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社交界美人カルテットの皆さんは偉大なり
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私の歌を聞き、一段と美しい音が鳴るようになったマキオンパールマラカスを鳴らして、しばし楽し気に過ごしていたクリストハルト様。
今日は少しくらい好きだった曲の話が出来るだろうかと、ほんのちょっと期待していたのだけれど、そうはいかなかった。
なぜならやっぱり彼は忙しいらしい。
今日はこの進化したマラカスを私に見せたかったから来ただけなのだとか。
笑顔があまりにも爽やかだったから、悪魔に気を取られている雰囲気はなかった。
そしてマラカスで頭がいっぱいだったということは、ヒロインに気を取られている雰囲気すらない。
それはそれでいいのだろうかという疑問はあるけれど、その辺はこちらから口を出せる問題ではないのでそっとスルーするしかない。
今も帰る途中でヒロインに遭遇して会話の一つや二つ交わすのでは? とクリストハルト様の背中を目で追っていたけれど、ヒロインどころかその辺の美しいご令嬢たちにだって目もくれずに会場から出て行った。
現在はバルコニーの下で私に向かって一度大きく手を振ってから馬車のほうへと走っている。本当に忙しいんだなぁ。
本人がとても楽しそうだし、なんだか大型犬に懐かれたようでこちらも楽しいのだが、会う時間がたったこれだけだというのは、少し寂しい気もする。
しかし、寂しいと思ったところで彼と私は単なるお友達なわけで、寂しいだなんて口にしてしまえば迷惑にもなりかねない。
いつかまた、偶然でもなんでもいいからゆっくりお話が出来たらいいなぁ。
……なんて、遠い空を眺めながら物思いに耽っていたところ、背後から現れた弟に声を掛けられた。
「暇なら帰ろう」
なんとも疲れ切った声だった。
「分かった。ん? それは?」
声どころか疲れた顔をしているなと思いながら弟の顔を見た後で、彼の手元にある紙に気が付いた。
「新しい取引先」
どうやら私に見せてくれるつもりで持っていたらしい。
「え」
はい、と渡された瞬間、目に飛び込んできたのは想像以上にたくさん並んだお名前たちで、私は思わず目をひん剥いてしまった。多い多い。
「俺はあの美人たちのことを甘く見ていたのかもしれない」
そんな弟の呟きに「私もかもしれない」と小さく零す。
いや、もちろん知っていた。彼女たち社交界美人カルテットの皆さんの影響力もファッションリーダーっぷりも。
でも、だからといってここまでたくさんの人たちがこのマキオンパールに興味を示すとは思っていなかった。
内心「ひえぇ」とビビりつつ、当事者である社交界美人カルテットの皆さんやマリカさんに軽い挨拶をして帰る準備を進めていく。
「これはもう、将来安泰なのでは?」
こんなにも取引先が増えたんだから、と、私はほくそ笑んだのだけれども、弟は小さく首を傾げた。
「まぁ、この人たちは流行に流されただけだから、長続きする取引ではないだろうね」
なるほど。それもそうだ。流行なんて一過性のものだもの。
「ただ、この後だよ」
弟が言うには、この流行でマキオンパールの特徴に気が付いてくれた服飾業界の人たちがどれだけいるか。
マキオンパールは他の宝石と比べて軽いこと。だからドレスにたくさん縫い付けても重くならない。
そして並べて縫い付けると、綺麗な音が鳴ること。だからただ歩くだけで優雅な雰囲気が演出できる。
その辺の特徴と有用性に気が付いてくれた服飾業界の人たちが長期契約を結んでくれれば将来安泰……とまではいかないけれど、今よりは生活に余裕が出るかもしれない、とのこと。
「どちらにせよもう少し百合畑を増やす必要はあるね」
一過性とはいえしばらくは取引が増えるだろうから百合を増やしたほうがいいのだろう。
「でもそんな簡単に増やして大丈夫?」
早々に飽きられたりしたら余って廃棄しなきゃならないのでは? と首を傾げるも、弟はにっこりと笑って「そんなことにはならない」と言い切った。
「実は服飾関係以外にも新しい取引先が増えててさ」
え、いつの間に? もしや弟、有能では?
「そっちのほうがちゃんと軌道に乗れば、うちはもっと安定するし、あんなの必要なくなるんだよなぁ」
弟の有能っぷりに恐れおののいていたところで、弟が小さくそう呟いた。どこか遠くを睨みつけながら。
何を睨んだんだ? と弟の視線を追ってみると、そこにはフランシス・ヴィージンガーの姿があった。距離があるので奴はこちらに気付いていないようだ。
「あれが必要なくなるってことは、私は嫁に行かなくてもいいってこと?」
「嫁に行かなくてもいいっていうか、好きな人と結婚していいってことなんだけど、嫁に行かないつもりなの?」
「行かなくてもいいなら一人で好きなことして生きていくのもありだなぁと思ったり思わなかったり」
「……本気で言ってる?」
「え」
弟の顔がマジでドン引きした時の顔だった。
いや、貴族の娘が嫁に行かないなんてことにあったらヤバいってことは分かってるよ。世間体的なこともあるし。
でもそんなドン引きすることなくない?
「可哀想に……」
え、そんな同情することなくない?
「私別にそんな可哀想じゃないって」
「いやあんたじゃなくて」
は? そんな怒ることなくない? なんだお前。姉に向かってあんたってお前。
「ところでクリストハルトさんには会った?」
「は? あー、ちょっとだけ。なんか忙しそうだった」
「……そっか」
なんか哀れな者を見る目で見られた気がする。なんて思いながら馬車に乗り込んだ。
そして弟はもう一度、さっきの名簿に視線を落とす。
「そういえば、うちも今後忙しくなるだろうけど、あっちの人はもっと忙しくなると思うよ」
「あっちの人?」
「ほら、その飾り作った人」
あぁ、マリカさんか。
「この飾りにも、マキオンパールみたいに……?」
「うん。マキオンパールは数人で収穫して選別して出荷するが、その飾りは一人で手作りだよね?」
「言われてみれば」
「助けを求められたらきちんと答えてあげるべきだと思うよ。……元凶なんだし」
……やっぱり私が元凶かぁ!
今日は少しくらい好きだった曲の話が出来るだろうかと、ほんのちょっと期待していたのだけれど、そうはいかなかった。
なぜならやっぱり彼は忙しいらしい。
今日はこの進化したマラカスを私に見せたかったから来ただけなのだとか。
笑顔があまりにも爽やかだったから、悪魔に気を取られている雰囲気はなかった。
そしてマラカスで頭がいっぱいだったということは、ヒロインに気を取られている雰囲気すらない。
それはそれでいいのだろうかという疑問はあるけれど、その辺はこちらから口を出せる問題ではないのでそっとスルーするしかない。
今も帰る途中でヒロインに遭遇して会話の一つや二つ交わすのでは? とクリストハルト様の背中を目で追っていたけれど、ヒロインどころかその辺の美しいご令嬢たちにだって目もくれずに会場から出て行った。
現在はバルコニーの下で私に向かって一度大きく手を振ってから馬車のほうへと走っている。本当に忙しいんだなぁ。
本人がとても楽しそうだし、なんだか大型犬に懐かれたようでこちらも楽しいのだが、会う時間がたったこれだけだというのは、少し寂しい気もする。
しかし、寂しいと思ったところで彼と私は単なるお友達なわけで、寂しいだなんて口にしてしまえば迷惑にもなりかねない。
いつかまた、偶然でもなんでもいいからゆっくりお話が出来たらいいなぁ。
……なんて、遠い空を眺めながら物思いに耽っていたところ、背後から現れた弟に声を掛けられた。
「暇なら帰ろう」
なんとも疲れ切った声だった。
「分かった。ん? それは?」
声どころか疲れた顔をしているなと思いながら弟の顔を見た後で、彼の手元にある紙に気が付いた。
「新しい取引先」
どうやら私に見せてくれるつもりで持っていたらしい。
「え」
はい、と渡された瞬間、目に飛び込んできたのは想像以上にたくさん並んだお名前たちで、私は思わず目をひん剥いてしまった。多い多い。
「俺はあの美人たちのことを甘く見ていたのかもしれない」
そんな弟の呟きに「私もかもしれない」と小さく零す。
いや、もちろん知っていた。彼女たち社交界美人カルテットの皆さんの影響力もファッションリーダーっぷりも。
でも、だからといってここまでたくさんの人たちがこのマキオンパールに興味を示すとは思っていなかった。
内心「ひえぇ」とビビりつつ、当事者である社交界美人カルテットの皆さんやマリカさんに軽い挨拶をして帰る準備を進めていく。
「これはもう、将来安泰なのでは?」
こんなにも取引先が増えたんだから、と、私はほくそ笑んだのだけれども、弟は小さく首を傾げた。
「まぁ、この人たちは流行に流されただけだから、長続きする取引ではないだろうね」
なるほど。それもそうだ。流行なんて一過性のものだもの。
「ただ、この後だよ」
弟が言うには、この流行でマキオンパールの特徴に気が付いてくれた服飾業界の人たちがどれだけいるか。
マキオンパールは他の宝石と比べて軽いこと。だからドレスにたくさん縫い付けても重くならない。
そして並べて縫い付けると、綺麗な音が鳴ること。だからただ歩くだけで優雅な雰囲気が演出できる。
その辺の特徴と有用性に気が付いてくれた服飾業界の人たちが長期契約を結んでくれれば将来安泰……とまではいかないけれど、今よりは生活に余裕が出るかもしれない、とのこと。
「どちらにせよもう少し百合畑を増やす必要はあるね」
一過性とはいえしばらくは取引が増えるだろうから百合を増やしたほうがいいのだろう。
「でもそんな簡単に増やして大丈夫?」
早々に飽きられたりしたら余って廃棄しなきゃならないのでは? と首を傾げるも、弟はにっこりと笑って「そんなことにはならない」と言い切った。
「実は服飾関係以外にも新しい取引先が増えててさ」
え、いつの間に? もしや弟、有能では?
「そっちのほうがちゃんと軌道に乗れば、うちはもっと安定するし、あんなの必要なくなるんだよなぁ」
弟の有能っぷりに恐れおののいていたところで、弟が小さくそう呟いた。どこか遠くを睨みつけながら。
何を睨んだんだ? と弟の視線を追ってみると、そこにはフランシス・ヴィージンガーの姿があった。距離があるので奴はこちらに気付いていないようだ。
「あれが必要なくなるってことは、私は嫁に行かなくてもいいってこと?」
「嫁に行かなくてもいいっていうか、好きな人と結婚していいってことなんだけど、嫁に行かないつもりなの?」
「行かなくてもいいなら一人で好きなことして生きていくのもありだなぁと思ったり思わなかったり」
「……本気で言ってる?」
「え」
弟の顔がマジでドン引きした時の顔だった。
いや、貴族の娘が嫁に行かないなんてことにあったらヤバいってことは分かってるよ。世間体的なこともあるし。
でもそんなドン引きすることなくない?
「可哀想に……」
え、そんな同情することなくない?
「私別にそんな可哀想じゃないって」
「いやあんたじゃなくて」
は? そんな怒ることなくない? なんだお前。姉に向かってあんたってお前。
「ところでクリストハルトさんには会った?」
「は? あー、ちょっとだけ。なんか忙しそうだった」
「……そっか」
なんか哀れな者を見る目で見られた気がする。なんて思いながら馬車に乗り込んだ。
そして弟はもう一度、さっきの名簿に視線を落とす。
「そういえば、うちも今後忙しくなるだろうけど、あっちの人はもっと忙しくなると思うよ」
「あっちの人?」
「ほら、その飾り作った人」
あぁ、マリカさんか。
「この飾りにも、マキオンパールみたいに……?」
「うん。マキオンパールは数人で収穫して選別して出荷するが、その飾りは一人で手作りだよね?」
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……やっぱり私が元凶かぁ!
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