6 / 13
就活編
他人
しおりを挟む
銃を所持する男性の後ろに続き、家の中に入る。
玄関の先には数メートルほど廊下が続いていた。前方奥にドアが見えており、そこに向かって男性はズカズカと歩いていく。
男性は完全に背後を向いていた。隙だらけにもほどがある。だが、それは覚悟を決めた証拠だ。
この先に何が待っているのか。
健太も腹をくくることにした。
玄関からまっすぐ行った先にあるドアに男性が手をかける。おそらくこの先はリビングだろうか。
ドアノブを回そうとしたところで、男性の手が止まる。
「開けるぞ」
振り返らずに男性が問うてくる。
「あぁ」
短く答える。
健太の返答を確認し、男性はドアノブを回し、ゆっくりとドアを開ける。
ついに何があったのか分かる。
「!?」
ドアの向こうはリビングになっていた。ダイニングキッチンとでも言うのか。キッチンがリビングと繋がっている。
そのリビングの中央の床には血まみれの死体が"一匹"倒れていた。
正直度肝を抜かれる。
「い、犬.....?」
倒れていたのは、体長1m近い大型犬だった。
そして、なんとなく見覚えがある。
「コイツ、ハ◯ジに出てたよな?」
「セントバーナードだ。モデルにはなってるかもな」
さも当然のように淡々と男は答える。
正直この大きさの犬が血塗れで横たわる姿は中々に衝撃的だ。
さすがにコレは予想できない。
「病気だった」
男性がふとポツリと話す。
まるで、たまたま言葉が零れ落ちたかのように。
「病気?」
聞き返す。
「あぁ。気管虚脱っていう難病だった。気管が潰れて呼吸が出来なくなるんだとよ。原因不明、治療法も分からない。早期発見しけおけば、まだ良かったらしいが遅かった」
「そっか.....」
「ずっとコイツは苦しんでいた。徐々に体は弱っていき、それでも懸命に日々を生きていた。ただ、俺はその姿を見ているのが辛かった」
黙ってヒゲの男の話に耳を傾ける。
ヒゲの男は大型犬の前に片膝をつき、その血濡れた体毛をそっと手でなぞる。
「せめて、苦しまずにあの世に連れて行ってやりたかった」
男の目から温かいものがポロポロと零れ落ちる。赤く染まった犬の肌を濡らしていく。
ヒゲの男の想いを伝えるように。
痩せ細ったその背中に語りかける。
「なるほど。だから殺したわけか。気持ちは確かに分からなくもない。苦しんで死ぬって分かってて、その姿を見てるのは辛いわな」
頭の中で言葉を練りながら、最適な言葉を捻り出す。
せめて、"ハッピーエンド"で最後は終われるように。
「でも、結局ソレはアンタのエゴだ」
「!」
「コイツが本当に死にたかったのかどうかは人間の俺らじゃ分からないし、もしかしたら最後まで本気で生きたかったかもしれない」
「......」
男性は黙って健太の話を聞いている。
頭に浮かんだ言葉をそのまま口にしようか一瞬躊躇う。だが、言わなければ伝わらない。
「そして.....それは、他人のペットなら尚更だ」
「!?」
男性がばっと振り返る。
赤く滲んだその目は見開かれていた。
躊躇なく伝える。
「その犬、アンタのじゃないだろ?」
玄関の先には数メートルほど廊下が続いていた。前方奥にドアが見えており、そこに向かって男性はズカズカと歩いていく。
男性は完全に背後を向いていた。隙だらけにもほどがある。だが、それは覚悟を決めた証拠だ。
この先に何が待っているのか。
健太も腹をくくることにした。
玄関からまっすぐ行った先にあるドアに男性が手をかける。おそらくこの先はリビングだろうか。
ドアノブを回そうとしたところで、男性の手が止まる。
「開けるぞ」
振り返らずに男性が問うてくる。
「あぁ」
短く答える。
健太の返答を確認し、男性はドアノブを回し、ゆっくりとドアを開ける。
ついに何があったのか分かる。
「!?」
ドアの向こうはリビングになっていた。ダイニングキッチンとでも言うのか。キッチンがリビングと繋がっている。
そのリビングの中央の床には血まみれの死体が"一匹"倒れていた。
正直度肝を抜かれる。
「い、犬.....?」
倒れていたのは、体長1m近い大型犬だった。
そして、なんとなく見覚えがある。
「コイツ、ハ◯ジに出てたよな?」
「セントバーナードだ。モデルにはなってるかもな」
さも当然のように淡々と男は答える。
正直この大きさの犬が血塗れで横たわる姿は中々に衝撃的だ。
さすがにコレは予想できない。
「病気だった」
男性がふとポツリと話す。
まるで、たまたま言葉が零れ落ちたかのように。
「病気?」
聞き返す。
「あぁ。気管虚脱っていう難病だった。気管が潰れて呼吸が出来なくなるんだとよ。原因不明、治療法も分からない。早期発見しけおけば、まだ良かったらしいが遅かった」
「そっか.....」
「ずっとコイツは苦しんでいた。徐々に体は弱っていき、それでも懸命に日々を生きていた。ただ、俺はその姿を見ているのが辛かった」
黙ってヒゲの男の話に耳を傾ける。
ヒゲの男は大型犬の前に片膝をつき、その血濡れた体毛をそっと手でなぞる。
「せめて、苦しまずにあの世に連れて行ってやりたかった」
男の目から温かいものがポロポロと零れ落ちる。赤く染まった犬の肌を濡らしていく。
ヒゲの男の想いを伝えるように。
痩せ細ったその背中に語りかける。
「なるほど。だから殺したわけか。気持ちは確かに分からなくもない。苦しんで死ぬって分かってて、その姿を見てるのは辛いわな」
頭の中で言葉を練りながら、最適な言葉を捻り出す。
せめて、"ハッピーエンド"で最後は終われるように。
「でも、結局ソレはアンタのエゴだ」
「!」
「コイツが本当に死にたかったのかどうかは人間の俺らじゃ分からないし、もしかしたら最後まで本気で生きたかったかもしれない」
「......」
男性は黙って健太の話を聞いている。
頭に浮かんだ言葉をそのまま口にしようか一瞬躊躇う。だが、言わなければ伝わらない。
「そして.....それは、他人のペットなら尚更だ」
「!?」
男性がばっと振り返る。
赤く滲んだその目は見開かれていた。
躊躇なく伝える。
「その犬、アンタのじゃないだろ?」
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる