、1-4の教員、獣耳の襲撃者シモンの三つ巴が建築物を破壊しながらコロシアム内に乱入する。
 ドロールと襲撃者の目は充血しており、血走っている。マナも荒ぶり暴走している。とても、健康な状態には見えないが、それ故に強大な力を手にしている。
 教員は首元の大動脈が切られ、血が吹き出している。しかし、本人は気にすることもなくその血液を魔法で操作し戦っている。
 
 上空でシルビアに狙いを定めるトウカ達を窓の奥から突如現れた赤い液体が意図的に彼女らを蹂躙した。ナイフしか持たない分体は抵抗もできず次々と貫かれていく。

 地下から巨大な人形のロボットが飛び出した。重機の操縦席に手が生えたような見た目で背中にジェットバックと両手に剣とミニガンを装備している。
 それは、ドルトンの手駒を圧倒し天高く打ち上げている。シルが処分したものとは別個体だがそれと同等の能力を持っていた。
 コックピットにシルの製作者(ウィンパパ)と五人の生徒が搭乗している。だが、六人で乗るにはかなり窮屈そうである。

 そして、シルビアの背後にリオンが突如出現する。トレンチナイフを構えており1秒にも満たないわずかな時間で彼女の首を掻き切れるだろう。

「…は?」

 シルは光の槍を形成し振りかぶる。シルビアの命を守るためリオンを妨害と赤い液体の採取の一石二鳥を狙った。
 しかし、その時に事が起こった。

 シルビアと白い怪物がが消えた。

 そして、上空に集結したそれらはウィンと生徒の乗っているロボットを除きした。全ては力なく地に落ちる。
 トウカの分体、リオン、ミーニャ、ドロール、1-4の教員、シモン、ドルトンの手駒その2が胴体を真っ二つに切られ、赤い液体は思考性のないただの液体になっている。

 何が起きた!?

 結果は見ての通りだ。しかし、過程が無い。シルの目を持ってしても観測ができなかった。

「…ッ!」

 焦りが行動を乱す。ドロールとシモンの二人を治療すべきだろうか。父親ウィンの保護に動くべきだろうか。それとも元凶シルビアを捜索すべきだろうか。
 だが、それらはすぐ解決した。

ドサッ… 

 シルビアが落ちた。場所は人形ロボットの下辺りでコロシアムのほぼ中央である。彼女には多数の弾痕があり、ロボットのミニガンに撃たれたのが見て取れる。

「ハハ…」

 乾いた笑いが出た。唐突に何が起こったのかを理解した。確認のためタイマーを確認する。すると、体内時計と十分の誤差が発生していた。

 どうしろと…

 シルは手立てを失った。今の彼にはどうすることも出来ない。

 地面に倒れたシルビアの姿は様変わりしていた。ぱっと見は純白の怪物を体に纏っているように見える。だが、体内は荒れに荒れていた。三つのマナと思考、二つの肉体が混ざり合う。

はお父様とお母様とのを…あれ?でもは目の前にいる。あれ?でも“魔法を発動させないと”…何で魔法を?」

 意識ははっきりとしているが、それ故に自己の矛盾をはっきりと認識する。そして、3つの意識の綱引きの結果、単純で大きなものに軍配が上がった。

「魔法の発動を…」

 シルビアが浮かぶ。弾痕から弾丸が押し出され、傷は切り傷に至るまで白い物質で埋まった。
 彼女は正気である。三つの意識は一つとなった。彼女は歪な一匹の生物として完成した。

 シルビアはもう手遅れだ

「さよなら」

 シルはすぐに動いた。倒れ拒否反応に苦しむシルビアの首を掻き切っ…

 ガキン!

 シルの形成した棒が大きな音を立てて折れた。既視感があった。全く歯が立たない。
 シルは初めて恐怖という感情を理解する。今まではどんなトラブルも一人でどうにか出来ていた。対応策が思いつかないことなど無かった。

 グレーあの女の!早くリュウかコアアイツをッ…!

 機械の手足で逃走を試みるが身体が動かない。そこでやっと気づいた、体とコアが繋がっていないことに。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

処理中です...